『バーナム博物館』 スティーヴン・ミルハウザー 柴田元幸 訳

 読んだことがなかったのですが、ミルハウザーすごい的な話は方々で聞くよなというベースがあり、そこに先日鷲羽さんがミルハウザーリスペクトで文体の舵をとっていたのを見てさすがに読もうかなと思って読みました。

 すごかった。文舵の文脈が直接的きっかけだからなおさら語りに注目してしまったけど、語りがすごい。なかでも『雨』は語り全振りの極地のような感じがする作品でとても気に入った。概ね雨降ってるだけなんだけど(そんなことはない)、それでここまで読ませて印象を残せるの、真似したいという気持ちになる(そうそう真似できない)。

 収録順とは前後したけれど冒頭『シンバッド第八の航海』がいきなり物語の多層構造とそのリズムのズレの話を展開してきたのが好きなやつで、ぐいぐい引き込まれてしまった。それでいてメタ構造メインかというとそうではなくて、ドロップキャップのパートの語りの描写力がやっぱり凄まじく、技巧バランスが高すぎると思った。

 一番良かったなと思う『探偵ゲーム』も、現実の登場人物達に焦点化した語りと、ボードゲームをひたすらカメラアイで描写する語り、それにボードゲーム内のキャラクターの語りが交錯するという技巧作で、そこら中で語りがcoolで惚れ惚れしてしまう。かつ、結果的にこれだけ登場人物が多い状態でそれぞれの人物像や相互の視線を鮮やかに描いていて本当にレベルの高さを感じる、気持ちいい作品だった。

 ただ、語りがともかく強い短編・掌編作品なので、なんというかドラマの熱さというかオチの収束の気持ちよさみたいなのは少なめかな……と思っていたら、最後に収録されている『幻影師、アイゼンハイム』はそれ意識してこの収録順にしたなと思わせるような作品だった。結末が良い。結末の良さの印象が強かった作品は収録作の中でこれだけなんだけど、それが最後に配置されて一冊がすごく良いものに仕上がったと思った。原書とは収録順が異なるらしいけどこれがトリなのは原書も同じとのこと。だよね。