雨月物語SF『雨は満ち月降り落つる夜』 #文学フリマ 東京にて (2)

前編はこちら

 作品紹介の続きです。

5.『boo-pow-sow』(志菩龍彦)

 老後の楽しみでカジュアル剃髪して風流ぶって旅をする、現代で言えば早期退職して蕎麦を打ち始めた的なおっさんが、高野山で夜を明かすうちに豊臣秀次とその家臣の亡霊に行き逢ってしまう怪談『仏法僧』を踏まえ、高野山という霊場を舞台としつつ風流ぶったおっさんを排除して女子高生の話にした、幻想SF。おっさんを排除して女子高生にしたの英断すぎる。仏法僧という三文字をboo-pow-sowと表記するだけでSFっぽくなるのがすごく、方言とかも含めて音声的な感覚が鮮やかなのが良い。本合同誌の百合枠です(?)。

6.『巷説磯良釜茹心中』(雨下雫)

 非の打ち所のない完璧な妻・磯良を迎え、しかし生来の浮気性から妻を裏切ってしまう男・正太郎が、嫉妬のあまり生霊となった磯良に襲われる怪談『吉備津の釜』の舞台を近未来に移し、吉備津神社の鳴釜神事をAIによる推薦配偶者制度に置き換え、しかし正太郎のダメ人間さは変わらないという恋愛SF小説。原作のエッセンスを踏まえつつ、正太郎と磯良という二人の人間性が掘り下げられており、ヒロイン磯良ちゃんの健気さに目を瞠ることになる。原作が適当に済ませた要素すら回収する技量に感服。

7.『月下氷蛇』(シモダハルナリ)

 蛇の怪異である真女児に見初められてしまった豊雄が幾度も真女児に付きまとわれ、しかし最後にはそれを退けるまでに成長する物語『蛇性の婬』の続編として書かれた短編。原作『蛇性の婬』のラストで、真女児は妹分のまろやと共に鉄鉢に封印され、地下深くに埋められた。本作は地球人類滅亡後に異星人がそれを掘り出したところから物語が始まる。原作終了直後から話を始める続編は本合同誌唯一の試みで、しかしそれが異星人の出現でおかしな方向に走り出す、スピード感のある作品。

8.『イワン・デニーソヴィチの青頭巾』(鴻上怜)

 可愛がっていた童子の死をきっかけに堕落し食人の罪を重ねて鬼となってしまった阿闍梨を、スーパー禅僧・改庵禅師が教化する俺tuee小説『青頭巾』に、まさかのロシア要素を投入した上で異世界転生で本当に俺tuee小説にしてしまった作品。続編でもオマージュでもない、パラレル展開的な『青頭巾』で、バトルシーンが笑えます。これだけ異質なものが投入されても調和し、キリスト教と仏教すら繋がる力技。真面目っぽい文章でいきなり単語選びで笑わせてくるのがずるい。

9.『斜線を引かない』(murashit)

 マネーを愛する異色の武士・岡左内が、枕元に現れた黄金の精と、金銭と社会について語り合う問答小説『貧福論』を、情念経済を題材とする美少女AIとの対話に置き換え、独特の高密度文体で語られる/記される、声に出して読みたいポストヒューマンSF小説。情念と日記が他の雨月物語のテキストを内包しているのがラストを飾るのにふさわしい。本合同誌の中で随一の、読み返したくなるタイプの魅力をもった作品。

装丁とか

 ミニマルな白色表紙、裏表紙は原作マップ。写真でわかりにくいのですが、格子柄の入った和紙風の手触りの表紙になっており、触るだけでご利益があります。

 また、各作品前の扉には、各作品の担当者が書いた原作のあらすじが配され、一応原作がどんな話だったか思い出してから/知ってから本編に入ることができるようになっております。また、そのあらすじ自体が、担当者が原作のどの部分に着目したのかというのが読み取れる手かがりにもなっているという趣向です。

頒布情報

 2019年5月6日(月・祝)、文学フリマ東京にて頒布いたします。B6版264ページ(結構分厚いぞ)、1,000円となります。Webカタログはこちら

 文フリ東京、いつもより会場が大きい一部屋になり、過去最大1,000ブース超えらしいです。やばすぎる。連休最終日は文学に溺れろ!

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