『5G』やんぐはうす

 第三十三回文学フリマ東京にて入手BOOTH通販もある。

 ゲンロン大森望SF創作講座第五期生の有志による合同誌。分厚い。大森望先生の「年刊傑作選に入れたい!と思う短篇が2篇ありました。」っていうコメントがなんか面白い。どの2篇なんだ。

 私は良かったなと思う短編が3篇ありましたので以下感想を書きます。ネタバレも含まれます。

『焚き銭』岸辺路久

 冒頭からの情報の出し方のコントロールが上手いと思った。死者のエモい感じと、欲にまみれた俗い感じを良い案配でミックスしてるのが巧みで心地よい。記憶の仕組みが最低限の字数で説明されてるけど、冒頭の(記憶復活前と思われる)龍三の感情の動きもそれ自体は嘘じゃないと解釈できるところがものすごく好み。4のあたりではこいつはいけそうだとかいって心中ニヤついてるわけでしょ(この語りの焦点の移動、巧みだ……)。したたかな、人間味のある悪党っていう感じがものすごく出ている。4の綺麗な感じの最後から5に繋がる流れの作り方が上手いし、短編の中でキャラをしっかり作ったからこそ結末も納得感がある。

『闇の中』新川帆立

 婚活藪の中……。これもまず序盤の情報の出し方がものすごく上手いと思った。筋立てて説明したら数行でまとまってしまう状況設定を説明せずにシーンで書いていって引き込んでくる。その設定自体も非日常と現実感の良いバランスのところを突いていて、主人公の不安が読者にも伝わりやすいと思った。藪の中方式で新しい情報が得られればその分これまで聞いたことがどんどん疑わしくなってくる構成も見事で、主人公が四番を選ぶことへの説得力がある。耳の設定もめちゃめちゃ上手いですよね(この設定の作り方はミステリ的な技術だと思った)。そこから意外な真実ですべての説明がつき……ついた? ついてない? という終わり方もある意味期待通りで、そういうのが欲しかったんだよと嬉しくなってしまう結末で好みでした。

『みそかあめのよ』河野咲子

 これは上に挙げた良かったと思う2篇とは違う方向性で、理屈でここがこうだから良いというのが自分では説明しづらいです。アピール文にあるとおり、詩のような雨、雨のような詩についてで、描写がきれい。響きや温度など身体性を感じる描写に強さがある。短めの話なのにキャラクターとその関係がくっきり浮かんでくる。とても素敵な作品で良かったです。