『天体観測』 永坂暖日

 第8回Text-Revolutionsにて入手

 地上が汚染され人類は地下都市で暮らしている時代という設定の中で書かれた多彩な短編集。一作目の『あるいはそれよりも鮮やかな』がめちゃめちゃ好き。短編作品でこの世界観とキャラのディテールの書き込みはすごい。赤くて光まくってる防護服っていうのがすでに強いんだけどそれを最後まで使い切るのが好き。他の作品とも話題や作風は違うんだけど設定を共有しているというのがよくて、一冊として楽しくまとまっていた。地下世界の話が続いてちょっと地下の鬱屈みたいなのに慣れたあとで『かげろうが消えた夏』の夢の感じが入ってくるのとかすごく良いと思う。表題作『天体観測』を読み終えた後に表紙がやたらキラキラしてるのに戻るとエモい。

雨月物語の魅力

※このエントリはPR記事です

 雨月物語という作品がある。

 江戸時代に上田秋成という人によって書かれた怪異小説9編からなり、近世日本文学を代表する作品だと言われることも多い。しかし、じゃあ他に近世日本文学って何があるの、と言われると、ぱっと答えが出てこないという人も多いと思う。例えばこういうWikipediaのリストを見ると、フィクションの有名なタイトルとしては、井原西鶴『好色一代男』、近松門左衛門『曽根崎心中』、十返舎一九『東海道中膝栗毛』、曲亭馬琴『南総里見八犬伝』などなど、ああ文学史で名前が出てきたねという作品はたくさんあり、ちゃんと勉強した人はあらすじとか言えるだろうが、読んだことあるかと言われるとまあ読んだことなかったりする。どれもある程度の長さはあり、現代人からするととっつきにくさが無いとは言えない。

 それと比べると、雨月物語のハードルは低い。部分的にというのも含めれば読んだことがあるという人は比較的多いと思うし、読んだことがない人も、今から読んでみることはそう難しくない。

 まず何より短編集の形式なので、単純に手を付けやすい。全作品の原文と現代語訳と注釈・解説を収録して、やっと薄めの文庫本くらいのボリュームになる(この記事の最後におすすめ書誌情報あり)。原文や注釈を飛ばしてしまって現代語訳だけ読むならすぐ読み終わるだろう。

 そしてこちらがより重要なのだが、仮に雨月物語そのものを読んだことがない人であっても、その系譜に連なる何らかの作品にすでに触れている可能性がそれなりにある。だから内容的にも、とっつきやすいはずなのである。

 これについて説明する前に、先に怪異小説という言葉について書いておく。現代で怪異というと、妖怪とか、幽霊的なものとか、怖い話的な印象がなくもないと思うが、ここで言う怪異というのは、もっと広い意味で普通でないもの、尋常でないもの、不可思議なもの、というイメージの言葉だ。だから怪異小説というのも、不思議な事が起こる話、という程度に捉えて構わない。字面は似ているが、怪談とは若干異なるので、ホラー興味ないんだよねと思って避けている人がもしいたら、そんなことはないと知ってもらいたい(逆に、雨月物語にはホラー調の作品もあるから、怪談好きの需要にも答えられよう)。有名な現代のエンタメ作品で言えば、西尾維新の『物語シリーズ』で「怪異」という言葉が超便利に多用されるけれども、あれくらいざっくり広い意味で捉えておけばいいと思う。そういえば雨月物語も物語と付いているし、上田秋成は他に春雨物語とかますらを物語とか書いているし、江戸の西尾維新だったのかもしれない。ウィーンのキダ・タローみたいな話だが。

 と、物語シリーズの話で脱線したけれど、意外とこれが脱線ではなく、つまり「怪異小説の系譜は、現代のエンタメ作品まで続いている」という強引な主張にもっていくことが可能だと思う。話を戻して、なぜ多くの人が雨月物語の系譜に連なる何らかの作品にすでに触れている可能性があるかといえば、雨月物語という作品が、後にも先にも日本の怪異小説のキーポイントであろうと思うからだ。

 雨月物語には9編の怪異小説が収録されているわけだけれども、そのどれもが、上田秋成がゼロから書いたというものではない。むしろ、膨大な「元ネタ」の上に構築されている。例えば一作目の『白峯』は、荒ぶる怨霊・崇徳院と強キャラ僧侶の西行が繰り広げる異能バトル私小説なのだが(?)、『撰集抄』や『保元物語』などの先行作品を典拠としつつ、上田秋成の演出により異能バトル私小説としての強度が高まっている。また、「怨霊が出てきて自らの悪事を語り、これからなす復讐を予言する」という、ある種の「怨霊モノの型」は、以降の創作にも強く継承されていく(別に上田秋成が生み出した型というわけではないのだが)。他の作品もいずれも、原型となる物語が中国白話小説などに求められ、そこに各種の古典を入れ込んで作品が完成されている。素材となっている物語群にせよ、あるいはこの雨月物語に影響を受けた作品群にせよ、ともかく膨大な範囲に広がりがある。だからたとえ雨月物語を読んだことがない人でも、雨月物語を読むと、「この展開どこかで見たな」「この言い回し定番っぽいな」「このキャラ像、知ってる気がする」という感覚がきっとあるはずだ。それは受験勉強で読んだ古文や漢文の作品の1パーツかもしれないし、『世にも奇妙な物語』のようなエンタメ作品かもしれないし、2chの都市伝説コピペかもしれない。だから貴方は、雨月物語をすでに読んでいる。

 さて、せっかくなので残り8編についても強引な解釈で紹介しておこうと思う。『菊花の約』は、友情が強引に距離を超越する話。ファンタジーっぽい。BL要素あり(?)。『浅茅が宿』はずっとずっとずっと待っていてくれる健気ヒロインの話。いいよね……。『夢応の鯉魚』は9編の中では一番ほのぼの感があるが、絵が巧すぎるとそこまでいける、という話。ある意味、天才の超越性を描いており、ちょっとメフィスト作家っぽい(?)。『仏法僧』は逆で、俗物の目線から「体験を語る」という体裁で怪異を描く、実話型都市伝説。知り合いが経験した話なんだけど……というやつ。『吉備津の釜』は嫉妬に狂った女の怪談。部屋の中に籠もって、外から呼びかけられても決して応えてはいけない、という設定は、現代の都市伝説でも頻繁に用いられている。『蛇性の淫』は怪異に魅入られてしまった男の話で、これまた現代怪談にも影響していそうな作品。真女児は雨月物語最凶ヒロイン。『青頭巾』は禅Tuee作品。寺生まれのTさんっぽい。ラストを飾る『貧福論』は異色の経済小説。自己啓発本として電車に広告が出ていてもおかしくない。

 並べてみるに、やはり雨月物語の各作品というのは、現代に通ずる題材、演出、キャラクターをもっていて、これを二次創作してみるというのはすごく面白い試みだと思う。と、いうことは前からなんとなく考えていたのだが、まあそんなことは他にも沢山の人が考えており、雨月物語の二次創作やメディアミックスというのは結構たくさん存在している。じゃあオリジナル要素として何を導入するのが良いだろうか、と考えたときに、思いついたのがSFだった。SFはなんとでも組める。

 というわけで、雨月物語をSF的に再解釈する、怪異×SF小説合同誌で、2019年5月6日 文学フリマ東京に参加します。詳細は今後宣伝していくので、乞うご期待!!

(追記)Webカタログが公開されました! スペースはス-40!

(追記2)特設サイトにて、参加作品のあらすじを公開中!

 

おすすめ雨月物語書誌情報

↑本企画にあたっての再読に使っています。Kindle版もあり手頃で良い。

↑タイトルの通り雨月物語以外も収録した分厚い本ですが、雨月物語のパートをあの円城塔先生が現代語訳。序での遊び心はさすがです。

『Farewall, My Last Sea』 佐々木海月

 第8回Text-Revolutionsにて入手

 海に関連するSF的短編小説集。もともと別々の合同誌等に寄稿された作品を集めて構成しているとのことでしたが、単に集めましたという感じが一切なく、一冊の作品としてのまとまり・読了感の良さが素晴らしい作品でした。作品単体で読むと、続きが気になる(話がまとまるとかオチがあるとか解決するといかいうタイプの作品ではないため、悪く転べば単体では物足りなさもありかねない)ところ、うまく作品同士がつながることで、不思議で良い雰囲気がリレーされているように感じます。どの作品も気に入りましたが、特に良かったのは『morris』の異形と夜霧の感じ、『20,000 miles away』のラストシーン。あと、装丁や組版の細かいところにも気を配っているのが、一冊の完成度を高めているように思いました。「了」の代わりに使ってる(?)マークが好き。

『ジーク・ヨコハマ』 6人のヨコハマ戦士たち

 第8回Text-Revolutionsにて入手

 横浜をテーマにしたアンソロジー。表紙にカオスと書いてあるが実際にかなりカオス。6編の作品(と座談会)を収録。というか座談会のボリュームが結構ある。最初めくったときに謎の三段組が後半にあるのがわかったから、組版を工夫した作品があるのかな?と思って読み進めたらまさかの座談会だった。読んで一番好きだったのは今田ずんばあらず『半球のスター・ダスト』で、童話みたいな始まり方からの変化球、無理のある横浜要素、からのアクロバティックになんかきれいな話になって回収して締めるという、遊びと技術を感じさせる作品でした。座談会で平塚の宮沢賢治とか書いてあったけどその表現がハマってて笑う。それぞれの横浜観が垣間見えるのは結構面白く、ひざのうらはやお『Dear Y』と転枝『赤い光、横浜』はそれが対照的に見えるのも楽しめて良かった。『Dear Y』は横浜に対する私怨感がすごくて、由紀の描写が結構好きで、んで最後なんか急に気持ち悪い感じになって(褒め言葉)終わるのが良かった。『赤い光、横浜』は一番正攻法に横浜小説っぽい。ビブレとか。一応僕もかつて横浜にいたので。やはり横浜がテーマなので横浜に対して様々な感情があると楽しめそうだなという合同誌でした。

『葉桜の頃 桜葉の味』 堺屋皆人

 第8回Text-Revolutionsで入手

 和菓子をお題に書かれたミステリ調短編。安楽椅子探偵系日常の謎? ミステリ調と自称している通り、別に込み入ったトリックとか謎解きがあるわけではないのだけれど、ミステリの文脈を活かしつつ、丁寧な描写と会話劇で心地よく読ませる作品でした。続きがあるということで(同時に入手)楽しみです。

『アンチ文化侵略』 田畑農耕地

 第8回Text-Revolutionsで入手

 ショートショート7編を収録。いずれもコンパクトにまとめてオチのある、ショートショートらしさというか、安心して読める感じがあり好感が持てました。好きだったのは『井の中の魔法の海』で、これだけ一段階レイヤーが違うっぽく仕上がっている作品でした。謎解きと言うか若干ミステリ的な要素(言うほどでもなく、普通に読んだらわかるネタなんだけども)を中心に据えつつ、このセンチメンタルな料理の仕方は良いなぁと思わさせられました。

『台車は虚空の死体を運ぶ』 雲鳴遊乃実

 第8回Text-Revolutionsにて入手

 宇宙で死体を台車で運ぶ話、という引きが強すぎて表紙の情報が入ってこないので、読み終わった後に表紙を見たら宇宙に台車があって笑ってしまうという構造になっていた(?)。対置される決して死なない男というのも組み合わせとして力があり、かつ死なない理由がしっかりと効いてくるのがよく決まっているなと思いました。あと教授のマッド感がバトル(?)時にいい感じのコミカルさを出しているのが好き。結末までよくまとまっていると思いました。

『虚構推理』 城平京

  アニメ化が決まって話題になっているときに読んだことないって言ったらそんなわけ無いだろ的なをいただいたのでキャッチアップするために読みました。そしたらめっちゃ好きなやつだった。別にあらすじにだいたい書いてあるから特にネタバレ要素ないし説明してしまうと、都市伝説の怪異に対して合理的な説明をつけて説得力を獲得することで退治してしまうという話。めっちゃ好きなやつじゃん。主人公兼メインヒロインが敬語系腹黒美少女。めっちゃ好きなやつじゃん。そのヒロインとバディを組む九郎と合わせてふたりとも怪異に片足突っ込んでおり真人間ではない。めっちゃ好きなやつじゃん。あと琴子の造形で好きなところは九郎への好意の発端が特にそういう怪異的な理由ではない(いや全く無いのではないだろうけど)というのが良いと思う。めっちゃ好きなやつ。小ネタ的な天丼みたいなやつとか罵倒が挟み込まれるやつとかもめっちゃ好きなやつ。短編集もあるみたいなので読みます。