『紙の民』 Salvador Plascencia 藤井光訳

 物語に対する戦争モノ。妻に去られたフェデリコ・デ・ラ・フェは、「何かが自分の人生を眺めて愉しんでいる」という圧迫感に苛まれ、やがてそれが『土星』であることに気づく。彼は土星との戦争、全知の語りに対する戦争、悲しみの商品化に対する戦争を開始する。一方、作者である土星もまた、決して無敵の存在ではない。彼もまた自分の元を去っていった女性について悩み、現実に復讐すべく物語に落ちていく。

 要は振られて駄々こねてるだけの話なんですが、全知の語りに対する戦争というテーマの強さと、挟み込まれる挿話たちの力がすさまじく、最後まで読ませる小説でした。ベビー・ノスタラダムスとリトル・メルセドが好き。

 ところで僕は「百年の孤独」未読です。読まなければなと思いました。

『ハッシャ・バイ/ビー・ヒア・ナウ[21世紀版]』 鴻上尚史

 大変申し訳ないのだけれど誰におすすめしてもらったのかを忘れました。確かツイッターで教えてもらったのですが。もともと「ビー・ヒア・ナウ」に出てくる年下のバスケ部の女の子と付き合い始めて部活をやっている間に受験生の自分は図書室で勉強して待っていたら図書室まで部活を終えた女の子が走ってきてそれを見て別れるっていう(雑な説明)挿話を何故か(なぜ?)僕が知っており、その話をしたらそれの元ネタはこれに載ってますよと教えてもらったのがきっかけだったと、そこまでは記憶しています。

 そこから読みたいリストで長い間眠っていて今になって読んだのはこの『ハッシャ・バイ』と『ビー・ヒア・ナウ』の2作が収録されている単行本でしたが、これはすごいですね。すごい。演劇というジャンルには余り馴染みはなく、その脚本(シナリオ?)を読むというのもなかなかないですが、とても面白かったし、というか演劇で見たいと思いました。というか演劇が見たい。

『躯体上の翼』 結城充考

 面白いです。おすすめ。ディストピア的終末世界における生体兵器人間のSF。解説やあらすじで「硬質」という表現が使われており、言いたいことはよくわかる。硬質さをもたらしている要素はたくさんあるとおもうけれど、一つには語彙の使い方が面白いというところがあると思う。中国語的な(的なというか時々そのまんま中国語の)言葉とか、一文字の人名とか。語彙がいい(語彙がない人の感想)。中盤の群像劇的な流れ、空中戦の描写、悪役の良さ(道士よすぎるでしょ)、全方位的に良かった。楽しい。