『2010年代海外SF傑作選』 橋本輝幸 編

 2000年代~から続けて読むと、2010年は混沌の年代だった……というのはいまが2020年代初頭だからそういうバイアスが掛かって見えるというのが多分にあるんだろうけど、でもそう感じた。特に前半に2010年代感を強く感じる作品が並んでいた気がする。個々の作品は自分の好みには合わないものも結構あったけれど、2010年代のカオスを感じられる良いアンソロジーだった。

「火炎病」ピーター・トライアス

 スマホが当たり前になって、ARみたいなものが身近な質感を持つようになった2010年代の感覚。火炎病という題材とその正体は面白かったけど、これだけだとお話としてはプロローグだなと思って物足りなかった。

「乾坤と亜力」郝 景芳

 AIが学ぶ話。子供から。というのは2010年代感は別にないけど、巨大サービスがWeb経由で世界中に同時並行で何かを提供してるっていう想像力は2010年代的かもしれないなと思う(そういう映画もあったよなと思い出した)。

「ロボットとカラスがイーストセントルイスを救った話」アナリー・ニューイッツ

 これよかった。本書の初読作品だと一番好き。かわいい。「餌!」「死!」

 ロボットが自分の役目のためにがんばる話で、それは昔からあるけど、元の管理者がCDCの予算なくなってアマゾン・ヘルスに行くというのが2010年代的(適当)。そういうちょっと社会的な視点を盛り込みつつも、ロボットががんばってて、かわいいし、最後の画がすごく良い。

「内臓感覚」ピーター・ワッツ

 Google帝国の話で、不穏な描写(ガラスにぶつかってくるところとか)がすごく良かったけど、オチが腑に落ちなかった。

「プログラム可能物質の時代における飢餓の未来」サム・J・ミラー

 多分破滅の話なんだけど、よくわからなかった。

「OPEN」チャールズ・ユウ

 導入と設定は良かったけど結末が腑に落ちなかった。

「良い狩りを」ケン・リュウ

 これだけ既読の作品。幻想魔術スチームパンク。やっぱり好きだな。興味をそそる導入から中盤でターンがあって最後に期待通りの意外性がある。良い。

「果てしない別れ」陳 楸帆

 良かった。意識とか自己同一性とかの題材。軍人来るあたりとかのご都合感はちょっとうーんってなるんだけど、蠕虫との合一とかいうものすごくチャレンジングな話をしっかり書いてあって結末の味わいも素敵だった。

「“ “」チャイナ・ミエヴィル

 架空生物の話。ちょっと平凡に感じてしまった。

「ジャガンナート――世界の主」カリン・ティドベック

 ディストピア的なやつ。肉肉しい。ディストピア的なんだけどマザーの内部社会が(そもそも言うほど社会なのかわからないが)抑圧的なのかというと別にそういうわけでも……いや抑圧的かな。単純な擬人化的な仕掛けとか人類の分化的な構想とはちょっと違う、ひねった奇妙さがあって面白かった。

「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」テッド・チャン

 急に中編小説が来てびっくりした。良かった。AI生物の育成の話。色んな要素が盛り込まれているけれど、ソフトウェアやプラットフォームサービスの陳腐化と、人間の時間と、AI生物のディジエントの時間のズレ方みたいなところの難しさを一番感じた。セカンドライフの歴史を知ってるからVR Chatもまあ……みたいな、ものすごい雑だから有識者からは反論があるのかもしれないけど、なんかそういうテック諸行無常みたいな感覚を2010年代を通り過ぎた我々は持ってるよね。長い人生の時間軸をたっぷりつかって、ただ地面から足が離れてしまうほどの長時間じゃない射程で、丁寧に地続きの未来を描いているのが良い作品だった。