『フリッカー式 <鏡公彦にうってつけの殺人 >』 佐藤友哉

本書は『ああっ、お兄ちゃーん』と云う方に最適です(嘘)。

なるほど最適だった。

こ、これがメフィストか、というとてつもない圧力を感じた。いま思えば、最初のほうで「笑っちゃうわ。ハレ晴レユカイだわ」とかいう台詞が出てきた瞬間に本を八つ裂きにしなくて本当によかった。

物語上の要請にそって必然性を持った能力が登場人物たちに割り当てられ、物語るためなら誰が狂っても関係ない、しかしそれだけやり放題やっておきながら、「これおめーの物語じゃねーから!!」と突き放され、急激に読者と主人公から世界が遠ざかっているのをみると、公彦くんに若干同情せざるを得ないところがあったりして、というタイミングで打ち込まれるラスト。まさに、『ああっ、お兄ちゃーん』である。

『「鉄学」概論―車窓から眺める日本近現代史』 原武史

御召列車の章と都電の章がとても面白かった。

都電の章では、原先生が学生に「江戸城がどこにあるか知っているか」「皇居前広場に行ったことがあるか」と問いかける話があった。なるほど自分の脳内のイメージ地図では、霞ヶ関と日比谷の駅は直線で結ばれているし、半蔵門も桜田門も門という実体を持たない記号だなと思った。さすがに皇居の位置くらいは把握しているけれども、それは皇居という実体と言うよりも、「このエリアは地下鉄が通っていないから向こう側の駅に行くにはどちらかから回る必要がある」という空間として理解している気がする。地下鉄という装置に乗って、路線図という作り出された世界の上を移動することが、いかに良くも悪くも現実から乖離した営みなのか、ということ。