【感想】『息 -Psyche- vol.4』 アナクロナイズド・スイミング

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 特集『見るなのタブー』ということで、見るなのタブーをテーマとして6作が収録。このテーマは結構難しいと思います。物語の構造自体を縛ってくるテーマなので、読者に対して意外性による面白さを提示しづらい。そんな中で結構幅のある作品が集まっている。

淡中圏「見るなの学園」

 鶯内裏、雪女、鶴女房(?)のアレンジ。所々でギャグが差し込まれている。百合にしてみたり消しゴムにしてみたりするアイデアが面白い。ただそれぞれ短く終わってしまうので物足りなさもあった。

淡中圏「まかぶる」

 イザナギとイザナミの黄泉の国の話で、見るなのタブーだけでなくて呪的逃走のところまでオマージュしている話。タイトルは死の舞踏? サブウェイの駅とか言って雰囲気出してたのにファミリーマート出てきて笑ってしまった。途中まで真面目にホラーっぽくしてるのに最後雑に原典使ってくるのが茶化してる感じがして面白く、好き。

月橋経緯「かく(さ)れる」

 意味のわからない系の怖さ。そういう系の怪談ってバランス感覚がいると思うんだけどこれはちょうどよく感じて良かった。ちょっとネットロアっぽくもある。前半と後半の関連がよくわからないのもそれを増長していて良いですね。

伊予夏樹「箱庭に人を入れる方法」

 一転してファンタジーっぽい話。見るなのタブーが世界的に残っていることを考えるとこうして世界設定の雰囲気が違う作品が入ってくるのはいいですね。キャラや用語からなんとなくその雰囲気を察したんだけど連作短編として書かれたものの一部とのこと。

稲田一声(17+1)「はっちゃん帰路をゆく」

 本書で一番好きです。これはまさに理由説明系の昔話じゃないかと思ったらあとがきにそう書いてあったのですごい納得した。振り返るな型の見るなのタブーを生物学と絡めてギャグSFにした上で、物語的にも真面目な伏線の回収に使ってくるのズルすぎるでしょ。この記事の最初に書いた「読者に対して意外性による面白さを提示しづらい」を完全に乗り越えている一品。

弥田「【お詫び】今回、晴ノ宮時雨さんの原稿は諸事情により掲載見送りとなりました」

 定番の原稿落としネタ枠なんだけど、ちゃんとテーマに沿っていて笑う。

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