『SFアンソロジー WORK Upside Down』 グローバルエリート

 第二十八回文学フリマ東京にて入手

 宣伝画像とか、Webサイトとかがかっこよかったので気になっていました。文フリ当日も謎のユニフォームを来た集団が売り子をしており非常に圧があった。メンバー紹介などをみるとデザイン担当とか決まっていてすごいなと。

 7編のSF小説を収録。扉ページにかっこいいイメージの抽象画っぽいのが入っているのが素敵。それをめくったところに作品・作者紹介的なコメントがあるのは良し悪しかなと。情報としてはあったほうがいいけど、事前に読んでしまうと若干ネタバレ感もあり、作品を読んだ後に出てきたほうが良いようにも思いました。総じて面白かったので以下個別の感想を書きます。

『𝓢’』髙座創

 人類が計算機上の知性になった未来で、長大な時間や極小の距離を扱いながら話が進むSF。考えているシーンが長いと言うか、説明的な説明にかなりの字数が費やされているために、どうしても動きが少ない内容が続くんだけれども、そこからの反動としてのラストシーンが好き。最後の一行がすごく格好良い。

『新生物地理区サニーコート・マツダ』架旗透

 これは予告ツイートの冒頭部分を見た段階で一番面白そうだった作品(冒頭でのつかみがすごい。実際読んでもらうためにそれは重要なことだし、テラフォーミングの単語が予告ツイートに含まれる冒頭2pにギリギリ収めてあるのも狙っているとしたらとても上手いなと思う)。そして実際に面白かった。アパート「サニーコート・マツダ」にテラフォーミングが仕掛けられ、在来種の院生たちは放逐されるか帰化するかを迫られるという無茶な話で、その設定はSFなんだけれどやっていることはコメディであり青春モノ(?)という、とても楽しく読めるエンタメ作品だった。話の広がり方(というか広がらなさ)や終わり方もSF的というよりは青春っぽくて、それもまた好き。

『Upside Down』零F

 表題作。これメンバーで互選とかで表題を決めているんだろうか? そうだとすると結構面白い試みだなと思った。時間モノ。予告文に構造がどうとかと書いてあって冒頭の章タイトルを見たら大体どうなるかわかると思うけどそうなる話。切り刻む系は技術力がかなり必要だなと思って、本作は途中ちょっとサスペンスっぽい要素があったり人物を誤認させる(?)描写があったりするのが牽引力になっていたのが良かったなと思う。

『断末魔コンテスト』元壱路

 一般的な言葉遣いで言うとこの作品はあんまりSFではないと思うんだけど、読んでて一番楽しかったのはこれ。こういうタイトルで出落ち系の作品に弱いんですよね……。冒頭の真面目なふりをしているシーンからの数ページ後の落差で笑わせ(笑うだろあんなん)、無茶苦茶な話を展開していき、最後に冒頭の真面目っぽい部分まで回収してくる無駄のない構成、素晴らしいと思います。

『帰還者に向けたよりよい生活の手引き ――『第三章:コミニュケーション』』維嶋津

 一発ネタではありますが、この作品はかなり好きです。これは何が面白いかを書いてもネタバレにしかならないしなんとも言えないけど。ページを捲った瞬間の「そっちかー!」という笑い。やられました。

『AIライツウォッチ』東京ニトロ

 一番SFのイメージでしっかり読ませる小説で、すごく良かった。かなりの密度と疾走感でSF的近未来の社会が描かれており、謎あり、アクションありでクライマックスに向かって全力で盛り上がっていくので気持ちがいい。ドライヴ感があり強い。強いて言えば、最後の「続く」的な終わり方はちょっと「え?」となってしまう唐突感があったので、別に書かなくても前作読んでる人には伝わるからいいのでは……と思いました。でも前作がめちゃめちゃ気になってきたので読みたい。

『ミヤの眠り、私の朝』杏野丞

 合同誌の最後というポジションって、読後感を支配してくるので結構難しいと思うんだけれど、この作品はきっと最後に置くに相応しいと思います。7作中で一番静かで深刻なSFなのかなと思う。ラストシーンの静謐さが良い。あと、終盤のシーンで「誰か一人でも、この席に真体の自分を~」のところはSF設定を使いながら断絶がうまく表現されているなぁと思った。

『魂よ、忘るるなかれ』 寺岡敬

 第二十八回文学フリマ東京にて入手

 もともとtwitterでフォローしていたこともあり気になっていたのですが、シリーズ物なのかなと勝手な敷居の高さを感じていたところ、なんと今回スペースがお隣で声をかけていただき、番外編なので単独から読めますということで読ませていただきました。「歌で怪異を祓う少女」が活躍する話。日記を読み解いて怪異を知り、それが自分にも現れるという趣向の感染性っぽい描写が良かった。こういう怪異が出てくる場合、そもそもどういう存在なのかとか、その前はどこから来たのかみたいな設定を語るか語らないかって作風を大きく分けるよなと言う感じがして、本作では結局怪異がなんなのか全然わからない感じが(あえてそこは追求・説明しない感じが)、もう少し知りたいという思いもありつつ、番外編で一般人の目線で書かれている話だからそれくらいの塩梅がいいのかな、とも思ったりした。不破想良の能力の詳細とかもわからないが、なんか強そうで面白そうというのは掻き立てられるので楽しかった。関西弁なのにLINEの書き言葉だと標準語なのかわいいのでとても良いと思います。

『第一回異世界分子生物学会年会講演要旨集』

 第二十八回文学フリマ東京にて入手

 異世界における分子生物学会の講演要旨集という体裁で、異世界的な存在を科学的に紐解く。しかも本物の研究者たちが書いており、雰囲気がそれっぽくなっている。企画としてめちゃめちゃ面白そうなので速攻で買いに行きました。

 どれも面白かったが、気に入ったのをいくつかメモ。『ケルベロスの唾液由来アルカロイド誘導体の構造および生合成メカニズムの解析・黒川晶(第7 魔法大,魔法生化学)』はサベルニンとかオルフェウスとかの小ネタがじわじわきてよかった。『害獣ノヴァのドラフトゲノム・Uta Tsutats(ホイ・ホイ大理,人類学) 』と『全ゲノム解析が明らかにするワモンゴブリンの特異な性的嗜好の起源・人鳥暖炉(スカイガイオン鳥人自治区立大)』の2本はこの企画の中でも文芸性というかエンタメ性が強く特に好き。他の作品は真面目に(?)分子生物学会に本当にありそうな内容を(いや行ったことないけど)異世界の生物に当てはめているものが多く、その「ありそう感」が楽しい中に、いきなり投げ込まれる上記二作のオチが好きです。巻末に松浪硝子の広告があり(ガチなのか??)、でもその住所の「異世界文京区湯島」でめちゃめちゃ笑ってしまった。

『手品師の弟子』 戸田鳥

 掌編8編を収録。『ジャパニーズ・ライフ/羊の反逆』と続けて読んだけれど、こちらのほうが各編は若干長いような気がする。内容的にはこちらのほうが優しい感じの読後感のものが多い。『羊の反逆』のような怪談的わかりやすいオチみたいなのはあまりない。どっちが良いとかではないけれど、全体としてはこちらのほうがより好きかなと思った。

 特に好きだった作品は『星のない男』、『手品師の弟子』、『迷霧』。『星のない男』と『手品師の弟子』は、どちらも不思議な設定(大好きなコロッケが食べられなくなって消えてしまいそうになる身長5センチの男、物を他のものに変えてしまう不思議なクセのせいで失敗ばかりの手品師の弟子)がありながら、それが伏線みたいに活用されたり回収されたりするでなく、優しい感じに締めくくられる(たまたまか知らないけれど、星の要素が2作品に共通しているな)。良い読後感が残って好き。『迷霧』は、ジャンルとしては怪談的なのだけれど、オチを付けてゾッとさせるタイプではなく、じわじわと怖い話をするタイプで、やはり読後感が良かった。肖像画を描くという行為と怪物の形相が結びついた話で、醜くなることで人のしがらみから解放されるという下りが面白かった。

『ジャパニーズ・ライフ/羊の反逆』 戸田鳥

 掌編13編。比較的、不思議な話や怖い話が多め?

『真田医院』『羊の反逆』の2作が気に入った。『真田医院』は得体の知れない感じの怪談(?)で、兄弟ネタの天丼や医者と看護師のキャラでコミカルな感じを出しつつも怖さがしっかりと残るのがよかった。『羊の反逆』も同じく怪談寄りで、これは「世にも奇妙な」系のジャンルな気がする(言うほど世にも奇妙なを見てないが…)。怪談の型として、二段落ちというか、緊張→安心→最後にドーン、というのが定番だけど、うまく使われている。これが羊であるというのが、最後のオチの部分の気味悪さを強めているようにも思えた。

『天笠画廊のこと』 白樺あじと

 第二十八回文学フリマ東京にて入手

 短編三編を収録。『彼女の庭』は殺人の犯行直後から始まるミステリ。しかし殺人自体を云々するのではなく、その死体の隠滅に関わる意図についての変則的な内容。回想として入ってくる挿話に無駄がなくよくできていると思った。『再会』はなんかコメントするとネタバレになる系のミステリ。不自然さから察しはついたが。そして最後の表題作『天笠画廊のこと』は、多分、ミステリではない。ではないが、これが一番好き。ちょっと苦い系で気持ちを揺さぶられる。掌編かくあるべし!!

『ひとひら怪談』 薄禍企画

 第二十八回文学フリマ東京にて入手

 見開き1ページの掌編怪談集。装丁/デザインもきれいで楽しい。目次に執筆陣と作品の対応が示されているが、ページ数しか書いてないので能動的に読まないとわからないし、本文ページからは作者名が排除されている趣向。意図的に作家性を見えにくくしているんだろうか。面白い試みだなと思った。気に入ったのは『検索してはいけない言葉「ハッピーエバーファーム」』、『歌う女』、『雪崩コタール』、『花嫁』、『やまくじら』、『なんか』。正統的な掌編怪談としては『歌う女』、『花嫁』の二作が特に好き。『雪崩コタール』の落ちも好き。

文フリ東京ありがとうございました/雨月物語SF『雨は満ち月降り落つる夜』Kindle版の配信

 先日、雨月物語SF合同『雨は満ち月降り落つる夜』で文学フリマ東京に参加させていただきました。スペースを訪れていただいた方、どうもありがとうございました!

 初めて文学フリマというイベントに行ったのはもう6、7年前、下手するともっと昔かもしれないと思うのですが、そのときは「へ、へぇ~こんな感じなんだ~……」と会場をうろうろし、その空気に飲まれ、瘴気にあてられ、特に何も買わずに帰ったのを記憶しています。そこから比べると最近は行ったら本を結構ポンポンと買ってしまうし、あまつさえ今回は合同誌の主宰として参加してしまったというのは、年とって耐性がついたというのか、丸くなったというのか、単に使える金が増えたからか、まあ大人になるのってそんなに悪いことばかりじゃないよね、と思います。

 今回、印刷部数は各方面に聞いた話とか、参加させてもらっているねじれ双角錐群の情報とかを参考に、決して日和ったつもりはないまあ妥当だろうという数を刷り搬入したのですが、想定外にたくさんの方にお越しいただき、13時台に完売してしまいました。イベント自体が過去最大を更新する規模・来場者となったことに加え、開催直前に私がスパムの勢いで宣伝していたのが思っていたより多くの方に見ていただき、さらに私が想定していた以上の雨月物語というコンテンツの強靭さ、SFというジャンルの強さなども相まった結果なのかなと思っています。当日夜に小数部確保しておいた分の通販も実施しましたが、すぐにそちらも無くなってしまい、欲しかったが手に入らなかったという方も出てしまったと思います。そこは申し訳なかったです。

 雨月物語をSFにするアンソロジーやりましょうという適当なツイートに反応をくれた方に声をかけていくことで集まった今回のメンバーでしたが、それぞれ素晴らしい作品を書いていただきました。それぞれの作品の感想は告知記事に書いた通りなので繰り返しませんが、原稿が集まってきた時、「雨月物語をSFにしていったら楽しいだろうな」という企画当初の漠然とした構想がすっと鮮明な像を結ぶ感覚がしたのが心地よく、それが紙の本として刷り上がり形をなすに至る快感は強烈で、これは中毒性があるぞと思いました。雨月物語は高校生の頃から好きな作品で、今回の企画で他にも雨月物語が好きな人がたくさんいるというのがわかったのも嬉しいですし、今回の本をきっかけに雨月物語を読んだ、読み直してくれた方がたくさんいたのもとても嬉しく思います。

 さて、そんな雨月物語SF『雨は満ち月降り落つる夜』ですが、この度Kindle版を配信しました!! 物理本をお渡しできなかった方に届けば幸いです。ぜひよろしくお願いいたします!!

 もし楽しんでいただけたなら、ぜひ感想をツイートしたりブログに書いたりAmazonのレビューに書いたり読書メーターに書いたり(物理本Kindle版)こっそり僕にメールしたり(sasaboushi[at]gmail.com)、あるいはそれらすべてを同時にしてください!! メンバーが輪番を組んで昼夜を分かたず執拗なエゴサを実施しています!!

『ヴァージニア・ウルフ短篇集』 Virginia Woolf  西崎憲訳

 明日の文フリにて頒布されるウルフ本が気になっており、とりあえず文フリ前になにか一冊読もうと思って読みました。大学の何かの授業で『ダロウェイ夫人』を読んだような気がしなくもなくもないのだけれど、あと同じく何かの授業で「意識の流れ」ってこんな感じですよみたいなサンプルでなにか短編を読んだような気がしなくもないのだけれど、まあ授業で読んだ気がしなくもなくもないということは実質読んでないも同じ。Kindle化されている邦訳は少なかったので今回はこれを。

 意識の流れ、とよく言われるのでそれは認識しており、詩に近いイメージを持っていたけれど、改めて読んでみると、『ラピンとラピノヴァ』や『堅固な対象』なんかは結構ストーリーラインがあり、短編小説として面白くて、気に入った。今まで(実質読んだことなかったなりに)あったウルフのイメージが補正されたように思う。一方で、『キュー植物園』と『書かれなかった長篇小説』は逆にもともと(実質読んだことなかったくせに)あったウルフの、というか意識の流れ系のイメージに近くて、気に入った作品。特に『書かれなかった長篇小説』は語り手の存在感と終盤の気持ちいい感じが良かった。全体的にやっぱり読むのスピード(というかそれこそ意識の流れ)が引っ張られるので、読むのは大変。でもこの文章かっこいいよね。

クダンノフォークロア

 ジャンルがジャンルだけに、これはやらないとな……と思ってやり、感想も書かないとな……と思ったので書きます。「少女+百合+都市伝説」という触れ込みで、いやそれ、無理やり少女追加して3つにしたよね感がすごいのだが、そういうゲームです。百合系フォークロアADVだそうです。百合です。

 全体としては楽しめました。美術とボイスは文句無しで良い。これは実際本当に良いです。「少女+百合+都市伝説」が気になる人はやって損はないかなと思います。百合なんだよな。ただシナリオは不満な部分がいくつかあり、あんまりこういう感想文でネガティブなことを細かく書かないんだけど、楽しんだだけにいろいろ書きます。こっから先、核心には触れないけどネタバレのリスクあります。

 まず、この謳い文句でやるからにはもう少し都市伝説を掘り下げてほしかったなぁというのが第一にして最大(勝手に自分がハードルを上げすぎた感はあるんだけど……)。特に小兎に神秘学研究会部長というポジションを与えており、後半で彼女の秘密も明かされることを思えば、もっと都市伝説のうんちくを語ってほしいんだけどなと思ってしまった。神秘学研究会に入るようなマニア性、オタク感が表現されていないというか。クダンに含まれている要素をもっと詳しく分析するとかそういうのをしてほしかった。あと、都市伝説とフォークロアという用語を意図的に使い分けているみたいなことを言ってたけど、そのあたりの説明とかも欲しい。そこをさらっと流しておいて別のところで紗和子さんが普通にフォークロアって言ってたのはちょっとえーってなってしまった。一般にはあまり使われない単語をあえてフィーチャーしているのだからその定義はしっかりさせた方が良いと思うし、その内輪の定義の話を聞いてないはずの人が発声してはいけないと思う。次に、便宜上シナリオを4部構成と解釈するけど、第1部の「クダン」と第2部の「フォーチュンライン」は、ミステリとしてはそんなにという感じを受けてしまった。ちょっとアンフェア感あるし、犯人がわざわざそんな手の込んだこと事すんのかという納得感が無い(後半への布石として必要なんだろうけれども……)。このあと書く通り、第3部以降は話も面白く感じたんだけど、序盤の印象がもうちょっと良いほうがなぁと思う。最後に、これはライターの癖というか作風なんだろうけど(FLOWERS、やったことありません。やらないとな)、漢字変換が気になる。「為って」はまあ、許すとして、「佳い」はちょっと鬱陶しく感じた。気炎上げすぎだろとか微に入り細に入りすぎだろというのは作風なので別に良いです。嫌いじゃない。

 上に書いたとおり、第3部以降のシナリオは楽しめて、第3部「夜売百物語」は良かった。百物語やってるシーン好き。というか塔子さんの風呂の話ふつうに怪談として出来がよすぎると思った。意味のわからない怖さ、良い。トゥルーエンド第4部「クダン」は、ノーマルエンド2編を踏まえているからこそできる多重解決(?)的などんでん返しが心地よく、ゲームとしての構成を活かしたカタルシスがあり、非常に良かった。というかノーマルエンドはミステリ的には最後「は?」ってなるんだけど、あれは最後にあるはずのどんでん返しがない状態と解釈すると遡及的に許せる感じになったのかなと。トゥルーエンドの最後は百合的にどうなんだというのは審議が必要そうだけど(カップリング信仰に囚われるな!)、まあそれも良いんじゃないかと思いました。

 OP、曲もムービーもかっこよくて良いです。EDの歌はなんか違う感が……。

 キャラクターも良かったと思う。塔子さんのビジュアルとボイスの相性が非常に良く好き(石見舞菜香さん、『さよ朝』ですごいなと思ったけど、すごい)。末永くレンゲに小さいラーメンを作ってくれ。小兎は前述の通りもっとオタク感を出してほしかったけど、基本このギャップ萌えの権化みたいな感じ好き。朔夜との掛け合いもよし。百合なんだよな。あと、フォークロア語りの影絵の双子好き。あいつら最後どうなったん?