『なめらかな世界と、その敵』 伴名練

 どうも文學界の今月号に自分の作った同人誌が載っているらしい、という怪情報がツイッターを流れており、んなわけないでしょと思いながら買ったら、載ってた。『特集 文學界書店2021』において、作家・伴名練先生がリフロー型電子書籍化不可能小説合同誌『紙魚はまだ死なない』を紹介してくださっていたのです。これはもう、しみじみと嬉しい……。光栄です。作って良かった! また同人誌作ろう!

 しかし、実は僕は伴名練先生の作品を読んだことが一作しかありませんでした。 『シンギュラリティ・ソビエト』を『改変歴史SFアンソロジー』で読んでめちゃめちゃ面白いと思っていたのですが、そのあと本書『なめらかな世界と、その敵』が出たときにはなんか読むタイミングを逃していました。話題になってるなとは思っていたのですが。このままでは「あの伴名練に紹介して貰ったんだぜ」という自慢ツイートをしまくるにあたり裏付けが不足していることから、急遽本書を読んだ次第です。最悪の理由すぎる。という、導入は最悪なんだけど、この本は最高なので読んでください。

 伴名練先生本当にありがとうございました。

 ここからはいつもの感想書くモードで書く。

なめらかな世界と、その敵

 可能世界移動SF。小説だからこそできる表現でもあるし、本来アニメとかが向いている表現でもある題材だと思う。あるいはノーランの映画とかなのかもしれない。最後の走るシーンなんかは、あざとさを感じるくらいかっこよかったし、アニメ化してくれよと煽る感じがした(???)。映像を想起させる文章、基本的には映像を見たことのある人にしか効かない。漫画やアニメや映画やゲームがあるのに小説なんて古いなんて言われることもあるけれど、いやいやそれらを飲み込んで小説はまだまだ進化中だぞと思わせてくれて、勇気づけられてしまう。

ゼロ年代の臨界点

 SF偽史SF。好き。この作品と、『美亜羽へ贈る拳銃』の二作にものすごく感じることとして、作者のSF愛が熱い。並のSF愛ではこの作品書けない。最もSFを愛した作家とか帯の煽りに書いてあるの知っていたけれど、どういう意味だよと正直思ってました。でもこれ読んで意味が完全に理解ってしまった。精読してどこが何のオマージュとか分解していったらものすごく遊べそうだし、そんなことしなくてもものすごく楽しくなれる、それを両立できるのは、すごい。

美亜羽へ贈る拳銃

 本書収録作で一番面白かった。伊藤計劃トリビュートが初出ということ、美亜羽がミァハから取った名前であるということ、は評判を聞いて読む前から知っていたのですが、単に名前借りましたとかでなくて、あ、本当にトリビュートだこれ、っていう、しまった舐めてな、と思わされた。 愛だよこれ。純粋に小説として、物語として面白く、引き込まれてしまいながら、それと同時にメタ的に、この作者の愛に勝てない、と思わされる。稀有な読書体験。

ホーリーアイアンメイデン

 書簡体異能力姉SF。え、文体の切り替えすごくないか、と思った。一冊に収録されている作品が全部強いのに方向性が多彩すぎる。引き出しめちゃめちゃあるからくり屋敷か? 忍具めちゃめちゃ持ってるSFニンジャか?(自分の同人誌を紹介して貰って嬉しかったって書き始めた感想なのに作者をニンジャ呼ばわりし始めるの意味が分からないんだけど、それくらい衝撃を受けているんだ)

シンギュラリティ・ソヴィエト

 これは『改変歴史SFアンソロジー』で読んでともかく楽しかったけれど、もう一度読んでもやっぱり楽しい。やっぱりシンギュラリティってそういうことだよなと、奇想を掻き立てられてしまう。

ひかりより速く、ゆるやかに

 青春時間SF。最後の作品でいきなり正面から殴りかかってきてびっくりしてしまった。え、いきなり正面から殴られてびっくりしています。いま。いや、この作品もやっぱり、膨大な先行作品研究の上に書かれており(作中でも叔父の本という形で示されていたりする)、SF愛なんだけれど、それよりもこの小説自体のレイヤにおいて、まっとうに純粋に正面から青春SFだ。なんだけれども、なんだけれどもその青春SFの主人公が苦しめられるのはSF的想像力の残酷さでもあって……。卑近な例で、なんか海外のニュースとかにすぐ「SFじゃん!」とかツイートしてしまう我々の、無邪気な残酷さですよ。さらにその無神経さに現に苦しんでいる彼自身も、未来へのSF的想像力に縋らずにはいられなくて。……こう読むとやっぱりSF愛じゃないか! でも最後には、しっかりと立ち向かって、現実に帰ってくる。好き……。正面から青春SFを浴びて興奮して感想を書いてしまいました。とても良かったです。