【感想】『望郷』 ねじれ双角錐群

ねじれ双角錐群『望郷』

「望郷」書影

「望郷」書影

 第二十三回文学フリマ東京にて頒布された文芸誌です。私も参加しました。この記事はネタバレなし感想記事です。まあ半分くらい宣伝です。白状すると、当日海の向こうにいるプレイで文フリにいなかったりして、自分の以外の作品は終わってから読みました。そうしたらなんか想像以上に面白かったので、おいおいこんな面白いならあと三倍は宣伝したぞと思いました。そういう思いも込めて歌いたいと思います。あと、いまなら、BOOTHで購入できるらしいです。急げ!! 完売だそうです!→Kindle版出た!

 以下が宣伝用キャッチコピーだそうです。

物語への、憧憬ーー 幻想譚、恋愛小説、SF、怪奇小説、そして、のじゃロリ狐ババア。 ねじれにねじれた渇望の末、自身が物語であると自覚する七つの短編。

 何言ってんだこいつ。「そして、のじゃロリ狐ババア」ってなんだよ。

 以下、各作品の感想です。

01「物語のない部屋」 石井僚一

――ねぇ。どこかから声がする。 私は同人誌を出そうと誘われて物語を書きはじめる。ところで物語ってなんだろう? 問いは物語を、物語は現実を示して、そう、このお話は最後の物語と最初の物語の間に生じた小さな声。

 一見して、あらすじも書き出しも、極めてメタ的に見えるが、その内実は純粋な(?)物語についての物語。確かにこれは自身が物語であると自覚する短編であると言えるのかもしれない。人類と物語の戦争。考えているうちに、夢の中でこれは夢かと問うているような気分にさせられる素敵な作品。

02「新しい動物」 小林貫

全生活史健忘の男と得体の知れない魚頭人身の女。希望と不安、秩序と混沌――すべてが混ざり合う白い街で、行き着いた果てに二人が見出す新しい世界とは。著者処女作となるスペキュレイティブ・フィクション。

 これは本当に偶然ですが、この主人公も自分が夢を見ているのかと一瞬思っていますね。「空中に巨大な鯛の活造りが浮かび上がっている」から始まる謎の白い街の描写。まさに得体の知れない虹鱒と、それに向けられるグロテスクなまでにピュアな恋愛感情。描写のレベルが高くて楽しめ、これが処女作とか書いてあるのは、あらすじでは1つ嘘を書いていいの法則が適用されている可能性が高いと僕は見ます。

03「二色の狐面」 笹帽子

僕の父は陰陽師だ。妖怪変化、魑魅魍魎の類を退治して金を取る、職業陰陽師である。職業陰陽師って流石に何だよ。父の妖狐退治に手を貸した僕は、妖狐に魅せられてしまう。もふ尻尾のじゃロリ狐ババア短編。

 拙作。良いのか? ここに載ってて良いのか? まああらすじだし何書いても平気だろと思ってのじゃロリ狐ババアとか書いたら序文とかポスターとかに普通にそのワードが引用されていて本当に反省している。

04「組木仕掛けの彼は誰」 cydonianbanana

外界を言葉としてしか認識できない病に冒されたぼくは、AR故人《島崎藤村》β版のデバッグのため温泉旅館に逗留し、そこで奇妙な失踪事件に巻き込まれる。きみとぼくと《島崎藤村》が織りなす湯けむりSF幻想譚。

 本書をまず通読した時点で、一番好きだと思ったのがこの作品。AR故人《島崎藤村》β版ってさすがになんだよ。「外界を言葉としてしか認識できない」という設定が、如何にして表現されるのかと思ったら、なるほどそういうことか、と思わせる小説ならではの技巧と考察。人名と作品名を設置し読み手をうかがうスタイルも好みです。まだ何度も読みたい良質な言語と認識のSF。

05「ユゴスに潜むもの」 伊川清三

近未来、冥王星探査に降り立った三人の宇宙飛行士。探査チームの隊長は、無名の谷の奥底に「都市」を発見した! 奇妙な都市の探索に向かった彼らが体験した出来事とは?

 クトゥルフ知識がなかったので詳しく知りませんでしたがユゴスというのはクトゥルフに出てくるそうです。そういう意味ではねじれ双角錐群に近接した題材なのかもしれない(?)。自分の読書体験から言って、こういうショートショートっぽい結末には不思議と懐かしさを感じて、変な落ち着きがあります。一方で、物語世界の雰囲気としては薄気味悪さがいい感じに漂っている、それらが両立しているSF、というかクトゥルフ。

06「香織」 国戸シャーベット

「だから僕たちはキスをいつも虹の一番高いところで済ませた」――ジャスミンの香水を愛用する香織と僕の青春の日々。読書、遊園地、ファミレス――僕たちの先にあるのは一体? どこまでも甘く、ピュアな恋愛小説。

 これはニヤニヤ笑いながら読んでしまった。「何言ってんだこいつ」って言いながら笑ってしまうどこまでも甘くピュアな恋愛小説。本当か? いやもう最初の方からスポットライトがどうのこうのとかさ、ていうかジャスミンの香り広がりすぎだろとかさ、ずるい。一方、一言で不気味さを差し込む鋭い言葉がある。センスがあるって言われそうな小説です。ところで女の子がイタリアンを大食いするのは村上春樹だと思いました。

07「器官を失ったスピンドルの形」 全自動ムー大陸

寓意だらけの丘で向日葵の海が揺れている。物語以前の不明の中で、彼らがはじめからどこにもない約束を果たしあうことができたのならば、どんな種類の光であってもその駆け出す一歩を祝福するに違いない。

 これは上級者向きのやつ。難易度は高いですが、自身が物語であると自覚する短編集である本書のエンディングを飾る作品として絶好の作品ではないか。ちなみに、本書の素敵な表紙もこの作品の作者全自動ムー大陸さんの手によるものです。ぶにぶにばななとか言ってすみませんでした。

 以上の個性的な7作品が収録されています。僕がネタバレあり感想も書けるように、早くみなさんも読んで下さい(書くとは言ってない)。

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