『幸運な子供たち』 まるた曜子

 第8回Text-Revolutionsにて入手

 文庫版約300ページの長編医療SF小説。墜落事故のただ一人の生き残りの少女を主人公に、彼女の命を救った医療技術を中心に据えつつ、その半生を描いた作品。医療機器《オートクチュール》やそこに新生児から入っている《EH》まわりの設定や、舞台となる世界(海面上昇後の世界。主人公は第二深圳出身、主要な舞台はセネガルなど、出てくる地名にそそられる)のSF感にしっかりとした強度がある。ただ、世界を揺るがすような出来事が起きるわけでもなく、山場みたいなものがあるわけでもなく割と淡々と、静かに(まさに『漂う』感じ)主人公ルォシーの過ごす日々が綴られている。なので、「先が気になってどんどん読んでしまう!」みたいな方向性と真逆で、普通そういう作品で300ページ読ませるのって難しいと思うのだけれど、不思議な魅力があって読み続けてしまった。すごいと思う。主人公の大人になれてない感じとかが一人称文体でうまく表現されているし(主人公がかわいいのは強い)、周囲の大人たちも魅力的なのが良い。

雨月物語SF『雨は満ち月降り落つる夜』 #文学フリマ 東京にて (3)

 2019年5月6日の文学フリマ東京にて頒布する雨月物語SF『雨は満ち月降り落つる夜』の告知記事です。特設サイト(1)(2)から先にどうぞ。

 そうです。前後編とは言いましたが(3)がありました。

 (1)(2)の作品紹介を書く上で、告知という位置づけで私や他の参加者を知らない方に向けて書くようにしたので、参加者の話(誰それらしい作品、みたいな)はしないようにしていました。でも、合同誌のコンセプトはわかったけどどういう人が書いてるの、という情報もなんだかんだあったほうが良いかもしれない、と思い、追加で記事を書くことにした次第です。以下、すべて私の個人的な見解ですが、参加メンバーの紹介をします。そういう紹介をすると必然的に内輪感が出てしまうのだが、そういう記事だと思ってください。あと、そんな紹介読んだってわからん、具体的にどんなのを書く人なんだよ、というのもわかるように、Web上で読める作品を中心に勝手におすすめしていこうと思います。これで連休の読み物には困りませんね。連休が無い方は5月6日だけでもなんとかしてください。なんとかする方法としては雨月物語の『菊花の約』などを参照してください。それではイカれたメンバーを紹介するぜ!

笹帽子

 でお前かよという感じですが掲載順なので……許して……。ジャンルはよくわかりませんが、ここ数年は、読みやすくする、楽しく気持ちよく、辺りを意識して書いています。Webで読める作品としてはとりあえず短いもので『吸血鬼はなぜ鏡の中で上下反転しないのか?』(百合、日常の謎)。

cydonianbanana

 静かにドライヴ感のある文体、登場人物や語り手に作者や読者までも巻き込んでいくメタ的な物語の広がりを得意とされているばななさん。文芸サークル『ねじれ双角錐群』を主宰されており、私も参加させていただいております。ねじれ双角錐群は秋の文フリ東京で三年連続合同誌を出しており今年も何かやばいやつが出るらしいです。お楽しみに。既刊はKindle版でも読めます。

 Webで読める作品として私のおすすめは『組木仕掛けの彼は誰』。冒頭からいきなり、世界を言葉でしか認識できない主人公の語りに引き込まれます。組木仕掛けの彼、一体誰なんだ……。

 cydonianbananaさんの告知ブログ記事はこちら

17+1

 ミステリやSFなど、謎解きや仕掛けのある小説を書かれている17+1さん。名前をなんと発音すればいいのかは私も存じ上げません。つまり18なんじゃないかと思うのですが……。今度教えてください。文学フリマにサークル『アナクロナイズド・スイミング』で参加されており、今度の文フリ東京でも参加予定だそうです。楽しみですね。

 文体としてなんか真面目に書いている雰囲気を出しつつサクッと面白い文節を挟んでくるみたいなのに自分が弱いので、そこが好きです。Webで読める作品として私のおすすめは『45^(-1)*27*5』。これはトリッキーすぎる作品で(すごいぞ)、上で書いた好きなポイントとあってないのですが、でもすごいので名前を挙げておきます。

 17+1さんの告知ブログ記事はこちら

Y.田中 崖

 幻想的な文章を書かれるY.田中 崖さん。私が小説を書き始めた頃に1000文字小説を中心に書いていて、その界隈で知り合ったのが最初、だと思います。もう昔過ぎて記憶が怪しいですが。ただ、それもあって掌編のイメージが強いです。幻想的な描写と、なんかかわいいものが登場するのが魅力的。あと旅情が感じられる文章が時々出てくるのも好きです。

 Webで読める作品がたくさんあって楽しく、選ぶのが難しいですが私のおすすめは『我が家の神々』。リンクをたどっていくともっと楽しいことがおきます。基本、掌編を多数書かれていますが、つながりがあったりするのがまた楽しい。

 Y.田中 崖さんの告知ブログ記事はこちら

志菩龍彦

 志菩さんも1000文字小説の縁で知り合ったのが最初だと思いますが遠い昔なので記憶が定かではありません。幻想、SF、クトゥルフ、百合などのジャンルを書かれている方で、当該作品は私は残念ながら読めていないのですが某SF短編の賞なども受賞されています。ホラー寄りの描写を得意とされている印象があり、今回の合同誌でも(怖いという意味ではないのだが)そのあたりが素敵な作品を書いていただきました。僕はうまく書ける気がしないのですが、怖さって何なんでしょう、五感の描写なのかな?

 その流れでWebで読めるおすすめは『魔櫻』。これも百合のやつですね。百合のやつは良いぞ。あと千文字だと『くりてくりて』。千文字ならすぐ読めるから今すぐリンクをクリックしてもいいと思います。しろ。

雨下雫

 雨下さんは文学フリマ等でサークル『C1講義室』で活動されています。『C1講義室』さんは雨下さんと小島宇良さんが二人で一作ずつ両A面仕様の文庫というのが定番みたいですが、お二人のバランスがすごく良く、また何よりもコンスタントに出し続けているのがすごい。今度の文フリ東京にも参加予定とのことです!

 幻想、ファンタジー系の作品が多く、また人物像の作り方が素晴らしいと思っており、中でもちょっと振り切っている系のヒロインと、魅力あるダメ男が好きです。明るい鬱屈感みたいなのに惹かれてしまう。Webで読めるオリジナル作品は少ないながらも、私のおすすめは『満ちては欠けて冬桜』です。強いヒロインタイプだ。

シモダハルナリ

 シモダハルナリはそのふざけた名前から想像される通り、本企画に際して便宜上使われている筆名であり、本来は別の名義で活動している方ですが、故あってシモダハルナリを名乗っているということで、ここでも多くは語りません。その正体はぜひ君自身の目で確かめてくれ。

鴻上怜

 鴻上さんは、なんでも書ける上に筆が速く筋トレのごとくストイックに執筆されているイメージがあります。登山と執筆は似ているという名言には納得せざるを得ません。あとしっかり取材をするのもすごいなぁと思っております。地に足の着いた安定感のある文体でぶっ飛んだことが書いてあったりするのが楽しいですね。

 Webで読める作品は、残念ながら投稿サイトのアカウントを最近整理されたようで今読めるのが少ないのですが、直近に公開されたものとして『厳冬節』を。これは百合のやつ……か?

murashit

 インターネットを殺して俺も死ぬで有名なmurashitさんは、murashit文体で小説を書かれており、すべてがmurashitになることで知られています。声に出して読みたいというか、語られることが想定されている文章に惹きつけられます。また内容的にも結構重層的と言うか情報量が多いので、なおさら読み返したくなるし、読み返しに耐える強度があるんだ。

 Webで読める作品として私のおすすめは『cond/quote/lambda』。ニューゲームです。

 murashitさんの告知ブログ記事はこちら

 

 以上、9名が参加した雨月物語SF『雨は満ち月降り落つる夜』、5月6日の文学フリマ東京 ス-40にてお待ちしております。

雨月物語SF『雨は満ち月降り落つる夜』 #文学フリマ 東京にて (2)

前編はこちら

 作品紹介の続きです。

5.『boo-pow-sow』(志菩龍彦)

 老後の楽しみでカジュアル剃髪して風流ぶって旅をする、現代で言えば早期退職して蕎麦を打ち始めた的なおっさんが、高野山で夜を明かすうちに豊臣秀次とその家臣の亡霊に行き逢ってしまう怪談『仏法僧』を踏まえ、高野山という霊場を舞台としつつ風流ぶったおっさんを排除して女子高生の話にした、幻想SF。おっさんを排除して女子高生にしたの英断すぎる。仏法僧という三文字をboo-pow-sowと表記するだけでSFっぽくなるのがすごく、方言とかも含めて音声的な感覚が鮮やかなのが良い。本合同誌の百合枠です(?)。

6.『巷説磯良釜茹心中』(雨下雫)

 非の打ち所のない完璧な妻・磯良を迎え、しかし生来の浮気性から妻を裏切ってしまう男・正太郎が、嫉妬のあまり生霊となった磯良に襲われる怪談『吉備津の釜』の舞台を近未来に移し、吉備津神社の鳴釜神事をAIによる推薦配偶者制度に置き換え、しかし正太郎のダメ人間さは変わらないという恋愛SF小説。原作のエッセンスを踏まえつつ、正太郎と磯良という二人の人間性が掘り下げられており、ヒロイン磯良ちゃんの健気さに目を瞠ることになる。原作が適当に済ませた要素すら回収する技量に感服。

7.『月下氷蛇』(シモダハルナリ)

 蛇の怪異である真女児に見初められてしまった豊雄が幾度も真女児に付きまとわれ、しかし最後にはそれを退けるまでに成長する物語『蛇性の婬』の続編として書かれた短編。原作『蛇性の婬』のラストで、真女児は妹分のまろやと共に鉄鉢に封印され、地下深くに埋められた。本作は地球人類滅亡後に異星人がそれを掘り出したところから物語が始まる。原作終了直後から話を始める続編は本合同誌唯一の試みで、しかしそれが異星人の出現でおかしな方向に走り出す、スピード感のある作品。

8.『イワン・デニーソヴィチの青頭巾』(鴻上怜)

 可愛がっていた童子の死をきっかけに堕落し食人の罪を重ねて鬼となってしまった阿闍梨を、スーパー禅僧・改庵禅師が教化する俺tuee小説『青頭巾』に、まさかのロシア要素を投入した上で異世界転生で本当に俺tuee小説にしてしまった作品。続編でもオマージュでもない、パラレル展開的な『青頭巾』で、バトルシーンが笑えます。これだけ異質なものが投入されても調和し、キリスト教と仏教すら繋がる力技。真面目っぽい文章でいきなり単語選びで笑わせてくるのがずるい。

9.『斜線を引かない』(murashit)

 マネーを愛する異色の武士・岡左内が、枕元に現れた黄金の精と、金銭と社会について語り合う問答小説『貧福論』を、情念経済を題材とする美少女AIとの対話に置き換え、独特の高密度文体で語られる/記される、声に出して読みたいポストヒューマンSF小説。情念と日記が他の雨月物語のテキストを内包しているのがラストを飾るのにふさわしい。本合同誌の中で随一の、読み返したくなるタイプの魅力をもった作品。

装丁とか

 ミニマルな白色表紙、裏表紙は原作マップ。写真でわかりにくいのですが、格子柄の入った和紙風の手触りの表紙になっており、触るだけでご利益があります。

 また、各作品前の扉には、各作品の担当者が書いた原作のあらすじが配され、一応原作がどんな話だったか思い出してから/知ってから本編に入ることができるようになっております。また、そのあらすじ自体が、担当者が原作のどの部分に着目したのかというのが読み取れる手かがりにもなっているという趣向です。

頒布情報

 2019年5月6日(月・祝)、文学フリマ東京にて頒布いたします。B6版264ページ(結構分厚いぞ)、1,000円となります。Webカタログはこちら

 文フリ東京、いつもより会場が大きい一部屋になり、過去最大1,000ブース超えらしいです。やばすぎる。連休最終日は文学に溺れろ!

『火竜の僕は勇者の君と一度も言葉を交わさない』 雲鳴遊乃実

 第8回Text-Revolutionsにて入手

 夢で繋がる系のファンタジー小説。雲鳴さんの小説は何作か読ませていただいて、地の文での心情表現の丁寧な積み重ねに強みがあるのかなと思っていて、本作でも”僕”の鬱屈や夢の中で得られるカタルシス、また後半で時間が経ったあとの記憶がぼんやりしている感じの表現などがよく書かれていて、タイトルの通りセリフ的な表現が制約を受ける設定とマッチしているなと思ったりした。

 カクヨム連載分に書き下ろしを加えたということで、カクヨムの方は読んでいなかったのだけれどおそらく「番外編」分が書き下ろしであろうと思われ、この形で読むと番外編まであって一作として成立しているなと思った。本編だけ読むと、ラストシーンの必然性がそこまでピンとこなかったのが、番外編でうまく回収されて、また「一度も言葉を交わさない」に対する別解というか、違う目線からのアンサーが描かれているのがすごく良かった。

 あと本筋に関係ないんだけど、最初火竜が「ひりゅう」なのか「かりゅう」なのかわからなかったので(いやどっちでもいいんだけど、セリフを脳内再生するときに気になってしまう。ネットで調べるとかりゅうのほうが多数派っぽい。主にモンハンのせいで)、初回登場時にルビがあると嬉しいかなと思った。途中でひりゅうだとわかるセリフがあったので(ひ、火竜!?)、それを初登場時にもってくるとルビなしでいくこともできると思う。

『老ヴォールの惑星』 小川一水

 とても良かった。

 SF小説。ハードSFっぽい空気にしつつ人間を描くタイプ。四編どれも、途方もなさによる極限状態のつらさみたいなのが描写され、息苦しいんだけれど、必ず結末は明るいのが希望を感じさせてくれて(きっとそれはポリシー的なものなんだろうと思う)、読後感が良いのが素晴らしい。安易に暗い感じにならないというのは結構な信念を必要とすると思う。全部好きだけど、選ぶなら「漂った男」が一番かな。

『黒塚さんの犯罪蒐集』 白樺あじと

 第8回Text-Revolutionsにて入手。1(無印)、2、3の3巻。

 犯罪を蒐集するという偏執的な趣味を持つ黒塚さんと、その助手の”僕”の話。黒塚さんは犯罪に関して天才的な嗅覚で推理を展開するが、犯人の逮捕が目的なわけではなく、あくまで犯罪を蒐集したいという立場なのが変則的で、その立場を活かした解決やトリックも楽しい。2でサスペンス要素(アクション要素?)を入れ、3で二重解決的に展開を広げていくのも良かった。なにより黒塚さんと周囲のキャラクターに対して作者の丁寧な愛情が感じられるのが読んでいて楽しかった。

雨月物語SF『雨は満ち月降り落つる夜』 #文学フリマ 東京にて (1)

【追記】Kindle版を配信開始しました!!

 

 前後編に分けて告知記事を書きます。

 特設サイト:雨は満ち月降り落つる夜 – 雨月物語×SF

この本はなんなのか?

『雨は満ち月降り落つる夜』は、近世怪異小説の名作である雨月物語の9編をSF的に再解釈する小説合同誌です。雨月物語の要素を現代や未来に置き換えSF的に仕立てた小説や、雨月物語の世界と連続性をもった近未来を描いた小説などを9編収録しています。

 雨月物語の評論とか解説をするものではなく、あくまでSF小説の合同誌です。

 2019年5月6日(月祝)、文学フリマ東京にて頒布します

雨月物語を知らないと読めないのか?

 全くそんな事はありません。聖書をちゃんと読んでないとドストエフスキー読めないのか、というと別に読めると思いますし楽しめると思います。各種元ネタ知らなくても東方ProjectやFGO楽しめます。そういうレベルです。

 また、たとえば雨月物語の『吉備津の釜』を読んだことがなくてもネット怪談の『八尺様』は知ってるとか、そういう無意識下での影響があるはずなので大丈夫です(?)。詳細はこちら

どうして作ったのか?

 以前から古典文学とSFの相性は意外に良いという感覚があったのですが、雨月物語というのは影響力も強いし9編というアンソロジーにちょうどよいボリュームでもあるしということで企画しました。Twitterでやりますと告知したところ反応を示してくださった方に声をかけ、制作に至りました。

どんな作品が収録されているのか?

 それではここからネタバレ無し感想を交えつつ紹介していこうと思います。

1.『ノーティスミー、センセイ!』(笹帽子)

 拙作。冒頭が主宰なのはどうなんだというのはあるのですが、作品割当を先に決めたら自動的に原作の順序で掲載することになるよねという形で決まりました(原稿集まってから掲載順決める普通の合同誌と順序が違うな)。ヒーロー西行法師と、日本三大怨霊の一人である崇徳天皇の論争を描く歴史異能バトル『白峰』から遠い未来、ポストシンギュラリティの京都で再び二人が対峙する話に、サイバーセキュリティの啓蒙要素を加えてついでに女子小学生を足しておいた小説です。セキュリティは本当に基礎的なところで足をすくわれるので気をつけてください。

2.『飛石』(cydonianbanana)

 義兄弟と交わした再会の約束を違えぬため、自死し死霊となって駆けつけるという友情を描いた怪異譚『菊花の約』をメタ的に二次創作し、物語への没入者としての幽霊をエヴェレット的多世界解釈と絡めて仕立て上げた温泉小説。創作物に登場した舞台を訪れるいわゆる『聖地巡礼』要素と、自分が創作をしようというときにその舞台を訪れる『取材』要素を紀行文学的に配置し(温泉入りたかっただけ説もあるが)、最終的には創作とは何かという高みを目指すハードSF。射程の長さに脱帽。

3.『荒れ草の家』(17+1)

 戦乱に巻き込まれ、家に妻を残したまま七年もの長きに渡り帰ることができなかった男が、死んだものと思っていた妻と再会する幻想的な怪異譚『浅茅が宿』を踏まえ、家に侵入して閉じ込められてしまった空き巣と、家主の帰りを待ち続けるロボット掃除機とスマートスピーカーと蟹(?)たちの奇妙な生活を描く作品。前2作が原作を歴史としてあるいは創作物として踏まえた小説であったのに対し、本作は原作『浅茅が宿』の内容が直接引かれることはなく、しかしそのテーマである「帰りを待ち続ける」ことが現代的なSFガジェットを用いて掘り下げられ、最後に作者独自のアンサーが与えられており、不思議な感動があります。ロボット掃除機やスマートスピーカーや蟹(?)が可愛く思えてくること間違いなし。

4.『回游する門』(Y.田中 崖)

 夢で出逢った魚の絵を一心に描くうち、自らも魚となって泳ぎ回った僧の不可思議な体験を描いた夢幻小説『夢応の鯉魚』の、遠未来の後日譚を描いた作品。三次元的に増殖する巨大な機械都市を舞台に、名前が数字で表記され機械化された登場人物たちが繰り広げる冒険は未来SFアクションで、どこへ向かうのかと思いながら楽しく読ませたあと、その終着点はまさに近世文学のSF的解釈。魅力的なキャラクター像があり、主人公三人がわちゃわちゃしてるのが楽しい。都市が増殖する系SFが好きな方にハマる作品です。

 

後編はこちら

『飲み会が終わったら』 白樺あじと

 第8回Text-Revolutionsにて入手

 日常の謎2編。『空飛ぶ灰皿 熊の理由』 の続きというか同じサークルの話。一体何のサークルなんだ……。やっぱりちゃんとミステリをやっていながらキャラクターに魅力があり、今回なんかは特に1編目と2編目にミステリ外の部分でもつながりというか解決が用意されているのが巧みだよなぁと思います。やっぱり湯河原さん好き。

『偽幽霊と冬花火』 雨下雫

 第8回Text-Revolutionsにて入手

 表題作の短編の他、掌編2編を収録。表題作は熱海モノ。女性主人公はちょっと新鮮でした。斜に構えがちなので実はそっちが幽霊とかそういう展開なのかとちょっと思ったけど普通に良い話だった。普通に良い話じゃん……。あとカメラがただのエモアイテムじゃなくてちゃんと話を駆動しに来るのがしっかり光ってていいよなぁと思った。引き出しが多くてすごい。

『満ちては欠けて冬桜』の序盤の女の子みたいな系統のパワー好き。

『空飛ぶ灰皿 熊の理由』 白樺あじと

 第8回Text-Revolutionsにて入手

 日常の謎2編。日常といいつつ事件そのものは割合シリアスなもの。ただ大学生たちが飲みながら推理するというところが日常っぽい感じになっている。白樺あじとさんの作品を何作か読んできましたがすべての作品がミステリとして正統で無駄な要素がなくかっちりしているので気持ちが良いです。同時に、こういう短めの話でトリックだけで終わりということもなくキャラの良さが端々に出てくるのも楽しい。チンピラの真似が上手い湯河原さんすき。