『あたらしいサハリンの静止点』 第三象限

 第二十九回文学フリマ東京にて入手。第十回創元SF短編賞最終候補作の三編、および各人の新作短編を三編、計六編を収録。創元SF短編賞作家三人で書きましたという段階で集客力が強すぎるので速攻で完売されていたようでした。サークル参加の位置取りを活かして開場直後に買い求めて良かった。もし文学戦争が勃発していたら背後を取られていて危なかった。

 実際、メチャメチャ面白い一冊。今回の文フリの戦利品の中で一番良かった。読んでて楽しくなれた。冬コミでも委託販売あるらしいから急いだほうが良い。

『『サハリン社会主義共和国近代宗教史料』(二〇九九)抜粋、およびその他雑記』 谷林守

 サハリンが独立カルト社会主義国家になる話。義経チンギスハーン説のSF版みたいな。ん、これあの人じゃね?感がじわじわ伏線として来るのが面白い。真面目にメチャクチャなことが書いてある……。狭義のSFらしさはそんなにないんだけど、テロの話とかが差し込まれるのが演出としてよかった。

『あたらしい海』 織戸久貴

「〈いつかの戦争〉が遠い昔に起き、世界が〈諸人〉と〈香人〉という二つの種族にわかれた世界」、という設定。分化した人類の百合SF。百合ですね。断絶は百合なんだよな。艦娘と深海棲艦みたいなものかな? 違うと思う。個人的にはSF側に振るか振らないかのところ(〈香人〉とそうでない種の設定を掘り下げるか、装置として使うだけかの塩梅)でむずかゆさを感じてこうなるともっと長編で読んでみたいと思わされた。

『電話鳥〈i, Phone X〉』 千葉集

 これが一番好き。iPhone Xのダジャレ設定から、電話番号の予言でSF的に急に広がりが出て、でもその装置をしっかり使い切る展開の広がり、そしてクライマックス。語りを支えるためのベースの描写力もしっかりしてて、学生時代の話から現在のシーンまで、かっこよく駆け抜けている。ギャグっぽく始まって加速していく話すき。

『グラス・ファサード』 織戸久貴

 この本の中で一番真面目にSFをやっているはずで、語り口も真面目なのに、定期的にきんいろモザイクが入ってきて笑ったら良いのかわからなくて笑ってしまう(これは褒めています)。ガチな言語SFで人類社会を考察しているのに、きんいろモザイクじゃねえか!ってなってじわじわ来る。これきんいろモザイク知らない人のほうが真面目に感動できるんじゃないかと思うけど、きんいろモザイク知ってる人のほうが楽しめる(???)

『八月の荼毘』 谷林守

 丁寧な作品で特に好き。死体を埋めるの百合じゃんという話。多分違う。死体を兵士にできるIF世界での終戦間際の日本を舞台にして、でもそのSF設定の中心である〈十一兵〉について多くは語らない、と見せかけておいてちゃんと使いますよという物語に対する誠実さとサービス精神好き。

『回転する動物の静止点』 千葉集

 ドライブ感がすごい。しかもドライブ感という言葉が宮内悠介選評として帯に書いてるのがまたすごい。全読者が宮内悠介になる。一人称複数小説であり、魔法が感じられるお話であり、ベイブレードとどうぶつタワーバトルを混ぜた話であり、レクイエムでありマジックリアリズムだ。この作品にも予言が出てくる。やっぱり無茶苦茶な着想からかっこよくまとめていくスタイルが好き。