『HELLO WORLD if ―勘解由小路三鈴は世界で最初の失恋をする―』 伊瀬ネキセ

 HELLO WORLDのスピンオフ。野崎まどが書くわけじゃないし別に読まなくていいかと最初は思っていたのだが映画が思ったより良かったので読んでみた。残念ながら期待値を超えてこなかった感じはある(ただ、レビューとかで結構評価が高かったりするので、not for meだっただけで、普通に映画から見た人には楽しめるようになっているのかもしれない)。

 野崎まどでありがちな「序中版でいい感じに出てくるサブヒロインが、プロット上不要である場合(用済みになった場合)終盤完全に空気になる」現象を真正面で食らっている「かでのん」こと勘解由小路三鈴が実は裏でこんな活躍をしていた、という本編補完型スピンオフで、せっかく魅力的なキャラクターなのに後半全く登場しないかでのんの活躍を描く外伝があるのは良いことなんだけれど、いまいち乗れなかった点が2つ。1つは完全に原作に乗っかった二次創作・アナザーサイド的な書き方に留まっているように感じられたこと。本編(小説・映画)を鑑賞済みの読者を前提としているとはいえ、本編での人物像とか展開とかSF設定をあまりにも所与のものとして使いすぎていて、三鈴の心情の流れとか順応の仕方とかが流石にご都合主義過ぎるように見えるし、結局全体のストーリーは本編と同じ流れをたどるだけなので、先の展開が気になるみたいな思いがあんまり湧かない。もう1つは、せっかく公式スピンオフであるのに、本編でみんなが気になった部分を補完する設定、具体的にはルリの動機とかあっちのアルタラの設定とか救出プロジェクトの内容とか映画で映ってたあの場所とか、そういうのを書いてないこと。これは公式スピンオフだからこんなことが書けるんだぜというところ踏み込んでほしかったなぁと。

『図書館の魔女』 高田大介

 大人になってから読んだ中で圧倒的に一番面白いファンタジー小説。

 そもそも自分は子供の頃はファンタジーが一番好きなジャンルでたくさん読んでいたけれども(このリストとか)、大人になってからは読むことが全然なくなって、特にハイファンタジーはまず食指が動かなかった。理由はよくわからないがローファンタジー的想像力を好むようになり、それは単に自分の年齢の変化だけでなく世の中の流れとしてもそうであるような気がする。それがこの小説は分類的には完全にハイファンタジーなんだけれども、超絶面白く、ド刺さってしまったので驚いた。

 ともかく長い。単純にプロット的な分量も多いし、文章もひたすらに書き込みがなされており、濃密。読むのにはかなりの時間がかかったけれども、それでいて一切ダレることなく、読むのが苦にならないのが不思議。人物、文化、歴史、そしてなにより”言葉”に対する圧倒的な緻密さで描き出される世界にのめり込まされて、久しぶりにこのタイプの読書体験があって嬉しくなってしまった。二巻の(単行本のときは上下巻だから、きっと上巻の)最後のシーンがめちゃめちゃ良くて、そこからはもう一気に進んでしまう感じだった。

「マツリカ様はわたしを馬鹿にするのが生き甲斐なんですか」
 ──そうだよ?

↑ここすき

『となりのロボット』 西 UKO

 美少女ロボット百合。この五年の世の中の流れによって今見ると割と平凡な題材のような気もするけど多分この五年は大きかったと思うので当時のほうが破壊力があったのかなと思う。SF的な側面に対する入り込み方が適度でバランスの良さを感じる。ただ単行本一巻の分量かつ連作短編的な書き方なので物語としてのまとまりや盛り上がりまでいかなかったのは少し物足りなく感じた。でも直球でエモいし一気に時間が飛ぶシーンとか良いよね。

新装版が出る野崎まどメディアワークス文庫6作を今すぐ読んでくれ【後編・ネタバレあり】

※本来の表記は「野﨑まど」(﨑のつくりの上は立)ですが、本記事では「野崎まど」と略記させていただきます

 この度「メディアワークス文庫創刊10周年&野崎まどデビュー10周年 特別企画」により新装版が刊行されることとなった、野崎まどのメディアワークス文庫における以下の6作品を改めて紹介するレビュー記事です。前編はこちら。

  1. [映]アムリタ
  2. 舞面真面とお面の女
  3. 死なない生徒殺人事件 ~識別組子とさまよえる不死~
  4. 小説家の作り方
  5. パーフェクトフレンド

※今回の後編はネタバレありです。もう読んだ人向けに勝手に感想を語る会です。 本編未読の方は読み進めないでください! ネタバレ無しの前編はこちら

※本当の本当に、このシリーズはネタバレで鑑賞体験が損なわれる恐れがあります。頼むから未読の人は今すぐPCまたはスマホを破壊してください!!

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『あの娘にキスと白百合を』 缶乃

 百合漫画。どういう話かよく知らないけどなんか有名だから教養を摂取するかと思って買って読んだ。オムニバス・群像劇形式的なところがあるのを知らなかったのでいやオムニバスとかいらねえよ白黒だけ見せろよと最初の方は思ってたけど、後半は割と白黒を中心議題にして展開してくれたから楽しめた。なんかオムニバス的な方面に行くと、お手軽属性消費的な感じがあまり馴染まないんだよね(Twitterで流れてくる「~~の創作百合漫画」とかいって4Pくらいのやつ、ああいうの好きじゃなくて、そういう方向性というか)。でも改めて最後まで行くとこの10巻に及ぶ構成でしっかりしているというかちゃんと芯が通ってるのはすごいなと思った。1→10の表紙が良すぎるでしょ。 尖ってた子が普通の女の子にされてしまうのありがちだけどいいよね。女の子しか出なくて、ファンタジーとしての百合に徹しているのも良い。

新装版が出る野崎まどメディアワークス文庫6作を今すぐ読んでくれ【前編・ネタバレなし】

※本来の表記は「野﨑まど」(﨑のつくりの上は立)ですが、本記事では「野崎まど」と略記させていただきます

この記事について

【要約】すごい力を持った女の子に蹂躙されたい

 この度「メディアワークス文庫創刊10周年&野崎まどデビュー10周年 特別企画」により新装版が刊行されることとなった、野崎まどのメディアワークス文庫における以下の6作品を改めて紹介するレビュー記事です。今回の前編はネタバレなしの布教用です。そのうち後編で改めてネタバレありで感想と考察を書き直そうと思います。

  1. [映]アムリタ
  2. 舞面真面とお面の女
  3. 死なない生徒殺人事件 ~識別組子とさまよえる不死~
  4. 小説家の作り方
  5. パーフェクトフレンド

【旧版】

【新装版】

 

どんな小説なのか?

 上記のメディアワークス文庫の記事では「野崎まど異彩ミステリ6作」と表現されており、一応ミステリという枠に……いや収まらないと思います。ミステリの定義を「謎を解く話」くらいに拡大すれば、収まります。その程度です。

 自分なりにこの6作の特徴を挙げながら魅力を紹介したいと思います。

超越的な存在が登場する

 たとえば「[映]アムリタ」のあらすじは以下の通り。

自主制作映画に参加することになった芸大生の二見遭一。その映画は天才と噂される最原最早の監督作品だった。彼女のコンテは二見を魅了し、恐るべきことに二日以上もの間読み続けさせてしまうほどであった。二見はその後、自分が死んだ最原の恋人の代役であることを知るものの、彼女が撮る映画、そして彼女自身への興味が先立ち、次第に撮影へとのめりこんでいく。
しかし、映画が完成したとき、最原は謎の失踪を遂げる。ある医大生から最原の作る映像の秘密を知らされた二見は、彼女の本当の目的を推理し、それに挑もうとするが――。

[映]アムリタ – メディアワークス文庫公式サイトより

 これは、「映画でどんなことでもできる」天才美少女と一緒に映画を作る話です。この天才監督、最原最早が最強ヒロインなわけです。「二日間以上もの間読み続けさせてしまう」とか書いてありますが、比喩的な話ではなくて実際に二日間以上連続でであり、そういう非現実的な力が出てきてしまう作風です。
 同様に、他の作品にもヤバい奴が必ず登場します。「舞面真面とお面の女」は、何の動物かわからないお面を身につけた謎の中学生と戯れる話です。「死なない生徒殺人事件 ~識別組子とさまよえる不死~」は、永遠の命を持つ生徒が登場し、しかしそれが殺されてしまう話です。「小説家の作り方」は、”この世で一番面白い小説”を思いついてしまったと主張する絶世の美女に小説の書き方を教える作家の話です。「パーフェクトフレンド」は天才早熟小学生が友達の作り方を研究し、それを解明するに至る話です。「2」は、すべての創作の極致を目指す話です。
 一連の作品はすべて現実世界の現代日本(というか、基本的に井の頭線沿線エリア)を舞台にしていますが、上記の通りぶっ飛んだ登場人物が必ず出てきてしまい、主人公や読者はそれに翻弄されることになります。そういうローファンタジー的な想像力が好きな人にはおすすめできます。僕は好きです。
 そして、上記で並べた一連の「超越的な存在」は、お察しの通り、大体は美少女です。めっちゃすごい力をもったかわいい女の子に蹂躙されたいと思いませんか? 僕は思います。あなたも思うなら今すぐ6冊とも買ってください。新装版とか待ってる場合じゃないから買え。この先の記事は別に読まなくていいです。

謎解き要素あり(ミスリード、どんでん返し付き)

 この要素をしてメディアワークスは苦肉の策で「異彩ミステリ」と表現したのだと思いますが、基本的に謎や不思議があり、最終的にはそれに答えが出されます。しかし、そのトリックは必ずしもフェアなものではなく、ミスリードやどんでん返しの驚きを楽しむエンターテイメントです。特にどんでん返し部分に野崎まどの特徴があり、6作全てにおいて(いやそれどころかこのシリーズ以外の作品においても)オチに関してはほぼ同一の構造、型、様式美が取られていると思います。それが癖になってしまう。凄まじいオチを叩きつけられて笑ってしまうのが好きなタイプの人にはおすすめできます。僕は好きです。
 余談ですが、野崎まどが脚本を担当したTVアニメ「正解するカド」ではまさにこのラストの無茶苦茶などんでん返し(?)が炸裂してしまい、野崎まど未経験の視聴者を呆然とさせてしまったようでした。真面目にファーストコンタクトを考察する社会派アニメっぽい宣伝をして擬態したのが裏目に出たというか狙い通りなんだと思います。オチでやりたいことがすべてなので、そこに至るまでの細かいところが現実に即してないとかで気になってしまう人には向かないかもしれない。

会話文を多用し読書の負荷を極限まで引き下げている

 これは合わない人もいるでしょうが、ラノベ的というか、ノベルゲー的というか、地の文は非常に簡素で短く、会話文のテンポの良さに全振りされており、読みやすさ重視の演出がなされています。
 そもそも野崎まどのデビュー作である「[映]アムリタ 」は第一回メディアワークス文庫賞の受賞作にして創刊ラインナップの一冊です。メディアワークス文庫は「近年の小説作品のジャンルの広がりを受け、現在刊行されているノベルレーベル「電撃文庫」に収まりきらない作品を世に送り出すべく創刊される新たな文庫レーベル」という位置づけで作られたそうですので、まあざっくり電撃文庫で大きくなったオタク向けというか、「表紙がラノベっぽいが本文に挿絵はないあのジャンル」だと思ってもらえば良いでしょう。
 タフな読書をしたい方には向きませんが、別にそういう硬派な思想を持ってない方にはおすすめです。僕は持ってません。

天丼、言葉遊び、ボケツッコミで畳み掛けるギャグ

 会話文多用と近い話ですが、だいたい軽妙な小ネタがずんずんでてきます。なんか題材がシリアスなときでもギャグが入ってて笑うし、ボケとツッコミに漫才的な感覚があります。天丼も多くて好きです。繰り返されるだけで笑ってしまう脳の方にはおすすめです。僕はそういう脳です。
 ちなみに野崎まどがギャグ短編だけを書き連ねた「独創短編シリーズ 野崎まど劇場」という作品もあり、こちらも面白いです。「家から持ってきた角」の画像がtwitterで流行ったりしましたね。さすがにメディアワークス文庫6作品では画像ネタは封印されていますが、ノリはそのレベルです。

 

6冊でシリーズ? どれから読めばいいの?

 シリーズかと言うとそうではないのですが、刊行順に読むことを強く推奨します
 もう少し細かいことを言うと、「[映]アムリタ」「舞面真面とお面の女」「死なない生徒殺人事件 ~識別組子とさまよえる不死~」「小説家の作り方」までは完全に独立した作品で、相互に関係は一切ないため、実質どれから読んでも問題ありません。しかし、「パーフェクトフレンド」で助走をつけて、「2」ではそれまでの作品のキャラクターが再登場するので、絶対に「2」を先に読んではいけません
 このことは「2」の公式の作品紹介にはイマイチ明記されていません。ネタバレを避けるためにそのようにしているのだろうとは思うのですが、ネタバレよりも知らずに「2」を先に読んでしまうことのほうが悲劇だと思うので、あえてここに書きます。刊行順に読んでください。それにより初めて、野崎まどが「2」で目指した創作の到達点を味わうことができるはずです。それにしても「2」なんて題名がよく許されたな。

後編

ネタバレありの後編はこちら

『王様と林檎』 戸田鳥

 幻想短編集。掌編五編なのでかなり短め。明るくも暗くもない不思議な雰囲気が通底しているのが魅力的だと思う。同じ設定の『尻尾』と『おとだま』の流れがすき。猫が結局いついてるのが良いですね。

『小説 天気の子』 新海誠

 小説版。小説と映画の媒体の話があとがきに書いてあるのは面白かった。それ以前に序章が映画と変えてあるところでめちゃめちゃオタク笑顔になってしまった。とはいえ終盤の勢いはやはり映像でないとでてこない感じがあり、この内容だと映画がいいよねとなる。

『虚構推理短編集 岩永琴子の出現』 城平京

 短編集。本編(?)の既読を前提としている(と思われる)スピンオフ。

 相変わらず虚構推理をする話が、幾分スケール小さめで5編。岩永琴子の本来業務である怪異のお悩み解決が中心。付喪神とかがチートで笑う。鰻屋のやつみたいな変則的なのも楽しい。