『南極大陸に立つ―私の南極探検記』 白瀬矗

 南極探検家、白瀬矗の自伝。なかなかに壮絶なことがさらりと書いてあったり、一方これは盛ってないかみたいなシーンもあり(講演会の熱狂ぶりの描写力はいりすぎでは)。大和雪原、調べると大陸ではなく棚氷の上だったとあり、ちょっと悲しいところ。

『半分の月がのぼる空』 橋本紡

 むかし電撃文庫の原作を読んだもののリメイク版。文章や構成も書き換えているらしいがそこは違いが分かるほど原作の方をはっきり覚えていなかったので、主な相違は伊勢の人たちは伊勢弁で喋ること。べつに伊勢弁で喋っても全く違和感はなかった。というかこの小説のキモは原作四巻に相当する第四話の夏目吾郎の栄光と挫折であると思っているので、主人公が伊勢弁になろうがどうでもよかった(そうでもない)。正直夏目吾郎の栄光と挫折の裏でクソ茶番を繰り広げている屋上勢は哀れですらある(そんなことはない)。二周目として改めて読むと、途中の若干狂人方向に振れかけてる吾郎くん大分かわいいし夏目発狂破滅ルートもあったなという感じがする。ない。むかしは本編とかどうでもよくて夏目吾郎の栄光と挫折だけ書けやとか思ったけどこうして読み直すと本編でも吾郎くんが若干救済されているからよかったねという気持ちになった。

メメント

 難しいが多分もう一回見ればよく分かるだろう(という気にさせてもう一回見させる商売だな)。構成が巧みだし、遺品を焼くシーンとかすごくよく出来ていると思う。逆回しについては、ちょうどいい難しさ具合だし、絶妙な物足りなさを感じさせるピースの長さになっていたと思う。記憶は思い込みだけど記録も操作できる。自分で自分を。

『東京奇譚集』 村上春樹

 世にも奇妙な系村上春樹。

 村上春樹的短編小説として非常にクオリティが高いのが「ハナレイ・ベイ」。なんといってもこの最後の一段落、一文、というか一単語。こんなのずるいだろう。クソ村上春樹感がほとばしっている。真面目に説明すればこれは英語的なリズムで終わっているところが村上春樹っぽいとかそういう説明をつけることができるかもしれないが、なんかもうそういう次元を超えている。ハナレイ・ベイ。

 後は本当に世にも奇妙な物語的で、そこに村上春樹なりのあざとさ(『うさぎホイップ』と『ほかほかフルムーン』、あるいは品川区のマークの焼きごて)が投入されている良作がそろっていた。