『2000年代海外SF傑作選』

 傑作揃いだ。

『ミセス・ゼノンのパラドックス』エレン・クレイジャズ

 一発ネタなんだけど持って行き方が小気味よくて好き。これを先頭に配置したアンソロジーの勝利。

『懐かしき主人の声(ヒズ・マスターズ・ボイス)』ハンヌ・ライアニエミ

 動物サイバーパンク。なんかわちゃわちゃしてた。

『第二人称現在形』ダリル・グレゴリイ

 これ好き。ゼロ年代的、SF的な問題意識を題材にしつつ人間を掘り下げていく。2000年代のイメージって、この脳科学系の問題はもう全然新しくはないんだけど未だに全然飽きられてもいない、みたいな時代感だと思うから、このラインナップにも当然入ってくるはずで、でも似たような題材の作品山ほど書かれてる中でどう選ぶというのはきっと難しいと思う。でもそこでいかにもドライにハードSFっぽいのじゃなくてこの作品なのはSFの広さを感じた。

『地火』劉慈欣

 めちゃめちゃ良いじゃないですか。すごい作品。感想書いてもう一回興奮してきてしまった。この並びもすごくて、『第二人称現在形』は題材的には山ほど書き尽くされてる自己の話、けどドラマが良いよね、っていうやつなんだけど、『地火』は全然違う方向向いてて異色作というか……。社会。最後のシーンのパワーすごくて、素朴な科学の進歩史観的なものに対して強烈な居心地の悪さを叩き込んでくる。本書でこれが一番すごい作品だと思った。

『シスアドが世界を支配するとき』コリイ・ドクトロウ

 インターネットが世界を変えていく、良くしていくっていう素朴な……いや、どこまでが狙いかはともかくいまこれを書いていて思ったのは『地火』からの角度の切り替えが鋭すぎてすごい。インターネットというのがどちらかというと性善説的なテクノロジーで、柔らかくて頑健な作りになっていて、それを作って日々守るために活躍しているギークたちのプライド、根性、みたいなものに対するポジティブな見方があると思うんですけど、あるよね? ボクの肛門も閉鎖されそうですコピペみたいな感じですよあれも2000年代(その例は何?)。なんかそういう時代の質感を上手く題材にしている( 『地火』 の最後の強烈な無邪気さから振り返るとうーんとなるところがあるが!)。

 作品としては題材と中盤までの展開は良かったけど終わり方が気に入らなかった。

『コールダー・ウォー』チャールズ・ストロス

 これも題材と中盤までの展開は良かったけど(めちゃめちゃかっこいい)、終わり方が気に入らなかった。ちゃんとけりを付けて欲しい。

『可能性はゼロじゃない』N・K・ジェミシン

 この作品はちょっとよく分からなかった。

『暗黒整数』グレッグ・イーガン

 これだけ既読の作品。やっぱり相変わらず、かっこいい。

『ジーマ・ブルー』アレステア・レナルズ

 これは大好きですね。題材としてもフェチズムがあり、ジーマ・ブルーの青色に奇想が収束する感じが良い。締めくくりに相応しい傑作。