『アンソロジー 『破戒』 Breaking Knox』 たけぞう他

 第三十一回文学フリマ東京にて入手

 十人の執筆者でノックスの十戒を一つずつ破るアンソロジー。かなりキャッチーなアンソロジーテーマですし、多くの人に読んでもらえるテーマ設定であることは間違いない、企画の勝利です。ただ、基本的にはハードルが上がって難しいレギュレーションだと思います。だってノックスの十戒って破ったらアンフェアでつまらなくなるぞっていうルールなわけで、普通に破ったら単に面白くなくなります。ルールを破ってる部分を超える何か光るものがないといけないわけで、それってものすごいハードルだと思います。しかしそのハードルに立ち向かいアンソロジーとして完成させたのは素晴らしいと思いました。ちなみに小説同人誌で箱に入ってるのは初めて買いました……。すごい気合いだ。

 以下、個人的に面白かった(ルールを破ってる部分を超える光るものを感じた)五作について個別の感想です。ネタバレあります。

『探偵が遅すぎる』たけぞう

 違反しているのは「犯人は物語の当初に登場していなくてはならない」か。この違反を面白くするのは十の中で比較的難易度が高いと思いますが、しかしそのハンデを覆す面白さとしてホームズ役とワトソン役の入れ替わり叙述トリックをうまく使い(もちろん普通に引っかかりましたが、思い返せばこの叙述トリックで有名な作品を思い出したりした。偽ホームズ役のあからさまな変人感を出して、っていう)、推理をひっくり返し、ボドゲのガジェットも上手く使い、と、色々と良い感じにまとめていてすごい! タイトルも上手いし。ちゃんと本格をやってる人が書くやつですね(僕はちゃんと本格をやっていないので適当に言っています)。とても面白かったです。本書で一番良かった。そしてこの方がアンソロ主宰というのも、強い!

『オリオン』もうエリ

 なんか青春というか百合というか、そういう雰囲気が良かったです。違反しているのは「未発見の毒薬、難解な科学的説明を要する機械を犯行に用いてはならない」で、純粋にミステリとして読むと構成に無駄があるように感じられますが(別荘に行くまでが長いとか)、しかしその無駄パートで主人公の屈託を書き連ねていくことで上手く個性が出せていると思いました。

『最害』カリフォルニアデスロールの野良兎

 違反しているのは、読んだときは「探偵は、読者に提示していない手がかりによって解決してはならない」なのかと思ったのですが、あとがきによれば「サイドキック(ワトスン役)は自分の判断を全て読者に知らせなくてはならない」だそうです。ん、それって主人公がワトスン役っていうことなのか? それとも犯人がワトスン役なのでっていうことなのか? というあたりがレギュレーション的にモヤモヤしたものの、話自体はちゃんとミステリであり自分の好みで、面白かったです。

『白鼠』アルギル・ラッセ(阿木良介)

 いきなりSFっぽい設定。かと思えば始まる怒濤の、こう、それ系の設定語りとそれ系の会話。このドライヴ感が尖ってて好きですね。違反しているのは「犯行現場に秘密の抜け穴・通路が二つ以上あってはならない」ですが、それをメインに据えず、それとなくかつ堂々と破っているのが上手いなと思いました。最後ちょっとそこで終わるの!?感あるんだけど、それを押し切るメインガジェットと怒濤の冒頭だったので良かった。

『日暮海音の金欠』そうしろ/安藤壮史朗

 違反しているのは「探偵方法に超自然能力を用いてはならない」。これに違反しながら面白くしようと思うと、メタ的な話だったりアンチミステリ的な破調方向にいくわけですが、それでいて会話劇によって組み立てられた日常の謎が普通に面白く、最後にしっかりと能力のネタも回収して上手くまとめたのはやられたという爽快感がありました。『探偵が遅すぎる』で本書で一番良かったと書きましたが、この作品が自分としては本書で二番目に良く、また一番良かったのと二番目に良かったのがこれだけ違う方向性というのも、一冊のアンソロジーの楽しさが存分に感じられました。