群れSF『無花果の断面』Kindle版配信中

 配信されています。

 ちなみに、まだ物理本の在庫もあり、明日の文学フリマ東京で入手できます。Kindle版で読んでも良いし、紙の本で読んでも良いし、両方入手しても良い。

 収録作品に関する私のコメントはここ:ねじれ双角錐群『無花果の断面』 11/23文学フリマ東京にて!

 いただいた感想へのリンクはここ:群れSF『無花果の断面』が通販で買えるよ

『息吹』 テッド・チャン 大森望 訳

 まだ読んでなかった枠。どの作品も、アイデアと問題意識のレベルがすごく高いと思った。特に、「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」、「偽りのない事実、偽りのない気持ち」、「不安は自由のめまい」が良かった。

「商人と錬金術師の門」はある種の時間SFで、アラビアンナイト語りだ~と思って楽しく読んでいたら作品ノートにも言及があって嬉しかった。SFガジェットの働きと限界、それに語りの構造が連動しているのが美しい。

「息吹」はアイデアが良いし、自分の脳をバラしていく画も良い。熱的死の先を見るエモさも良い。あと邦題の訳し方も良いと思った。

「予期される未来」はボタンのアイデアが良いと思ったけど、それを超える展開がない内に終わっちゃった印象。

「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」は『2010年代海外SF傑作選』で既読でそちらで感想を書いてた。やっぱり良い。再読すると欲が出て最後もう少し話に区切りが付いて欲しい感じとか、続きが読みたい感じが出てきた。

「デイシー式全自動ナニー」は物足りなさを感じた。この解説体の語り方が上手くいってはいない感じ。作品ノートで趣旨は理解できたが……。

「偽りのない事実、偽りのない気持ち」は特に良かった一作で、テクノロジーが人間を拡張・変容させる王道のハードSFなんだけど、そういうときのテクノロジーに対する向き合い方の方向が複数提示されて揺さぶられる。筆者の「リメン」に対する抵抗感(網膜カメラの記録映像を検索可能にしあまつさえサジェストまでしてくることで、過去の嫌な思い出の記憶を都合良くぼやかして改変してしまう余地がなくしてしまうのは、つらいことではないか?)に共感しながら読み進め、一方作中作パートではそんなもん文字の方が正しいだろと思いながら読んでいくと、思わぬ形で二つが重なり合って、最終的に筆者が終盤述べていることの説得力が強烈になる。アイデア、問題意識と考察、それを効果的に表現する構成、すべてがすごいと思った。すごく印象に残る。

「大いなる沈黙」はワンアイデア掌編。かわいい。

「オムファロス」は題材めちゃくちゃ良いな~と思って読んだ。結末は少し平凡には感じられるが、誠実に考えたらまあそうなるかというところで安定感ある。

「不安は自由のめまい」は、これもやはりテッド・チャン的な問題意識が色濃いと思う。プリズムそのものの話ではなくて、それがあることによる人々の苦悩とか救済を真ん中に持ってきていて、かつそれをドラマにするためにプリズムの悪用の話を使って駆動していくのが上手。登場人物も多めで結構焦点がぼやけている感じが中盤するんだけど、最後の収束も見事だった。といってもキャラクターたちが収束するんでなくて、問いに対して答えが収束するというか。

#文学フリマ東京 の気になる一覧

 わたしが気になっているサークルを紹介します。いまWebカタログを高速で眺めた結果です。見逃しもあると思うからまだ増えるでしょう。っていうか見逃してると思うごめんなさい。全部回れるのかわからないけどとりあえず気になるのはタダだ。


ア-19 よるのさかな
気になるポイント:手製本がかっこいい

ア-29 六月のクモノミネ
気になるポイント:「がオンナ」が面白いらしい

イ-05 閑窓社
気になるポイント:架空の間取りが面白そう

イ-14 ザネリ
気になるポイント:アンソロジーBALMに知ってる人がたくさん参加している

イ-27-28 世瞬舎
気になるポイント:フィーリングで気になった

エ-34 薄禍企画
気になるポイント:ひとひら怪談

エ-37 C1講義室
気になるポイント:過去作品が面白かった。新刊もあるらしい

カ-12 わざなう文庫
気になるポイント:過去作品が面白かった。メタバース/VRの明日を描いた短編SF

カ-21 アーカイブ騎士団
気になるポイント:過去作品が面白かった。新刊はないらしいけど読んでない既刊があれば欲しい

カ-25 犬と街灯
気になるポイント:島アンソロジー!

カ-27 反-重力連盟
気になるポイント:過去作品が面白かった。Twitterで新刊があるらしいのを見た

カ-29 グローバルエリート
気になるポイント:過去作品が面白かった。新刊がある!

カ-34 Bamboo Storage
気になるポイント:過去作品が面白かった。自作解説の新刊が気になる

カ-37 フレエドム
気になるポイント:過去作品が面白かった。新刊はないらしいけどペーパーがあるかもしれないらしい

カ-38 推月社
気になるポイント:神原朋のSF小説『幽世香を聞け』を通して紙の同人誌でしかできない表現をする予定だったが諸般の事情によりエルデンリングのせいで新刊できませんでしたSS本『その新刊は無い、おぉその新刊は無い、だからこそその新刊は無い、おぉその新刊は無い』を頒布することになったらしくエルデンリングSSと新刊の予告が載っているらしいのが気になる。また、既刊委託頒布として、ねじれ双角錐群『無花果の断面』と、ささのは文庫『ドッペルゲンガー百合 12人狐あり・通暁知悉の村』があるらしいのが非常に気になる。より詳細な告知はこちらにあるらしいと知って気になりすぎて過呼吸になってる

キ-01-02 SF文学振興会
気になるポイント:異世界特集

キ-04 手打ちそば四畳庵
気になるポイント:過去作品が面白かった。姪探偵シリーズの新作があるらしい

キ-06 シーラカンス・バカンス
気になるポイント:過去作品が面白かった。新刊があるかわからないけどあったらうれしい

キ-11 なにいろ書房
気になるポイント:犯罪捜査人工知能「H.O.L.M.E.S.」

ケ-17 目眩 Peyotl
気になるポイント:新刊が面白いという信頼できる口コミを見た

ケ-26 雷吐炉屋
気になるポイント:怪奇系、表紙がかっこいい

シ-10:秘密結社きつね福
気になるポイント:装丁がめちゃくちゃかっこいい

シ-22:燐灯書庫
気になるポイント:過去作品が面白かった。折り本ビュッフェ

ス-39 兎角毒苺團
気になるポイント:怪しい

ス-41 獣文連
気になるポイント:獣

(to be updated…)

『ブルー・エコー 総集編1』 葵あお

 第三十三回文学フリマ東京にて入手。その前年に読んだ『月鯨の夜』が面白かったので。

 ライトノベル調のSFというかファンタジーというかの連作短編。総集編ということで490ページの分厚さながら(なかなかの圧がある)、読みやすく、内容にも引き込まれてあっという間に読んでしまいました。なんというか、安心して読み進められる感覚があってとても良いです。キャラクターが魅力的で、またその魅力が引き出される話の構成になっている……。ディアがかわいいので幸せになって欲しい。デート回よすぎる。あと行天の当機呼びめちゃくちゃ好き。続きも楽しみです。

『うつくしい繭』 櫻木みわ

 これ系の経緯で読んだ。

 アジアをフィーチャーした四本の短編で、それぞれ舞台が東ティモール、ラオス、南インド、南西諸島。東ティモール舞台の『苦い花と甘い花』が良かった。結末の重さやどうしようもない悲しさから、そこまで積み重ねられた描写や説明がもう一度返って来るというか、放心状態にさせられてしまう読後感があって素晴らしい読書体験だった。他の三作は『苦い花と甘い花』と比べると自分の好みの基準からは一段引いていたけれど、それでもどれも各地の空気が鮮やかに描いてあって、味わって読む事ができて良かった。

『バーナム博物館』 スティーヴン・ミルハウザー 柴田元幸 訳

 読んだことがなかったのですが、ミルハウザーすごい的な話は方々で聞くよなというベースがあり、そこに先日鷲羽さんがミルハウザーリスペクトで文体の舵をとっていたのを見てさすがに読もうかなと思って読みました。

 すごかった。文舵の文脈が直接的きっかけだからなおさら語りに注目してしまったけど、語りがすごい。なかでも『雨』は語り全振りの極地のような感じがする作品でとても気に入った。概ね雨降ってるだけなんだけど(そんなことはない)、それでここまで読ませて印象を残せるの、真似したいという気持ちになる(そうそう真似できない)。

 収録順とは前後したけれど冒頭『シンバッド第八の航海』がいきなり物語の多層構造とそのリズムのズレの話を展開してきたのが好きなやつで、ぐいぐい引き込まれてしまった。それでいてメタ構造メインかというとそうではなくて、ドロップキャップのパートの語りの描写力がやっぱり凄まじく、技巧バランスが高すぎると思った。

 一番良かったなと思う『探偵ゲーム』も、現実の登場人物達に焦点化した語りと、ボードゲームをひたすらカメラアイで描写する語り、それにボードゲーム内のキャラクターの語りが交錯するという技巧作で、そこら中で語りがcoolで惚れ惚れしてしまう。かつ、結果的にこれだけ登場人物が多い状態でそれぞれの人物像や相互の視線を鮮やかに描いていて本当にレベルの高さを感じる、気持ちいい作品だった。

 ただ、語りがともかく強い短編・掌編作品なので、なんというかドラマの熱さというかオチの収束の気持ちよさみたいなのは少なめかな……と思っていたら、最後に収録されている『幻影師、アイゼンハイム』はそれ意識してこの収録順にしたなと思わせるような作品だった。結末が良い。結末の良さの印象が強かった作品は収録作の中でこれだけなんだけど、それが最後に配置されて一冊がすごく良いものに仕上がったと思った。原書とは収録順が異なるらしいけどこれがトリなのは原書も同じとのこと。だよね。

『雨の島』呉明益 及川茜 訳

 自然とオブセッションの話だと思った。自然、特に動物の描写、それに対する人間の思いに迫力があり、読み応えがあって味わい深い。もう一つ共通点的に出てくる、クラウドストレージの中身を親しい人に開示してしまうウイルスの設定は、なんか位置づけが中途半端に感じてよく分からなかった。全部面白かったけれど、「闇夜、黒い大地と黒い山」(ミミズ)、「雲は高度二千メートルに」(ウンピョウ)、「サシバ、ベンガル虎および七人の少年少女」(鷹と虎)の三作が特に良かった。

輪るピングドラム 劇場版 RE:cycle of the PENGUINDRUM [前編]君の列車は生存戦略

 ネタバレのないように書きますが、情報を入れたくない人は読まないでください。

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『文体の舵をとれ ル=グウィンの小説教室』 アーシュラ・K・ル=グウィン 大久保ゆう訳

 そういえばこのブログには書いていなかったので書き残してリンクを貼っておこうと思った。

 本書がよくある(よくある?)小説創作本と少し違う特徴は二つ。

 一つは切り口が『文体』であること。よく売れている気がする創作指南本では話題がプロットとキャラクターであることが圧倒的に多いと思う。プロット、キャラクター、ナラティブという三大要素(いま勝手に決めました)のなかで言ったら文体に関する本は少数派だったのではないか。「みんなコード進行ばっかり勉強しすぎだろ!」みたいな……。

 もう一つは、章毎に練習問題があり、かつその練習問題に合評会(ワークショップ)の形式で取り組むことが推奨されていること。そもそもル=グウィン先生が実施していたワークショップを本にまとめたというものらしい。練習問題がある創作指南本までならみたことがあるけれど、前述の通りプロットとかキャラクターの場合、練習問題といってもボリュームが大きくなりがちだし(っていうか練習問題がプロット書け、になりがち)、合評会をちゃんとやるのは結構難しい。それに対して文体に関する練習であれば書く文も短くて成立するし、合評会が結構気軽にできるラインに入ってくるのが大きいと思った。合評会までいかなくとも練習問題を解いた答案をオンラインで公開したりとかもやりやすいので良い。

 自分は幸運にも合評会に参加することができ(感謝!)、昨夏からやってきたのですが、これがめちゃくちゃ楽しかった。単純に同じ課題で他の人が書いたものを自分のを見比べたときの差が面白くて勉強になるし、自作に対して客観的な感想が複数もらえるというのもとても良い。他の人の作に対してコメントするのも、練習問題で設定された切り口で分析的に読む楽しさがあるし、本人から意図が聞けるなどというチャンスまである。ル=グウィン式合評会ルール(たとえば「実質ウテナ」とか「百合なんだよな」のような発言が禁止されています)が良くて心理的安全性も確保された感じになる。また、「文体」メインであることの副次的な良さとして、提出した回答は「それ以上でもそれ以下でもない」という扱いがしやすいので、変な言い訳はできないし、過剰な思い入れを持つこともない気がする。たとえばプロットの合評会やろうとしたらプロット書いて出してそれになんかコメントされたとき多分つい「確かにそうですね~でも本文でこういう感じに書けば良いかなと思って~」みたいな言い訳出そうだけど(つまりプロットは途中工程だから)、それに対して語りだと断片的かもしれないが一応最終成果物だからそういうのがない。

 そんな感じで取り組んだ回答を以下で公開しているので、よろしければどうぞ。

#文舵|sasaboushi|pixivFANBOX