短編小説を書くときに何を考えているのか書く:『吸血鬼はなぜ鏡の中で上下反転しないのか?』

 今年の振り返りに代えて自作解説をします。自作解説をしたら人生はおしまいになります。

 ちょうど一年前の年末休みにガッと書いて大晦日の宴会が始まる前にガッとアップロードした『吸血鬼はなぜ鏡の中で上下反転しないのか?』について、何を考えて書いているのかを書いて見る試みをします。今年の大晦日はガッと書け……ないかな……。

 当然ながらネタバレを含むのでよかったらまずは作品の方を読んでみてください。また、こちらで連載化しています。そろそろ更新しろという脅迫文章が上に表示されていますね……。


構想

『Aじゃないと思ったけど、A』をやりたかったのがきっかけです。非本格ミステリではよくある型だと思っており、また、リスペクトしている作家がよくやっているので真似をしたくなりました。つまり、『吸血鬼じゃないと思ったけど、吸血鬼』ということです。もう少し細かく言うと、『吸血鬼であるという疑惑がでている転校生に対して、探偵役が吸血鬼ではないことを推理で明らかにするが、実際に吸血鬼だった』ということになり、更に詳しく書けば、①転校生が吸血鬼であるという噂がある ②転校生が吸血鬼でないと説明がつかない事件が起きて、疑惑が強まる ③探偵役の主人公は、吸血鬼でなくても説明がつくことを明らかにする ④しかし実際、転校生は吸血鬼だった です。この4つがそのまま4節構成のプロットになります。

 自分の場合は、目的から逆算して小説を書くことが多く、このときは以下のような必要となるアイデアを考えていきました。

  • 吸血鬼でないと説明がつかない事件、とはなにか →吸血鬼の特徴から、『鏡に映らない』
  • それが吸血鬼でなくても説明がつく、とはなにか →鏡に映っていなかった、という目撃証言自体が虚言である
  • どうしてそんな虚言を? →鏡に映らないのを見て気絶してしまった、という虚言。気絶したのは他に理由があったが、それを隠したかったため。
  • 気絶した他の理由で、かつそれを隠したいというのは何? →球技大会に向けて体調が悪い中こっそり自主練をしていたが貧血で倒れた。体調が悪いということもこっそり自主練していたということも隠したかった。

1.転校生が吸血鬼であるという噂がある

「どうして鏡に映る像は左右がひっくり返るか、知ってますか?」

 導入として興味を持ってもらうために、雑学というかちょっとしたネタから始める。かつ、本編の中心に据えられる鏡の問題に絡めることで、あとから使えるようにしている。実際本編中この話題は何度か出した上で、オチに使う。

 私は窓の外の暗い空を眺めていた。晴れていたらやることがあるというわけでもないが、雨が降っていればなおさらやることはない。

 最後のオチのために必要なので雨という設定になっている。

 私の目の前に、ぬっと手鏡が差し出される。
 湿度にやられた髪をもさもさと爆発させて、眠そうな目をした女子高生と目が合う。人格に問題がありそうな顔だな。

 一人称小説は主人公の容姿が描写しづらいので、冒頭に鏡を見せると良いでしょう、という小説講座のあるあるクソ小ネタを茶化している……ということまでは別に伝わらなくて良いんだけど、鏡ネタなので。

 霧島四方子はこの地学部に唯一入ってきた新入部員である。噂話が大好きで、浮いた話が大好きで、ともかく人と話すのが大好きで、人間も大好きで、覗き込んでも悪意というものが見当たらない。良いやつであり、愛すべきバカだ。

 霧島四方子は可愛いキャラにしたいし、主人公である部長も良いやつだと思ってて、そういう視線を向けているのだということは冒頭で示しておく。そもそも話の構成上必要なパートは2以降であって、1は導入なので、読んでもらうために面白い話をするのと、キャラクター説明。

 霧島は一言話すたびに地面から数センチ浮き上がっているようなテンポで喋る。

 このあと会話ばっかり書くので、音声的に注目してほしいという気持ちを込めて。

 テキパキと霧島が手元の手帳に描いた図は、入射角と反射角が同じになるという、あれだった。

 手帳持ち歩いてるタイプのキャラなんです、ということを伝えたい。

「お前は馬鹿なのか教養があるのかわからないな」

 実は教養があるタイプのキャラなんです、ということを伝えたい。

「なぜ、左右は逆になるのに、上下は逆にならないのですか?」

 タイトル、冒頭と合わせて、この作品の中心的な謎(というミスリード)。

「吸血鬼って、鏡に映らないって言いますけれど、あれはどういう機序なんでしょうか」

 冒頭の話題から、本題の吸血鬼にブリッジする。ここから会話パート。冒頭で謎を提示したので、そこに興味を持ってくれれば続けて読んでもらえて、会話パートは読みやすくしておいて、そこのネタで笑ってもらえればとりあえずいける(小説の面白さの印象は最初で決まる)という狙い。

「寝癖でもかわいいみたいなやつですか? 先輩の髪型もそうなんですか?」
「先輩の髪型はそうではない」
「もさもさしててかわいいです」
「これは鏡に映っても直せないんだ」
「もさ……」
「もさるな。寝癖と言えばお前のそれだってどうなんだ」
「このアホ毛は狙ってます。毎朝セットしてます」
「重大な告白をするな」

 そういえば百合文芸だったので、イチャつかせる。会話文だけだが、視線の交錯や身体的距離の近さを出す。霧島側の容姿も多少伝わるようにする。

「吸血鬼とはマジックミラーを活用したプレイはできないんでしょうか」
「鏡に映らなくて困るのは外側だから内側なら問題ないんじゃないか」
「先輩? さっきからそうやって窓の外を見てますが、この窓もマジックミラーなんですよ」
「そっと肩に手を置きながら意味不明なことを言うな」
「マジックミラー地学準備室です」
「マジックミラー地学準備室ではない」
「私まえに吸血鬼の本を読んだことがあるんですが、吸血鬼って結構変身とかできるんですよ」
「話を本筋に戻すなら私の腰から手を離せ」

 女子高生がマジックミラー号のネタとか言わねえだろというのは最後まで迷った記憶があるが、それを迷いだしたら女子高生は一行たりともこんな会話しないし、大晦日テンションでそのまま入れた。やっぱり身体的接触を入れておく。ネタの基本は繰り返し。本筋に戻ったと見せかけて戻ってないネタを入れる。

「それで、うちのクラスに吸血鬼が来たんです」
 霧島は突然言った。風が少し強く吹いて、窓に雨を瞬かせた。

 ネタを一段落させて、本題に入りますよというサインを出す(すぐネタに戻すけど)。

「吸血鬼だってどうやってわかったの」
「例えばですね、高校生なのにこんなでっかい日傘を差しています」
「高校生が日傘なんて差してたら目立っちゃうね」
「こんなレースついた、黒いやつですよ、ほら」
「生地のイメージを示すために自分の下着を見せなくてよろしい」
「高校生がこんな……ねえ、どうなんですか?」
「お前がどうなんだよ」

 地の文は描写せずに視覚的な……(後付)。下着フェチなのでわかりやすく下着の話を入れてしまう……。

「ほら、外にいるの、お友達だよね?」
「マジックミラー地学準備室ではない」
「それで出雲泉水さん。金髪で、瞳も金色。肌すごい白くって、私は見たことないんですけど笑うと八重歯が尖ってるって」
「話を本筋に戻すのなら私の肩から口を離せ」

 ネタの基本は繰り返し。繰り返しというネタを繰り返しているので、入れ子。

 と、私は良いことを思いついた。そんな変なやつがいるなら、取り込んでしまうというのはどうだろう。転入生だというのなら、部活もまだ入ってはいまい。そういう可笑しなやつ、私は好きだぞ。

 探偵役である主人公に動機を与える。吸血鬼疑惑の転校生に対する興味関心の理由付けを作る。

「そうだ、その吸血鬼、勧誘するか」
「……この部活にですか?」
「声低すぎるだろ、なんだそのテンションは」
「せっかく先輩と二人きりなのに」
「怖いからその声で言うのやめて」
「せんぱいせんぱいせんぱいせんぱい」
「怖い怖い怖い!」

 三角関係にしたい(願望)

 霧島は急に真面目な表情で立ち上がる。多分その年の割に豊かな胸元から携帯を取り出すというのは予め仕込んでおいたボケなのだが、深刻なメールが来たせいでボケにならなかったらしい。
「すみません。このネタはあとでもう一回やるんで」

 後でやるために書いておく。

2.転校生が吸血鬼でないと説明がつかない事件が起きて、疑惑が強まる

地学準備室に帰ってきた霧島は事件のあらましを語った。

 ともかくわかりやすく事件パートですということを読者に伝える。

「保健室の先生は、ただの貧血じゃないかって。あと、尻餅ついて倒れたからちょっとぶつけたみたいって」

 一応伏線。このあたりは普通に説明であり、伏線を張る作業が続く。2はひたすらそういう感じだし、3は解決を滔々と述べる感じになり、2から本編を始めたらつまんなくて誰にも読んでもらえないので、1を書いた、という順序になる。1が面白く感じてもらえれば、その流れで2と3も読んでもらえるよね、ということにかけている。

 霧島は真剣だった。本当にそのクラスメイトの後志のことを考えているのだろう。
「後志さんっていうのは、どんな子なのかな」
「んー、真面目な子ですよ。がんばりやさんです。バスケ部で。最近調子が悪いって言ってましたけど、それでもバスケ得意だから、来週の球技大会ではバスケチームのリーダーです」

 霧島のいいヤツ感は出しておきたいのと、一応伏線。

 そう言って立ち上がると、霧島の顔がパアアと効果音でもつけたくなるくらいに明るくなる。
「助けてくれるんですね! 先輩!」
「吸血鬼のことが気になるだけだよ」
「そんなこと言って、でも私のことを考えてくれてるんですよね! 大好きです! 先輩! パアア!」
「効果音を口で言うな」

 こういうのを入れて無理やり場面転換のきっかけにしている。

外に出る前の廊下の角に、大きな鏡が置いてあることに私達は気づいた。

 このパートは途中で追加した。メインガジェットである鏡を刷り込んでいくためと、出雲泉水と実際に対面するのが4だけではちょっと唐突感があると思ったので、予め遭遇させておくためという2つの目的。

 鏡の中に私達二人の姿が映っている。私より霧島のほうが背が高く、私より霧島のほうがおっぱいが大きいのが癪である。

 また鏡で容姿を書いておく。

 左右は反転している。
 上下は反転していない。

 オチで使うために繰り返し。

 後ろ姿だけであれば、少々金髪が目立ちすぎるが、ただの女生徒にも見える。けれど、鏡越しに一瞬見えたその瞳は。
「いま……映ったよな?」
「はい?」
「だから、この鏡に、映っただろう、あの子」
「あ、すみません。見てませんでした」
「お前」
「左右反転した先輩もかわいいなぁと思って見とれていたので」
「お前」

 部長の視線が明らかに吸血鬼の方に向いている状態で、霧島は部長にあからさまな好意を面白おかしく伝えていて、それを部長はなんとなく流しているという情報量を地の文でとても書けないので会話文でやってしかもセリフ「お前」だけで済ましている……。でも、同じセリフを二回繰り返したら読者は違いを見つけてくれるんじゃないでしょうか。過剰な期待かな。三角関係にしたい(欲望)

今日は掃除の日だったようだが、水はけが悪くなっている床はまだ湿っている。

 一応伏線。

「トイレの鏡に映らなかった、という言葉だけならまだそれらしさもあったけれど、こうして現場で確認してみれば、どのみち鏡に映るのなんてごく一瞬だ。例えばその一瞬を見逃したりすることは普通にあるだろうし、見間違い、ってことなんじゃないかな」

 真相として後志は実際にトイレで倒れてはいないのであり、鏡に映らないのを見たという証言全体が虚言なので、現場の物理的な状況にあんまり即していないことを言っている、という状況を作りたいからこれをやっている。あとは、すべてを地学準備室で推理してしまったら小説が絵としてつまらない(この感覚伝わるかな)ので、キャラクターを物理的に移動させるためにもこの現場検証がやりたかった。

 霧島はそういうやつだ。何も本当に出雲泉水が鏡に映らない吸血鬼だと思っているわけではない。後志の不安を払拭してあげられれば、どんな説明だって良いと思っているだろう。

 霧島はいい子なんです。

「もう大丈夫なの? 制服に着替えたんだ?」

 一応伏線。つまり保健室では制服ではなかった(ジャージだった)。

3.探偵役の主人公は、吸血鬼でなくても説明がつくことを明らかにする

 渡り廊下の自販機でココアを買って、二本買って一本は霧島に押し付けて、地学準備室に戻る。

 部長が先輩ぶってる感じを出したい。

 1棟と2棟の間で、あの後ろ姿を見かけたが、ひとまずそちらは後にする。

 4のための伏線。

「後志は出雲泉水が鏡に映らなかったことを見てはいない。かといって鏡に映ったことも見てはいない」

 ここから解決編。ここはまあ機械的に言わないといけないことを二人に言わせてるだけですね。

「先輩、あの私、褒めても何も出ないぞっていうのに絡めたネタがあるんで、褒めてもらっていいですか?」
「そんな要請の仕方があるか」
「えへへ、褒めても何も出ませんよ?」
「確実に褒めてないからな」
「とりあえず先に、さっき一緒にいたクラスの子達に話をしてきますね」
「褒めたら胸元から携帯が出た」

 真相も暴いたしここで一段落(一段目の解決)ということで、最後にネタを繰り返しで入れておく。

4.しかし実際、転校生は吸血鬼だった

 1棟と2棟の間には中庭があって、低木は自由奔放に生い茂り、石畳の表面にはびっちりと藻だか苔だかよくわからないものが張り付いて異常に滑りやすい上、そもそも苔むした遊歩道と浮草に覆われた池の水面の区別すらつかないために、毎年新入生が一人は足を踏み外して池に落ちるという伝統がある。もし四月中に誰も落ちなかった場合は、この伝統を継続するために運動部の一年が無理やり落とされる。伝統の維持にはそれなりの覚悟が必要だ。

 雰囲気を変えたいので地の文を長く(当社比)書いてみる。あと高校の空気感みたいなものも出ればいいなと思って。

 私の重心がずらされる。その声は、人間の心の壁を一番超えやすい周波数に調整されている。背筋に震えが走る。すんでのところで足を踏ん張る。

 出雲泉水が、主人公にとって異様な存在であって、主人公は大分それにやられているという感じを出したい。

「マジックミラー的な乗り物に連れ込む気なのですね」
「そんな気はない」
「一度乗ってみたいんです。マジックミラー的な乗り物」
「頼むから乗らないでくれ」

 しつこく繰り返す。オチで使うためにマジックミラーネタを思い出して貰わないといけない。

 クラスメイトたちと後志本人のフォローは霧島がやるとして、後志が流されてついてしまった嘘を埋めるには、出雲泉水を押さえないといけない。それが私がここに来た理由の、少なくとも半分だった。理由を隠して無茶なお願いもできないので、私は後志がそんな嘘をついてしまうに至った理由を簡潔に語った。琥珀色の瞳は途中から半ば興味を失って、空中の雨を眺めているに近かった。私はなんで自分がここまでしているんだろうと少しわからなくなった。

 言い訳をしている感じ。部長は自分が個人的に出雲泉水のことが気になるからという理由だけでは彼女に話しかけられないタイプなので、合理的な言い訳を用意してあげないといけない。

「出雲さん、地学部に入らない?」
「ちがくぶ」
「地学部」
「地学部というのは、何をする部活ですか」
「すべて」
「すべて?」
「地学というのは私達が立っているこの地球という星についての学問であり、私達が立っているこの地球以外の星についての学問でもあり、したがって宇宙のすべての学問だよ」

 この作品だけで言えば、地学部が地学部であることは全く生かされておらず、普通にミステリ研とでもしておいたほうが自然だったのだけれど、話に広がりを持たせたい(書くかどうかはともかく、続編を書こうと思ったら書けるようにしたい)という感覚があって、フック要素みたいな感じで地学部という変な部活にしている。のでこの作品内で言う限りあんまり意味がない。

 雲の合間から顔を出した太陽が、中庭の多湿な空気をきらきらと照らし出す。ぎらりと眩しさを感じて2棟の方を向けば、窓ガラスが光を反射して、明るくなった中庭と薄暗い廊下の間に、さながらマジックミラーの要領で、帯のような鏡面を形成している。

 散々繰り返したマジックミラーのネタを最後に真面目に回収する。というかこれをやるためにマジックミラーネタを繰り返してきた。

 最後のこの場面で吸血鬼と主人公が違和感なく鏡に映ることができる場所を考えたときに、学校の中にそんな大きな鏡はあまりないし、その前でわざわざ話すというも不自然。そこで鏡ではないが鏡面が形成される条件として、マジックミラーの要領で窓に映るという状況を設定し、そのためにこのシーンの場所は中庭になって、雨上がりになったので、1で雨が降っているということになった。

「どうして鏡は、左右は反転するのに、上下は反転しないか、知ってる?」
 吸血鬼は鏡に映っていない。けれど、彼女が立っているあたりに、鏡の中で薄靄がかかり始める。
「ご希望なら、上下反転もできますよ」
 鏡の中で像を結んだ彼女は、コウモリみたいに窓枠にぶら下がって、逆さまのままで微笑んだ。

 冒頭の疑問とタイトルへの回答でオチ。

 私は、ぜひこの子に入部してもらいたいと思った。

 自分としては百合です。


 2020年は、更新を、していくぞ。よろしくおねがいします。