『HELLO WORLD』 野崎まど

 私は野崎まど先生をリスペクトしているので新刊を読みました。普通に面白く、普通に良かったです。この、アニメ映画向けに書きましたよ感すごい。こうポスト「君の名は」といえば聞こえが良いが要するに二匹目のドジョウ狙いが群雄割拠するアニメ映画界においてやることやってやりますよというやることやってやった感じがある。やってやりました。

 映画の原作と知って読んでいるから余計になのかもしれないが、構造が映画らしいフォーマットになっているし、映像化を意識した画作りも見て取れて、でもキャラクター像(特にこういうヒロインと、『先生』の概念というか師弟関係みたいなものへの脆弱性)は野崎まどだし、オチも大人しめだけど野崎まどなんだよな。大人しめだけど。正解するカドの反省(?)を踏まえているな(???)

 作者プロフィールのところに「独特の世界観と緻密な描写力」とか書いてあって、そうだっけ感でじわじわきてしまった。映画見に行くぞ。

『かわいいウルフ』 小澤みゆき(海の響きを懐かしむ)

 第二十八回文学フリマ東京にて入手。公式サイトはこちら https://woolf.ofuton.in/

 ヴァージニア・ウルフ本。作家モノとしてものすごくバズっていたし文フリ当日もすごい部数でていたらしい。ヴァージニア・ウルフの短編集の感想をこないだ書いたけれど、別に自分はファンとかいうわけではなく、それどころかあんまり読んでない側で、それでもめちゃくちゃ気になって買いに行ってしまった。いろいろ理由はあると思うけど一番は企画者の小澤みゆきさんがツイッターでめちゃめちゃ楽しそうに制作過程を宣伝していたからだと思う。実際この本を読むとみんな楽しそうに語っているのが印象的。評論、翻訳者へのインタビュー(真面目系ではこれが一番面白かった)、短編小説などなんでもアリでお祭り感がある。みんなが感想を書くコーナーの執筆者では、今回の企画にあたって作品を読んだ(作品を読んで感想を書くように頼まれた)という人が普通に参加しており、そのあたりのハードルの低さもみんなで楽しくという空間作りに一役買っていたと思う。個人的にいきなりブレードランナー始まったのが笑った。ヴァージニア・ウルフもうちょっと読んでみようと思いました。

『息 -Psyche- vol.1』 アナクロナイズド・スイミング

 第二十八回文学フリマ東京にて入手

「恐怖と笑いの共存」をテーマとした短篇集。4編収録。このテーマめちゃめちゃ難しくない?

『ビギナーズラック』渋江照彦

 ビギナーズラックがありすぎる主人公という短編。冒頭部分だけでオチは読めるんだけど、それだけ様式美がよくできている完成度の高い作品。世にも奇妙な路線なのかなと思った(世にも奇妙な物語に特に詳しいわけではない)んだけど、確かに世にも奇妙な物語って恐怖と笑いの共存だよなと思った(世にも奇妙な物語に詳しいわけではない)。

『箸が転ぶ』17+1

 四作の中でこれが一番好き。箸の持ち方が悪いことを隠す話、という骨子はかなりコメディで、そこに「秘密がバレてしまったら」という強迫的な恐怖を投入。レギュレーションの「恐怖」を怪談ではなく人間関係で演出したのは上手いやり方だなと思った。最後オチでその恐怖がちょっと変質していくのも好き。百合じゃん。

『生まれなかった私』月橋経緯

 エネルギーがすごい。怪談的で趣味の悪い内容を書きながらギャグを入れまくることにより笑いも共存させてますというポーズを取っている。「驚きまじりの怒り!」とかめっちゃ好き。露悪的な冗長文体でこの分量になってくるとなかなか疲れてくる部分は正直あるんだけど、作者の側の作品に対する熱がすごいので最後まで読み切れる。

『夜歩くシミュラクル人間』弥田

 遡ってvol.1を読んで、原稿書けないメタ作品が最後にくるのはこのサークルの様式美なのだと知る。物語というのもの力を信じる上では(そして、文フリなんていうイベントに出しているということもあるので)シミュラクル人間の概念は面白かったし良かった。そういうの信じたいよね。テーマ的には原稿を落とす恐怖で最後まで行っても良かったという気も。

『惜しみない愛を、君に』 塔守

 第二十八回文学フリマ東京にて入手

 ミステリ恋愛小説。五話収録されているが実質的には中編2本がメインでほかは番外編という感じか。表題作の『惜しみない愛を、君に』はネタバレにならないようにすると何も言えない感じはあるが恋愛小説で、ミステリとしてはネタはまあわかりやすいんだけれど、伏線とか丁寧なのと、随所の小ネタが結構好きだったので楽しく読んだ。小ネタ重要だと思うんですよね……。あと単純に、こういうちょっとおかしい二人が最終的にうまく嵌り合う話が好きなんだ。その番外編の短編『代わりの、一日』はキャラを活かしててすごい好き(単に精神的動揺で発動してるじゃねえかと思ってじわじわきた)。キャラが良いです。もう一本のメイン作『さよならのキスの代わりに』は、錠前マニアの男女(つける方と破る方)という設定が既に強く、ミステリとしてはまあそうなるよなというちょっとダークっぽい解決なんだけど、随所の小ネタがやはりバランスよくて、こちらも楽しめた。素敵な挿絵が多く入っているのだが、章(節?)の切り替わりに立ち絵やバストアップがドーンと載ってくるので最初なれなくてちょっと笑ってしまった。そのうち慣れた。

『北の海』 井上靖

 突然これを、しかも一応三部作の第三部であるのにいきなり読んだのには深いわけがあり、いや特に無いが、面白かった。別にこれから読んでも問題ないと思います。誰向けの情報? というか新聞小説なんて途中から読む人だってたくさんいたのだろうから(きっと)、どこから読んでもいいんだと思います。なにかすごいことが起こるわけではないのだが登場人物に魅力がある、なんて言ってしまうと逆にラノベみたいだが、そういうことはなく、ああこのタイプの小説久しぶりに読んだなというタイプの小説だった。手紙皿代わりにしろって言って「ずいぶん乱暴な話だった」とか「うおっでもいかんか」とか、地味におもしろいことを入れてくるのもずるい。結構笑えるところがあるんだよな……。

『西南シルクロードは密林に消える』 高野秀行

 成都からビルマ北部を通ってカルカッタに至るまで、かつて存在したとされる西南シルクロードを踏破するエクストリームノンフィクション。ゲリラの手を借りて密入国しジャングルを歩いたり象に乗ったりと奇想天外で、合間に挟まれる人間観察や文化・社会に対する考察、政治事情についての情報もとても面白い。中国公安に尋問されるシーンが良かった。

『マルドゥック・スクランブル』 冲方丁

 熱い小説だった。カジノシーンめっちゃ長い。カジノだけで一冊分くらいあるだろ。しかしそのカジノが面白い。物理的なやつから始まって最後ブラックジャックに行くの最高だし、ドローですなおじさんすごい好き。

 サイバーパンクの翻訳文体調というのもなかなか面白かった。というか翻訳文体調ってなんか倒錯しているというかそれだけで面白いな。あとなんかあとがきが熱かったのでその印象がより強化されたんだけれど、作者が最高に楽しんで苦しんで書いているというのが伝わってくるのが良かった。

『C’mon Spice!』 雲鳴遊乃実

 第二十八回文学フリマ東京にて入手

 イベント参加時にお題箱を設置し、そこに入れられたお題から引き当てたもので短編を書いて次のイベントで新刊にします、という企画で、「下北沢初代永世カレー王」をお題に書かれた短編。

 いや、お題の難易度が高すぎるだろう。けれどそのお題に対し、しっかり料理していく姿勢が良かった。二秒くらいで考えようとすると「下北沢初代永世カレー王」と言われたらなんか料理対決的に最強のカレーを作るみたいななんかそんな感じになるが(なるか?)そういうネタ方面に走らず、ちゃんとお題は使いつつ下北沢とカレー王にフォーカスして話を掘り下げてあり、憧れの心情描写や最後のカタルシスなど、丁寧な書き方が光っていた。冷静に考えるとカレー三杯食って歌うだけで、肝心の浦野の手がかりすらつかめないんだけど、それを熱とスパイスと歌で押し通すエネルギーがすごくて、読んでいる時は爽快感あるし、読み終わって振り返ると笑ってしまう。フードファイトじゃなくてこれを書いてもらえるならお題入れた人は本望なんじゃないでしょうか(適当)。

 あとがきの歌詞利用の話が結構興味深かった。商業の本でガンガン歌詞載ってくるやつはどれくらい払っているんだろう。

ねじれ双角錐群『アンソロポエジー』Kindle版配信開始

 2018年秋の文フリ東京にて頒布した、ねじれ双角錐群『アンソロポエジー』のKindle版がついに出ました!

「人類滅亡後を舞台に」「人類以外を語り手とする」「語り手は何らかの手段で人類を観測している」という条件で書かれたSF短篇小説集です。つまり、語り手となる人類以外とは一体何者か、からそれぞれの特色が出始めることになります。ラインナップは上記のツイートに貼り付けた画像をご覧ください。どの作品もアンソロでありポエジーに仕上がっているかと思います。ちなみに、一部の作品に組版上の演出というか、特殊な組版がなされていたために、リフロー型電子書籍の発行が危ぶまれていましたが、強引に解決されました。人類がいなくなった今、多少の強引さが必要とされています。

 ねじれ双角錐群は今年の秋の文フリ東京に向けて雌伏して時の至るを待っておりますので、ぜひメンバーに養分を与えると思ってDLし読んで長文感想を書いてください。よろしくおねがいします。

『息 -Psyche- vol.3』 アナクロナイズド・スイミング

 第二十八回文学フリマ東京にて入手

 特集「夢オチ再考」ということで、夢オチをテーマにした一冊。ほぼ小説、若干論考。

『夢オチ探偵』17+1

 任意のタイミングで『目覚める』ことにより難事件を夢オチにして強制解決する能力を持った名探偵の話。探偵モノのテンプレギャグと、夢オチを前提とした出オチ設定で話を進める力技も好きだし、そこから来てラストが何故かセンチメンタルになるのすごく好き。執筆者コメントにある通りで、合同誌の性質上、夢オチであることは予め読者に示されている状態で何を書くかと考えた時に、この設定には必然性があって、でもそこで独自の世界が描けているのが良いと思った。

『逆夢』17+1

 ありがちな夢と現実の組み合わせが反対になっている夢を見るという話なんだけれど、不思議な終わり方をしていて、これ結局夢なのか、というのがよくわからない、混乱させてくる作品。夢オチの一系統としてたしかにそういう「夢か現か」的なのがあり、作為的にそれを使いながら夢の話をしていくという作品なんだろうなと思う。

『ふたりがキスしたら即夢オチする連作短篇集(百合編)』みた

 タイトルでオチてるので好き(?)。タイトルがすべてなんだけど、夢オチと連作短編ってめちゃめちゃ相性が良いなと気付かされた。めちゃめちゃに話広げていって最後戻ってくるの好き。

『巡夢あるいは「夢見」の素描』渋江照彦

 夢オチが構造上夢と現実の二項対立であるのに対しそれを外しにいくという意欲作で、とても面白い構造だった。大学の授業のシーンあたりからどんどん不気味になっていくというか、得体のしれなさがうまく演出されていて良かった。

『(愚考)虚構信者よ浮遊しろ 〜乱歩の短篇から夢オチをかんがえる』月橋経緯

 江戸川乱歩を題材に夢オチについて考える論考。乱歩のネタバレが含まれるということで、残念ながら読んだことなくて今後読まないとも限らないのでちゃんと読んでおりません。読みたい。

『夢オチの話をしよう』淡中圏

 論考と小説のハイブリッド。夢オチについて考えながら夢オチの小説を書いたり、夢オチの小説を書くことを考えたりする話。これも読み進めていくにしたがって、メタ展開含めて大きく物語の次元が広がっていき、最後に戻ってきて着地するという話で好き(多分自分がそういう構成好きというのもあってこういう感想がやたら多くなるのだが)。ツイートしてるとこで笑った。