『魔星』 フォーマルハウト

 第二十五回文学フリマ東京にて入手

 クトゥルフ短編集。クトゥルフ短編集だということを知らずにWeb上に公開されていた「黄ノ瞳話」のサンプルを読んで続きが気になったので購入。クトゥルフのことをよく分かっていないので、毎回こういうのを読むと、どこまでがクトゥルフ界の常識で、どこからがこの作品の作者の創作なんだろう、というのがわからなくて困る。クトゥルフ知らないのに読んでるこちら側に圧倒的に非がある。そろそろクトゥルフの素養でも身につけるか……。

「黄ノ瞳話」志菩龍彦

 おどろおどろしい感じ、取り憑かれる感じがよく表現されていて、冒頭部分を読んでそれがレベル高いなと思った。徐々に気持ち悪くなっていってクライマックスを迎える。怪談レベルが高いと思う。単に怪談だと吸い込まれたとこで終わるような気がするが、その後のシーンがあるのがクトゥルフっぽさなのかと思った。

「誰が猫を殺したか」狐屋

 猫目線のファンタジーっぽい雰囲気の作品。缶切りって用語とか、三つ名前があるとか面白いなと思ったけどなんかそういうTRPGがあるっぽいな(よくわかってない)。スミレのキャラづくりとかよく出来ていて楽しかった。最後ジンバについて触れてほしいなと思った。

「千冬」志菩龍彦

 お、百合か? まあガール・ミーツ・ガールということで。つまり百合です(本当か?)。 最初の挿話っぽい雰囲気作りのところがうまいのと、やっぱり不気味さとか狂気の表現がいいよなぁと思った。

『bnkrR vol.13 AI』

 第二十五回文学フリマ東京にて入手。AIがテーマの短編集。

「向こうでAIがテーマの合同誌ありましたよ」と教えてもらい、美少女AI百合がどうとかこうとか言っていた立場としては読まねば、と思ったので。

「殺意の特異点」城島はむ

 芸能プロダクション社長殺人事件の容疑者はバーチャルAIアイドル。なんかバーチャルユーチューバーが流行ってホットな題材になってしまった感がありますね。こういうの僕も書きたかったけど、世の中に追いつかれたなぁという思いがあり。11月の文フリで出してるのタイミング天才的じゃないですか? ストーリーとして妥当な課題と舞台と解決だと思います。アマミヤリンみたいなキャラ好き。クライマックスもう少し盛り上がりが欲しいような。

「街は少年の言葉」松永肇一

 ハードSFっぽい? ジャンルを形容すべき言葉が分からない。「病狗」とか、言語の使い方で雰囲気を出すやつ、上手なので見習いたい。電脳世界の表現って小説が意外と頑張れるところではないかと思う。英国の施設に古いプログラミング言語をいくつも使う爺さんの下り好き。ギンダラ銀行が高度なギャグすぎる。

「星だけがきいていた」鳥井雪

 宇宙を旅する播種船 with AIの話。題材が拙作に若干被っているのでヒヤヒヤしましたがお話的には特に被っていなかったのでなるほどこういう使い方もあるかぁと思いました。間に短歌が挟まれていること、アクションが起こらず設定が語られている比率が大きいことからして、物語というよりは詩的な色合いが強いものと読めます。これは完全に好みの問題なんですが、展開が起きないと物足りなく感じるところが。

「怪談 kwAIdan」塚原業務

 連作超短編怪談集にしてメタ怪談。これ一番好き。現代的な怪談って意味分からないやつがあると思うんですが、これも意味の分からない怖さ。SF的、AI的な話題を散りばめてるんだけど、不気味さを呼び覚ます手法がなんだか昔の意味がわかると怖い怪談コピペみたいな感じ(結局よく意味がわからないやつ)で、本能に来る。で、メタ的に言うと、たしかに怪談ってAIが創作しやすそうかも、と考えさせられたりする。これは本当にすごいと思った。

「AIコールセンター」深川岳志

 これも好き。なにがAIなのか最早よくわからないが、短編娯楽小説かくあるべし的な笑い。こんなんずるいだろ。こういうのが入ってきて合同誌のバランスってとれますね。怪談のあとにこれって。

「チューリング×チューリング」星野トレン太

 それなんてエロゲ? 感情のアップダウンとかよく出来てるんだけど、どうにもプロローグ感が出てしまっているので、本編読みたいなと思った。このあと会いに行ったらやっぱり……みたいなひっくり返しを期待してしまう。

『バビロン 3 ―終― 』 野崎まど

 天丼。同じこと3回やるのやめろ(もっとやれ)。僕はこういう様式美楽しいタイプなんだけど、同じことの繰り返しじゃないかって批判的な感想を書いている人も結構いるようです。まあ、繰り返しだけどね……。

 しかし野崎まどにかかれば米国大統領すら萌えキャラになるというのは素直にリスペクトせざるを得ないよなぁと思いました。あとサミットのシーンは笑えた。大真面目にアホなことをやり始めるのすごい。

 それでこのあとどうするの。着地点が見えない。

前:2巻「バビロン2―死―」

 

Dunkirk(ダンケルク)

 よすぎた。

 なんか構成がすごいらしいという前情報しかないままに見たが、なんか構成がすごかった。え、良すぎる、って言いながら固まってた。で構成はすごいのだがそれが実験ですみたいな感じで終わらず、大成功していた。空編の最後のシーンが最後の方に来るの本当に素晴らしい。

『ゆたにたゆたに半透明/地下鉄東西線爆破レモン』 雨下雫/小島宇良(C1講義室)

 第二十五回文学フリマ東京にて入手。入手の経緯は既刊の記事の通り。

 両A面仕様。これも表紙すごく良いですね。

『ゆたにたゆたに半透明』は、ファンタジー……か? という感じの小説。前作と二作を読んで通ずるところは無用者の系譜(読んだことない)なんでしょうかね。『偽付喪神夜行絵巻縁起』では役割のないガラクタの付喪神だったのが、本作では透明に漂うだけのクラゲ野郎と。話の運び方としても結構似ていると思いますが、本作は「田浦の君」が登場するあたりからぐぐぐと引き締まります。なんだよこの妖怪おばさん(おばさんという描写はありません)。好き。あとは道化だった無用者が精神的にダメージを受けてシリアスになっている様子を見た主人公が動揺してしまうっていうシーンも好きです。めっちゃクオリティ高いと思いますこの小説。

『地下鉄東西線爆破レモン』は、タイトルが出落ち感ですがタイトル負けしてないですね。ざっくりいうと地下鉄東西線爆破レモンの話です、としか言いようがない。両A面といいつつ分量的にはこっちは本の2割以下だと思いますが、よくまとまって独特の雰囲気を残していく短編でした。作品を読むに、この作者の方はなんかなんでも書けるタイプなんだろうなと思います。田村岬さんかわいい。シチリア産のくだりが好き。

『時をかける俺以外』 雲鳴遊乃実

 第二十五回文学フリマ東京にて入手(第二十四回既刊)

 タイトル買い。見本誌のとこに置いてあってタイトルで噴いたのと冒頭の「お前らさ、タイムリープしてね?」でじわじわ来たので。ずるいだろこんなん。

 それで中身が普通にしっかりした王道タイムリープ小説なのがまたずるかった。冒頭部分で(タイムリープしてね?効果含めて)引き込まれるので、長いけどしっかり読ませてもらえた。それなりに長い話だけど未来人の服とかクラスの人数とか伏線とかモチーフとかもしっかりしていて楽しい。各章に引きを作って終わるようにしながら、ちゃんと設置した謎を回収して締めくくられ、話的にもタイムリープらしいハッピーエンド(?)だったので気持ちよかったです。ただちょっと誤字(誤変換)や誤用が目立つのでそのへんはもうちょっとしっかりした方がいいかと思いました。あと人名の初出時にはルビが欲しい。

『フラニーとゾーイー』 J.D.Salinger 野崎孝訳

 なんか前に読んでるはずだけど余り覚えていなかったので再読。途中で思い出したけど前に読んだっていうのは学生の頃に原書で読んで英語難しくてわかってなかったからであろうことに気づいた。ということは再読とは言えないのでは。

 回復の話。最終盤のカタルシスを生む感じに目が覚める。中盤の母親との話もたいがい長いが、「あんたもバディも好きでない人と話をする、そのやり方を知らないのね」のところが好き。