文フリ東京ありがとうございました/雨月物語SF『雨は満ち月降り落つる夜』Kindle版の配信

 先日、雨月物語SF合同『雨は満ち月降り落つる夜』で文学フリマ東京に参加させていただきました。スペースを訪れていただいた方、どうもありがとうございました!

 初めて文学フリマというイベントに行ったのはもう6、7年前、下手するともっと昔かもしれないと思うのですが、そのときは「へ、へぇ~こんな感じなんだ~……」と会場をうろうろし、その空気に飲まれ、瘴気にあてられ、特に何も買わずに帰ったのを記憶しています。そこから比べると最近は行ったら本を結構ポンポンと買ってしまうし、あまつさえ今回は合同誌の主宰として参加してしまったというのは、年とって耐性がついたというのか、丸くなったというのか、単に使える金が増えたからか、まあ大人になるのってそんなに悪いことばかりじゃないよね、と思います。

 今回、印刷部数は各方面に聞いた話とか、参加させてもらっているねじれ双角錐群の情報とかを参考に、決して日和ったつもりはないまあ妥当だろうという数を刷り搬入したのですが、想定外にたくさんの方にお越しいただき、13時台に完売してしまいました。イベント自体が過去最大を更新する規模・来場者となったことに加え、開催直前に私がスパムの勢いで宣伝していたのが思っていたより多くの方に見ていただき、さらに私が想定していた以上の雨月物語というコンテンツの強靭さ、SFというジャンルの強さなども相まった結果なのかなと思っています。当日夜に小数部確保しておいた分の通販も実施しましたが、すぐにそちらも無くなってしまい、欲しかったが手に入らなかったという方も出てしまったと思います。そこは申し訳なかったです。

 雨月物語をSFにするアンソロジーやりましょうという適当なツイートに反応をくれた方に声をかけていくことで集まった今回のメンバーでしたが、それぞれ素晴らしい作品を書いていただきました。それぞれの作品の感想は告知記事に書いた通りなので繰り返しませんが、原稿が集まってきた時、「雨月物語をSFにしていったら楽しいだろうな」という企画当初の漠然とした構想がすっと鮮明な像を結ぶ感覚がしたのが心地よく、それが紙の本として刷り上がり形をなすに至る快感は強烈で、これは中毒性があるぞと思いました。雨月物語は高校生の頃から好きな作品で、今回の企画で他にも雨月物語が好きな人がたくさんいるというのがわかったのも嬉しいですし、今回の本をきっかけに雨月物語を読んだ、読み直してくれた方がたくさんいたのもとても嬉しく思います。

 さて、そんな雨月物語SF『雨は満ち月降り落つる夜』ですが、この度Kindle版を配信しました!! 物理本をお渡しできなかった方に届けば幸いです。ぜひよろしくお願いいたします!!

 もし楽しんでいただけたなら、ぜひ感想をツイートしたりブログに書いたりAmazonのレビューに書いたり読書メーターに書いたり(物理本Kindle版)こっそり僕にメールしたり(sasaboushi[at]gmail.com)、あるいはそれらすべてを同時にしてください!! メンバーが輪番を組んで昼夜を分かたず執拗なエゴサを実施しています!!

雨月物語SF『雨は満ち月降り落つる夜』 #文学フリマ 東京にて (3)

 2019年5月6日の文学フリマ東京にて頒布する雨月物語SF『雨は満ち月降り落つる夜』の告知記事です。特設サイト(1)(2)から先にどうぞ。

 そうです。前後編とは言いましたが(3)がありました。

 (1)(2)の作品紹介を書く上で、告知という位置づけで私や他の参加者を知らない方に向けて書くようにしたので、参加者の話(誰それらしい作品、みたいな)はしないようにしていました。でも、合同誌のコンセプトはわかったけどどういう人が書いてるの、という情報もなんだかんだあったほうが良いかもしれない、と思い、追加で記事を書くことにした次第です。以下、すべて私の個人的な見解ですが、参加メンバーの紹介をします。そういう紹介をすると必然的に内輪感が出てしまうのだが、そういう記事だと思ってください。あと、そんな紹介読んだってわからん、具体的にどんなのを書く人なんだよ、というのもわかるように、Web上で読める作品を中心に勝手におすすめしていこうと思います。これで連休の読み物には困りませんね。連休が無い方は5月6日だけでもなんとかしてください。なんとかする方法としては雨月物語の『菊花の約』などを参照してください。それではイカれたメンバーを紹介するぜ!

笹帽子

 でお前かよという感じですが掲載順なので……許して……。ジャンルはよくわかりませんが、ここ数年は、読みやすくする、楽しく気持ちよく、辺りを意識して書いています。Webで読める作品としてはとりあえず短いもので『吸血鬼はなぜ鏡の中で上下反転しないのか?』(百合、日常の謎)。

cydonianbanana

 静かにドライヴ感のある文体、登場人物や語り手に作者や読者までも巻き込んでいくメタ的な物語の広がりを得意とされているばななさん。文芸サークル『ねじれ双角錐群』を主宰されており、私も参加させていただいております。ねじれ双角錐群は秋の文フリ東京で三年連続合同誌を出しており今年も何かやばいやつが出るらしいです。お楽しみに。既刊はKindle版でも読めます。

 Webで読める作品として私のおすすめは『組木仕掛けの彼は誰』。冒頭からいきなり、世界を言葉でしか認識できない主人公の語りに引き込まれます。組木仕掛けの彼、一体誰なんだ……。

 cydonianbananaさんの告知ブログ記事はこちら

17+1

 ミステリやSFなど、謎解きや仕掛けのある小説を書かれている17+1さん。名前をなんと発音すればいいのかは私も存じ上げません。つまり18なんじゃないかと思うのですが……。今度教えてください。文学フリマにサークル『アナクロナイズド・スイミング』で参加されており、今度の文フリ東京でも参加予定だそうです。楽しみですね。

 文体としてなんか真面目に書いている雰囲気を出しつつサクッと面白い文節を挟んでくるみたいなのに自分が弱いので、そこが好きです。Webで読める作品として私のおすすめは『45^(-1)*27*5』。これはトリッキーすぎる作品で(すごいぞ)、上で書いた好きなポイントとあってないのですが、でもすごいので名前を挙げておきます。

 17+1さんの告知ブログ記事はこちら

Y.田中 崖

 幻想的な文章を書かれるY.田中 崖さん。私が小説を書き始めた頃に1000文字小説を中心に書いていて、その界隈で知り合ったのが最初、だと思います。もう昔過ぎて記憶が怪しいですが。ただ、それもあって掌編のイメージが強いです。幻想的な描写と、なんかかわいいものが登場するのが魅力的。あと旅情が感じられる文章が時々出てくるのも好きです。

 Webで読める作品がたくさんあって楽しく、選ぶのが難しいですが私のおすすめは『我が家の神々』。リンクをたどっていくともっと楽しいことがおきます。基本、掌編を多数書かれていますが、つながりがあったりするのがまた楽しい。

 Y.田中 崖さんの告知ブログ記事はこちら

志菩龍彦

 志菩さんも1000文字小説の縁で知り合ったのが最初だと思いますが遠い昔なので記憶が定かではありません。幻想、SF、クトゥルフ、百合などのジャンルを書かれている方で、当該作品は私は残念ながら読めていないのですが某SF短編の賞なども受賞されています。ホラー寄りの描写を得意とされている印象があり、今回の合同誌でも(怖いという意味ではないのだが)そのあたりが素敵な作品を書いていただきました。僕はうまく書ける気がしないのですが、怖さって何なんでしょう、五感の描写なのかな?

 その流れでWebで読めるおすすめは『魔櫻』。これも百合のやつですね。百合のやつは良いぞ。あと千文字だと『くりてくりて』。千文字ならすぐ読めるから今すぐリンクをクリックしてもいいと思います。しろ。

雨下雫

 雨下さんは文学フリマ等でサークル『C1講義室』で活動されています。『C1講義室』さんは雨下さんと小島宇良さんが二人で一作ずつ両A面仕様の文庫というのが定番みたいですが、お二人のバランスがすごく良く、また何よりもコンスタントに出し続けているのがすごい。今度の文フリ東京にも参加予定とのことです!

 幻想、ファンタジー系の作品が多く、また人物像の作り方が素晴らしいと思っており、中でもちょっと振り切っている系のヒロインと、魅力あるダメ男が好きです。明るい鬱屈感みたいなのに惹かれてしまう。Webで読めるオリジナル作品は少ないながらも、私のおすすめは『満ちては欠けて冬桜』です。強いヒロインタイプだ。

シモダハルナリ

 シモダハルナリはそのふざけた名前から想像される通り、本企画に際して便宜上使われている筆名であり、本来は別の名義で活動している方ですが、故あってシモダハルナリを名乗っているということで、ここでも多くは語りません。その正体はぜひ君自身の目で確かめてくれ。

鴻上怜

 鴻上さんは、なんでも書ける上に筆が速く筋トレのごとくストイックに執筆されているイメージがあります。登山と執筆は似ているという名言には納得せざるを得ません。あとしっかり取材をするのもすごいなぁと思っております。地に足の着いた安定感のある文体でぶっ飛んだことが書いてあったりするのが楽しいですね。

 Webで読める作品は、残念ながら投稿サイトのアカウントを最近整理されたようで今読めるのが少ないのですが、直近に公開されたものとして『厳冬節』を。これは百合のやつ……か?

murashit

 インターネットを殺して俺も死ぬで有名なmurashitさんは、murashit文体で小説を書かれており、すべてがmurashitになることで知られています。声に出して読みたいというか、語られることが想定されている文章に惹きつけられます。また内容的にも結構重層的と言うか情報量が多いので、なおさら読み返したくなるし、読み返しに耐える強度があるんだ。

 Webで読める作品として私のおすすめは『cond/quote/lambda』。ニューゲームです。

 murashitさんの告知ブログ記事はこちら

 

 以上、9名が参加した雨月物語SF『雨は満ち月降り落つる夜』、5月6日の文学フリマ東京 ス-40にてお待ちしております。

雨月物語SF『雨は満ち月降り落つる夜』 #文学フリマ 東京にて (2)

前編はこちら

 作品紹介の続きです。

5.『boo-pow-sow』(志菩龍彦)

 老後の楽しみでカジュアル剃髪して風流ぶって旅をする、現代で言えば早期退職して蕎麦を打ち始めた的なおっさんが、高野山で夜を明かすうちに豊臣秀次とその家臣の亡霊に行き逢ってしまう怪談『仏法僧』を踏まえ、高野山という霊場を舞台としつつ風流ぶったおっさんを排除して女子高生の話にした、幻想SF。おっさんを排除して女子高生にしたの英断すぎる。仏法僧という三文字をboo-pow-sowと表記するだけでSFっぽくなるのがすごく、方言とかも含めて音声的な感覚が鮮やかなのが良い。本合同誌の百合枠です(?)。

6.『巷説磯良釜茹心中』(雨下雫)

 非の打ち所のない完璧な妻・磯良を迎え、しかし生来の浮気性から妻を裏切ってしまう男・正太郎が、嫉妬のあまり生霊となった磯良に襲われる怪談『吉備津の釜』の舞台を近未来に移し、吉備津神社の鳴釜神事をAIによる推薦配偶者制度に置き換え、しかし正太郎のダメ人間さは変わらないという恋愛SF小説。原作のエッセンスを踏まえつつ、正太郎と磯良という二人の人間性が掘り下げられており、ヒロイン磯良ちゃんの健気さに目を瞠ることになる。原作が適当に済ませた要素すら回収する技量に感服。

7.『月下氷蛇』(シモダハルナリ)

 蛇の怪異である真女児に見初められてしまった豊雄が幾度も真女児に付きまとわれ、しかし最後にはそれを退けるまでに成長する物語『蛇性の婬』の続編として書かれた短編。原作『蛇性の婬』のラストで、真女児は妹分のまろやと共に鉄鉢に封印され、地下深くに埋められた。本作は地球人類滅亡後に異星人がそれを掘り出したところから物語が始まる。原作終了直後から話を始める続編は本合同誌唯一の試みで、しかしそれが異星人の出現でおかしな方向に走り出す、スピード感のある作品。

8.『イワン・デニーソヴィチの青頭巾』(鴻上怜)

 可愛がっていた童子の死をきっかけに堕落し食人の罪を重ねて鬼となってしまった阿闍梨を、スーパー禅僧・改庵禅師が教化する俺tuee小説『青頭巾』に、まさかのロシア要素を投入した上で異世界転生で本当に俺tuee小説にしてしまった作品。続編でもオマージュでもない、パラレル展開的な『青頭巾』で、バトルシーンが笑えます。これだけ異質なものが投入されても調和し、キリスト教と仏教すら繋がる力技。真面目っぽい文章でいきなり単語選びで笑わせてくるのがずるい。

9.『斜線を引かない』(murashit)

 マネーを愛する異色の武士・岡左内が、枕元に現れた黄金の精と、金銭と社会について語り合う問答小説『貧福論』を、情念経済を題材とする美少女AIとの対話に置き換え、独特の高密度文体で語られる/記される、声に出して読みたいポストヒューマンSF小説。情念と日記が他の雨月物語のテキストを内包しているのがラストを飾るのにふさわしい。本合同誌の中で随一の、読み返したくなるタイプの魅力をもった作品。

装丁とか

 ミニマルな白色表紙、裏表紙は原作マップ。写真でわかりにくいのですが、格子柄の入った和紙風の手触りの表紙になっており、触るだけでご利益があります。

 また、各作品前の扉には、各作品の担当者が書いた原作のあらすじが配され、一応原作がどんな話だったか思い出してから/知ってから本編に入ることができるようになっております。また、そのあらすじ自体が、担当者が原作のどの部分に着目したのかというのが読み取れる手かがりにもなっているという趣向です。

頒布情報

 2019年5月6日(月・祝)、文学フリマ東京にて頒布いたします。B6版264ページ(結構分厚いぞ)、1,000円となります。Webカタログはこちら

 文フリ東京、いつもより会場が大きい一部屋になり、過去最大1,000ブース超えらしいです。やばすぎる。連休最終日は文学に溺れろ!

雨月物語SF『雨は満ち月降り落つる夜』 #文学フリマ 東京にて (1)

【追記】Kindle版を配信開始しました!!

 

 前後編に分けて告知記事を書きます。

 特設サイト:雨は満ち月降り落つる夜 – 雨月物語×SF

この本はなんなのか?

『雨は満ち月降り落つる夜』は、近世怪異小説の名作である雨月物語の9編をSF的に再解釈する小説合同誌です。雨月物語の要素を現代や未来に置き換えSF的に仕立てた小説や、雨月物語の世界と連続性をもった近未来を描いた小説などを9編収録しています。

 雨月物語の評論とか解説をするものではなく、あくまでSF小説の合同誌です。

 2019年5月6日(月祝)、文学フリマ東京にて頒布します

雨月物語を知らないと読めないのか?

 全くそんな事はありません。聖書をちゃんと読んでないとドストエフスキー読めないのか、というと別に読めると思いますし楽しめると思います。各種元ネタ知らなくても東方ProjectやFGO楽しめます。そういうレベルです。

 また、たとえば雨月物語の『吉備津の釜』を読んだことがなくてもネット怪談の『八尺様』は知ってるとか、そういう無意識下での影響があるはずなので大丈夫です(?)。詳細はこちら

どうして作ったのか?

 以前から古典文学とSFの相性は意外に良いという感覚があったのですが、雨月物語というのは影響力も強いし9編というアンソロジーにちょうどよいボリュームでもあるしということで企画しました。Twitterでやりますと告知したところ反応を示してくださった方に声をかけ、制作に至りました。

どんな作品が収録されているのか?

 それではここからネタバレ無し感想を交えつつ紹介していこうと思います。

1.『ノーティスミー、センセイ!』(笹帽子)

 拙作。冒頭が主宰なのはどうなんだというのはあるのですが、作品割当を先に決めたら自動的に原作の順序で掲載することになるよねという形で決まりました(原稿集まってから掲載順決める普通の合同誌と順序が違うな)。ヒーロー西行法師と、日本三大怨霊の一人である崇徳天皇の論争を描く歴史異能バトル『白峰』から遠い未来、ポストシンギュラリティの京都で再び二人が対峙する話に、サイバーセキュリティの啓蒙要素を加えてついでに女子小学生を足しておいた小説です。セキュリティは本当に基礎的なところで足をすくわれるので気をつけてください。

2.『飛石』(cydonianbanana)

 義兄弟と交わした再会の約束を違えぬため、自死し死霊となって駆けつけるという友情を描いた怪異譚『菊花の約』をメタ的に二次創作し、物語への没入者としての幽霊をエヴェレット的多世界解釈と絡めて仕立て上げた温泉小説。創作物に登場した舞台を訪れるいわゆる『聖地巡礼』要素と、自分が創作をしようというときにその舞台を訪れる『取材』要素を紀行文学的に配置し(温泉入りたかっただけ説もあるが)、最終的には創作とは何かという高みを目指すハードSF。射程の長さに脱帽。

3.『荒れ草の家』(17+1)

 戦乱に巻き込まれ、家に妻を残したまま七年もの長きに渡り帰ることができなかった男が、死んだものと思っていた妻と再会する幻想的な怪異譚『浅茅が宿』を踏まえ、家に侵入して閉じ込められてしまった空き巣と、家主の帰りを待ち続けるロボット掃除機とスマートスピーカーと蟹(?)たちの奇妙な生活を描く作品。前2作が原作を歴史としてあるいは創作物として踏まえた小説であったのに対し、本作は原作『浅茅が宿』の内容が直接引かれることはなく、しかしそのテーマである「帰りを待ち続ける」ことが現代的なSFガジェットを用いて掘り下げられ、最後に作者独自のアンサーが与えられており、不思議な感動があります。ロボット掃除機やスマートスピーカーや蟹(?)が可愛く思えてくること間違いなし。

4.『回游する門』(Y.田中 崖)

 夢で出逢った魚の絵を一心に描くうち、自らも魚となって泳ぎ回った僧の不可思議な体験を描いた夢幻小説『夢応の鯉魚』の、遠未来の後日譚を描いた作品。三次元的に増殖する巨大な機械都市を舞台に、名前が数字で表記され機械化された登場人物たちが繰り広げる冒険は未来SFアクションで、どこへ向かうのかと思いながら楽しく読ませたあと、その終着点はまさに近世文学のSF的解釈。魅力的なキャラクター像があり、主人公三人がわちゃわちゃしてるのが楽しい。都市が増殖する系SFが好きな方にハマる作品です。

 

後編はこちら

雨月物語の魅力

※このエントリはPR記事です

 雨月物語という作品がある。

 江戸時代に上田秋成という人によって書かれた怪異小説9編からなり、近世日本文学を代表する作品だと言われることも多い。しかし、じゃあ他に近世日本文学って何があるの、と言われると、ぱっと答えが出てこないという人も多いと思う。例えばこういうWikipediaのリストを見ると、フィクションの有名なタイトルとしては、井原西鶴『好色一代男』、近松門左衛門『曽根崎心中』、十返舎一九『東海道中膝栗毛』、曲亭馬琴『南総里見八犬伝』などなど、ああ文学史で名前が出てきたねという作品はたくさんあり、ちゃんと勉強した人はあらすじとか言えるだろうが、読んだことあるかと言われるとまあ読んだことなかったりする。どれもある程度の長さはあり、現代人からするととっつきにくさが無いとは言えない。

 それと比べると、雨月物語のハードルは低い。部分的にというのも含めれば読んだことがあるという人は比較的多いと思うし、読んだことがない人も、今から読んでみることはそう難しくない。

 まず何より短編集の形式なので、単純に手を付けやすい。全作品の原文と現代語訳と注釈・解説を収録して、やっと薄めの文庫本くらいのボリュームになる(この記事の最後におすすめ書誌情報あり)。原文や注釈を飛ばしてしまって現代語訳だけ読むならすぐ読み終わるだろう。

 そしてこちらがより重要なのだが、仮に雨月物語そのものを読んだことがない人であっても、その系譜に連なる何らかの作品にすでに触れている可能性がそれなりにある。だから内容的にも、とっつきやすいはずなのである。

 これについて説明する前に、先に怪異小説という言葉について書いておく。現代で怪異というと、妖怪とか、幽霊的なものとか、怖い話的な印象がなくもないと思うが、ここで言う怪異というのは、もっと広い意味で普通でないもの、尋常でないもの、不可思議なもの、というイメージの言葉だ。だから怪異小説というのも、不思議な事が起こる話、という程度に捉えて構わない。字面は似ているが、怪談とは若干異なるので、ホラー興味ないんだよねと思って避けている人がもしいたら、そんなことはないと知ってもらいたい(逆に、雨月物語にはホラー調の作品もあるから、怪談好きの需要にも答えられよう)。有名な現代のエンタメ作品で言えば、西尾維新の『物語シリーズ』で「怪異」という言葉が超便利に多用されるけれども、あれくらいざっくり広い意味で捉えておけばいいと思う。そういえば雨月物語も物語と付いているし、上田秋成は他に春雨物語とかますらを物語とか書いているし、江戸の西尾維新だったのかもしれない。ウィーンのキダ・タローみたいな話だが。

 と、物語シリーズの話で脱線したけれど、意外とこれが脱線ではなく、つまり「怪異小説の系譜は、現代のエンタメ作品まで続いている」という強引な主張にもっていくことが可能だと思う。話を戻して、なぜ多くの人が雨月物語の系譜に連なる何らかの作品にすでに触れている可能性があるかといえば、雨月物語という作品が、後にも先にも日本の怪異小説のキーポイントであろうと思うからだ。

 雨月物語には9編の怪異小説が収録されているわけだけれども、そのどれもが、上田秋成がゼロから書いたというものではない。むしろ、膨大な「元ネタ」の上に構築されている。例えば一作目の『白峯』は、荒ぶる怨霊・崇徳院と強キャラ僧侶の西行が繰り広げる異能バトル私小説なのだが(?)、『撰集抄』や『保元物語』などの先行作品を典拠としつつ、上田秋成の演出により異能バトル私小説としての強度が高まっている。また、「怨霊が出てきて自らの悪事を語り、これからなす復讐を予言する」という、ある種の「怨霊モノの型」は、以降の創作にも強く継承されていく(別に上田秋成が生み出した型というわけではないのだが)。他の作品もいずれも、原型となる物語が中国白話小説などに求められ、そこに各種の古典を入れ込んで作品が完成されている。素材となっている物語群にせよ、あるいはこの雨月物語に影響を受けた作品群にせよ、ともかく膨大な範囲に広がりがある。だからたとえ雨月物語を読んだことがない人でも、雨月物語を読むと、「この展開どこかで見たな」「この言い回し定番っぽいな」「このキャラ像、知ってる気がする」という感覚がきっとあるはずだ。それは受験勉強で読んだ古文や漢文の作品の1パーツかもしれないし、『世にも奇妙な物語』のようなエンタメ作品かもしれないし、2chの都市伝説コピペかもしれない。だから貴方は、雨月物語をすでに読んでいる。

 さて、せっかくなので残り8編についても強引な解釈で紹介しておこうと思う。『菊花の約』は、友情が強引に距離を超越する話。ファンタジーっぽい。BL要素あり(?)。『浅茅が宿』はずっとずっとずっと待っていてくれる健気ヒロインの話。いいよね……。『夢応の鯉魚』は9編の中では一番ほのぼの感があるが、絵が巧すぎるとそこまでいける、という話。ある意味、天才の超越性を描いており、ちょっとメフィスト作家っぽい(?)。『仏法僧』は逆で、俗物の目線から「体験を語る」という体裁で怪異を描く、実話型都市伝説。知り合いが経験した話なんだけど……というやつ。『吉備津の釜』は嫉妬に狂った女の怪談。部屋の中に籠もって、外から呼びかけられても決して応えてはいけない、という設定は、現代の都市伝説でも頻繁に用いられている。『蛇性の淫』は怪異に魅入られてしまった男の話で、これまた現代怪談にも影響していそうな作品。真女児は雨月物語最凶ヒロイン。『青頭巾』は禅Tuee作品。寺生まれのTさんっぽい。ラストを飾る『貧福論』は異色の経済小説。自己啓発本として電車に広告が出ていてもおかしくない。

 並べてみるに、やはり雨月物語の各作品というのは、現代に通ずる題材、演出、キャラクターをもっていて、これを二次創作してみるというのはすごく面白い試みだと思う。と、いうことは前からなんとなく考えていたのだが、まあそんなことは他にも沢山の人が考えており、雨月物語の二次創作やメディアミックスというのは結構たくさん存在している。じゃあオリジナル要素として何を導入するのが良いだろうか、と考えたときに、思いついたのがSFだった。SFはなんとでも組める。

 というわけで、雨月物語をSF的に再解釈する、怪異×SF小説合同誌で、2019年5月6日 文学フリマ東京に参加します。詳細は今後宣伝していくので、乞うご期待!!

(追記)Webカタログが公開されました! スペースはス-40!

(追記2)特設サイトにて、参加作品のあらすじを公開中!

 

おすすめ雨月物語書誌情報

↑本企画にあたっての再読に使っています。Kindle版もあり手頃で良い。

↑タイトルの通り雨月物語以外も収録した分厚い本ですが、雨月物語のパートをあの円城塔先生が現代語訳。序での遊び心はさすがです。

ねじれ双角錐群『廻廊』kindle版 配信開始

 2017年秋の文フリ東京にて頒布した、ねじれ双角錐群の『廻廊』、ついにkindle版が出ました。

19世紀末ヨーロッパで無名の画家によって描かれた絵画『望郷』にまつわる連作短編アンソロジー
– 作中に絵画『望郷』を登場させる縛り
– 絵画の使い方は自由
– 絵画の出自の縛りはなし
– 絵画は風景画という以外の指定なし

 上記の通りのレギュレーションの中で書かれた短編小説集となります。書籍版は参加作品6編でしたが、なんとkindle版は鴻上怜さんの二次創作?飛び入り?作品も加わり7編が収録されています。僕は、地球を懐かしみながら植民先を探して旅を続ける播種船の管理AI(美少女)が司祭助手に任命した船内生まれの女の子とお風呂に入る話を書いています。情報量! 他の作品の紹介はこちら。ぜひ読んでください!


既刊もあるぞ

吸血鬼はなぜ鏡の中で上下反転しないのか?

【百合文芸】「吸血鬼はなぜ鏡の中で上下反転しないのか?」/「笹帽子」の小説 [pixiv]

 上記の作品で、『コミック百合姫×pixiv 百合文芸小説コンテスト』に参加しました。

 応募要項に「女性同士の交流の中で生まれる、特別な親愛が描かれた作品。思わず口にしたくなるようなセリフや、心に沁みるシチュエーションに出会えることを期待しています」と書いてあり、こういうのであってるのかというと多分あってない気がするので、それはいいんですけど、まあ書いて楽しいから良いんじゃないかなという気持ちで書きました。誤謬って思わず口にしたいからあってるかも知れない。

 すでに応募作品が450超となっており、それがコンテストとして多いのか少ないのかは知りませんが、しかし短編の百合小説が大量にあるというのは良いのではないでしょうか。頑張って渉猟していく。おすすめ情報があったら教えてください。あと小説書く人は今からでも間に合うから一日三万字書いて投稿してください。コンテストの推奨文字数は二万字以内だけど。

kindle本お得情報

 明日11/18の日本時間17時まで、惑星間通信における光速の限界によるタイムラグを埋めるために開発された「情報予言知能」を巡る近未来AIエスニックグルメ小説『二十二分間の予言』が無料!

 さらに! 11/22の日本時間17時まで(たぶん)、幻想譚、恋愛小説、SF、怪奇小説、そして、のじゃロリ狐ババア。ねじれにねじれた渇望の末、自身が物語であると自覚する七つの短編。ねじれ双角錐群の第一小説誌『望郷』のkindle版も無料らしいぞ!

 さらにさらに! 11/25まで『まんがタイムきらら展』開催記念kindle本50% offキャンペーンが実施中!! 見逃すな!!!

 以上です。引き続きご歓談ください。

ねじれ双角錐群『アンソロポエジー』@11/25 #文学フリマ 東京ア-16

 2018年11月25日(日)、第二十七回文学フリマ東京にて頒布される、ねじれ双角錐群『アンソロポエジー』に参加しています。

 ねじれ双角錐群は秋の東京文フリ参加三回目、これで三冊目の小説合同誌になります。三冊出せば一人前という話もありますので、メンバーそれぞれが概ね七分の一人前くらいにはなったのではないでしょうか。

 上記宣伝ツイートにも書いていますが、今回の企画はもとは「人類合同」というキーワードから着想し、「人類は既に滅んだ未来で」「何らかの方法で人類を観測している」「人類以外を語り手とする物語」というレギュレーションの合同誌となっています。人類のことを考える以上は、ジャンルはSFです。タイトルは人類学(アンソロポロジー)に抒情(ポエジー)を足しているわけですが、ポエジーがどこから来たのかは君の目で確かめてほしい。

 今回、僕は既に他の掲載作も読んでいるのですが、これだけ「人類以外」がバラけたのに、描こうとする人類は良くも悪くも結構通じているところがあり、業が深いぞ、人類、という気持ちです。コンタクトもの、ポストアポカリプス、SFが好きな人もそうでない人も、ぜひお立ち寄りください。

草苅はるかは何も知らない

草苅はるかは何も知らない

 ドッペルゲンガー百合の第四部・完結編が終わりました。本当か?

 見直してみたら第一部書いてから第二部を書くまでなんか2年あいてて(なかなか続きを書く気が起きなかった)、その後は1年くらい書けてぼちぼち書いたみたいですね。なにそれ。虚無いな。

 ドッペルゲンガー百合っていうお題だったはずなのに、あんまりドッペルゲンガーじゃないし、百合かどうか怪しいし、なんか都市伝説とか妖怪とか人狼とかの話を好き勝手した感じの話です。

 なろうの方にも最近投稿していて、こちらは昔の分はちょっと手直しとかした版で、追いかけながら更新していき、途中になんかおまけみたいなのを挟みながらやっていくつもりです。挟む余裕がなかったら許してくれ。

ドッペルゲンガー百合 ~12人狐あり・通暁知悉の村~

 え、シリーズタイトルはそれでいいのか?