【感想】 『日本カフェ興亡記』

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 高井尚之『日本カフェ興亡記』の感想です。

可否茶館からドトール・スタバまで

日本のカフェ・喫茶店業界の現在、過去、未来についてまとめられている本です。筆者は経営コンサルタントで、多くのカフェ・喫茶店の経営戦略について分析しています。一方で、「企業や店側のコメントで完結するのではなく、生活者視点で見ることで読者の参考になれば」とも述べ、利用者側の視点も大切にしています。筆者は「利用者側の視点も」という書き方をしていますが、むしろ僕にとっては企業が考えていることや利益を生み出すしくみのほうが面白い部分がありました。どちらにせよ、そのあたりのバランス感覚が非常に良い本です。

「手軽さのドトールvs.楽しさのスタバ」と題された第1章では、業界で双璧をなすこの2社について、経営戦略やブランドの付加価値、歴史などを紐解いていきます。第3章では日本におけるコーヒーの歴史、喫茶店の歴史を振り返ります。その後も現代型のセルフカフェと昔ながらのフルサービスの喫茶店を比較したり、多様性を重視する総合型か、絞り込んだテーマ型か、という切り口で店を見てみたり。第6章ではチルドカップコーヒー飲料や、カルディといったコーヒー豆小売店にまで話題が展開します。まさに日本のカフェとその周辺を網羅する本と言えるでしょう。といっても、最近ではメイドカフェとか猫喫茶とか、カフェ・喫茶の意味するところも無尽蔵に広がっている感があり、そういえば一時期は出会い喫茶なんてのもありましたし(今もあるのか?)、この業界はともかく裾野が広い。さすがにそのあたりはあまり載っていませんが(漫画喫茶とネットカフェについては記述があります)、カフェ・喫茶を利用する人なら誰もが楽しく読める本だと思います。

 

その一杯の選択

僕自身はドトールvs.スタバではドトール派です。ドトールのミルクレープが好きだからです。ケーキセット500円は神と言わざるを得ません。むしろミルクレープ以外あんまり食べません。もうドトールはミルクレープに改名していいと思います。昔はドトールは煙草臭くて入れなかったのですが、最近は分煙も進んできました。個人的にはせめて喫煙エリアを自動ドアで密閉するまではやってほしいのですが、まあ商売なのでそうもいかないのでしょう。ドトール派といってもスタバにも行きますし、他にもセルフカフェだとタリーズによく行きますが、そこでももっぱら甘いモノを飲んでいるように思います。また、本書の分類によるところの「高級喫茶店」にも、日常的にとは言いませんがたまに行きます。本書で紹介されていたところだとルノアールは比較的よく利用しますし、椿屋珈琲店やその系列の面影屋珈琲店は大正ロマンがあって好きです。制服かわいいですよね。それくらいの価格帯の店や、もう少し小規模チェーンの店などでは、もっぱらコーヒーを飲みます。スタバやドトールやタリーズでカフェモカや抹茶ラテやハニーミルクラテを飲んで血糖値を高めたいというよりも、純粋にコーヒーを楽しみたいと思った時には、そういう店に行くのです。

と、いうような、ふだんは自分のあまり意識していない一消費者としての行動が、筆者のような経営コンサルタントからどう見えているのか、あるいはカフェ業界の経営者たちからはどう見えているのか、この本を読んで考えさせられました。カフェ・喫茶店をめぐる消費者の意識について、本書には「現代の消費者意識は多様化しており、移り気」という記述があります。単に多様な人々がいる、というだけでなく、同じ人が場面場面によってまったく違う消費の傾向を見せるのだというのです。カフェや喫茶店で言えば、ビジネスで使うか、プライベートで使うかは大きな違いでしょうし、同じプライベートでも、ちょっと一息つきたいのか、数時間休憩してしっかりリラックスしたいのか、予定と予定の間の時間潰しなのか、友人や恋人とおしゃべりを楽しみたいのか、といった目的でも店の選び方は全く異なってくるでしょう。店側はそういう消費者の目的を考えて店のコンセプトを検討し、繰り返し来店してもらえる店作りに努めます。また消費者の目的によっては、本書でも扱われたチルドカップコーヒー飲料や、豆を購入して自宅でコーヒーを楽しむ習慣といったものが、カフェ・喫茶店に競合することになるのだと思います。カフェだけを見ていては、カフェのことはわからないのかも知れません。

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