『生ける屍の死』 山口雅也

 なんか多分ミステリの名作みたいな感じで紹介されたんだと思う。

 今で言う特殊設定ミステリ(当時も言ったのか? 知らないです)として、死者が蘇るという設定を、トリックの根幹にも、雰囲気作りにも最大限利用しており、すごい。でも30年ちょっと前という絶妙に微妙な時間が経過した2021年に読んでいるせいか、自分としてはどうにも古く感じてしまった。序盤冗長に感じたし、焦点をパチパチ切り替えるのもイケてない感じがした。でもこれを最初に書いたら画期的ですごいというのは分かる。すごい。

『まちカドまぞく』 伊藤いづも

 単行本六巻まで読んだので一旦感想。

 有史以来最高の漫画。

 全ての要素が刺さってます。ローファンタジー的想像力(せいいき桜ヶ丘もはやハイファンタジー説かなりあるけど)でほのぼのハードな設定。至近距離の天丼から超長距離の伏線まで、ギャグとシリアス両面に渡って繰り出される構成の美。情報量激盛りの紙面でギャグをやりながら一切こぼさない、マジで無駄な要素がない。キャラが生き生きして輝いていて色々な性癖を刺しまくって来ながらにして作劇・演出としての合目的性も光っていてすごすぎ。信頼できすぎて (六巻まで読んだ段階で) まだまだこの後一波乱も二波乱も起こしてくれた上に全てを無駄なくつないでしっかりやってくれることが確信できすぎて勝手に一人で楽しくなれる良さ。伊藤いづも先生身体に気をつけてなんとかがんばって欲しいですね……。

 最初に知ったのはアニメなんですけど、アニメの範囲で言うと普通に雰囲気とか設定が良いなと思ったのと、あと一番すごいと思ったのはEDのよいまちカンターレの歌詞で、それを原作者が作詞してるっていうから絶対ガチなやつじゃんと思った。そのあと原作積んであったけどゆっくり追いかけて読んで今に至る。アニメのことを思い出すとナレーション演出が神がかってんなと思ったけど(マジでズルいと思った)、あれは原作読み進めるとそういう声のキャラだっけみたいなところはあるな、そういえば。二期も期待だけど1クール原作2巻分くらいしかできないと思うと、どうするんでしょうね。無理はしないで欲しい。

↑ミュートしました

『知らない映画のサントラを聴く』 竹宮ゆゆこ

 ラブコメのオススメ情報くださいと言ったらオススメしていただいた小説。タイトルが印象的なので知ってたけど内容は一切知らなかった。ラブコメだったのか……? いつになったら知らない映画のサントラを聴くんだろうと思いながら読んでた。良い小説だった。多分自分で情報を得た上で手に取って読むことは無かったであろう作品だしこういうのが読めるのは良いことだと思った。ラブコメだとは思わないんだけど(いや世間的にこういうのをラブコメって言うんですか……?)。話の展開としてはエンタメ性が意図的に低い(適切な表現が思いつかない)と思うんだけどスピード感あるしギャグのテンポも良かったしある種のライトさを上手く使った青春小説だと思った。

『夜になっても遊びつづけろ よふかし百合アンソロジー』

『夜になっても遊びつづけろ よふかし百合アンソロジー』に短編小説を寄稿させていただきました。

 よふかし百合をテーマとするアンソロジーです。『異色作家短篇集リミックス』、『日本探偵小説全集リミックス』といった尖ったアンソロジーを世に送り出してきた創作文芸サークル〈ストレンジ・フィクションズ〉の別冊、つまりナンバリングタイトルじゃないやつ(?)で、同サークル有志+ゲストによる作品が集まっています。ゲストで書かせていただきました。錚々たる執筆陣の中に載せていただきありがたい限りです。

 本合同誌はKindleにて配信され、チャリティ企画として収益は国境なき医師団を通じて Covid-19対策のために寄付されるとのことです。もちろんKindleという偉大なプラットフォームを使う以上ベゾスの取り分は発生しますが、それは彼が弟と一緒に月に行くために使われます。それもまた、よふかし百合ですね。

 以下、ネタバレを含まず、各作品・作者の紹介コメントを書きました。以下の告知記事の扉イラスト・紹介文とあわせてどうぞ!


織戸久貴「綺麗なものを閉じ込めて、あの湖に沈めたの」

 死体埋め百合はもう古い。これからの百合は死体沈めだ。そのための一夜の旅。本格よふかし百合ミステリ。

 織戸久貴さんといえば本作のようなミステリも書くし、SFも書く二刀流 (過去のストフィク作品もそうだし、創元SF短編賞 大森望賞『夏の結び目』なんかはダイナミック二刀剣戟だ) ……と思っていたのですが、本書では「ななめの」名義にて表紙と収録作多数の扉イラストまで描かれており、三刀流です。やば……。

鷲羽巧「夜になっても走りつづけろ」

 西にロードムービーあり、東に道中記あり、古来より旅というものは物語であり、移動というものは常に百合でした。だって心が動いたら百合だからね。つまり夜に移動したらそれはもう完全によふかし百合です。さらに本作には終末要素も感じられ、百合です。アメリカっぽい空気が好き。

 鷲羽巧さんの小説は私は今回の合同誌に参加させていただくまでに読んだことは無かったのですが、ミステリを主に書かれているそうです。あと読書量がすごく、読書メーターやブログに感想を書かれているのに注目しています。最近、上半期ベストとかいって載ってたリストが自分が上半期の読んだ全数より余裕で多そうだったので怖すぎました。

孔田多紀「餃子の焼き方。」

 紹介文が胡乱すぎる。犯罪オリンピックが未然に防がれて本当に良かった……。餃子を焼くミステリです。完全によふかし百合ですね。

 孔田多紀さんは過去のストフィクでの創作2作はいずれも元ネタというか史実の文芸作品に対するリスペクトを強く感じるものでしたが、本作は違った雰囲気(といっても元ネタはあるみたいですが)。この二人の続きの話も読みたいなと思わされました。良い距離感。

笹帽子「終夜活動」

 拙作です。ななめのさんに描いていただいた扉イラストがめちゃめちゃ良いです。女の子がすごくかわいいのになんか車のガラスがバキバキで最高。女の子がすごくかわいいのに車のガラスがバキバキな小説です。対戦よろしくお願いします。

鈴木りつ「夜はさらなり」

 漫画作品。陶芸の話。ここまで進んでくるとよふかし百合という同じキーワードに対してのアプローチの幅広さがどんどんと見えてきて、アンソロジーの楽しさがかなり広がってくるのではないでしょうか。曜変天目を見てるコマが好き。

 鈴木りつさんはイラストにおいて陰の表現がすごく魅力的、また漫画のお話は余韻の広がりが素敵だと勝手に感じているのですが、その特徴がよふかし百合にマッチしていて素晴らしいと思いました。あと、なんか異様な短時間で原稿が完成していたのが怖すぎました。瞬発力……。

九鬼ひとみ「新井さん、散歩をする」

 告知が出たときに「イラスト:矢部嵩」が界隈をざわつかせた作品。不穏! ニューロティック百合ホラー。ニューロティック百合ホラーというジャンルは夜と相性が良いので必然的によふかし百合ということになります。

 九鬼ひとみさんの過去のストフィクでの作品は不穏感がバリバリで好きだったのですが、本作もまた私を含むそれ系が好きな方にバシバシ刺さる作品だと思います。バシバシ刺さってください。

紙月真魚「君の手に花火が透ける」

 ネタバレを含まないというラインを、紹介文を超える情報を極力入れないということにしようと思うと、この紹介文から語れることはあまりないのですが、逆にこの紹介文から想像つかない広さを持った作品なので読んで欲しい。

 紙月真魚さんの過去のストフィクでの作品でもそうでしたが、短編の中で時系列的にも関係人物的にもかなり広い範囲を書かれていて、そこまで行くんだ、というところに連れて行ってもらえるのが楽しいです。本作もかなりの射程距離をもった作品だと思いました。

murashit「できるかな」

 真面目に紹介文を書いてくれ。紹介文を超えない情報としてはこの紹介文はWikipediaのパクリと思われるということくらいです。

 murashitさんとは「ねじれ双角錐群」をはじめとして同じ企画にて小説を書く機会を多くいただいてますが、毎回通底するmurashit節みたいなものがありつつ、しかし毎回違うボールを投げるのがすごいと思います。これも変化球。

谷林守「彼女の身体はとても冷たい」

 思春期の感情、関係性、そして感情です。つまり、よふかし百合だ。紹介文からどんなストーリーなのかは全く分からないと思いますが、雰囲気はわかると思います。答え合わせをしてください。

 谷林守さんは創元SF短編賞 日下三蔵賞「『サハリン社会主義共和国近代宗教史料』(二〇九九)抜粋、およびその他雑記」など、緻密な取材と複線のストーリーがきれいに噛み合う魅力を持った作品を書かれていると思います。本作も途中に入ってくる挿話の使い方と感情の動きが良い。

千葉集「芋よりほかにふかすものもなし」

 紹介文が一人だけ縦に長い。

 千葉集さんは創元SF短編賞 宮内悠介賞「回転する動物の静止点」で動物を回したり、ストフィクでは象が暴れたり等の奇想に溢れた作品を書かれていますが、本作もまさかの芋です。よふかし芋。そんなんありかよ。

 当初の告知第一弾で執筆者一覧に千葉さんが載ってなくて心配になった方がたくさんいらっしゃったかと思います。私もその中の一人であり、千葉さんに誘われて原稿書いたのにその千葉さんの作品が載らないなどということがあればもう生の暴力しかないというところでしたが、作品が出て本当に良かったです。


 以上、豪華10作品。ぜひどうぞ!