『けだものフレンズ』 文文文庫

 第五回文学フリマ金沢で頒布された「暴力」テーマアンソロジーの電子版

 作品数が多い! ので感想を一言ずつ。

 どういうペースで出しているサークルなのかちゃんと把握してるわけじゃないけど一人複数作書いてるの筆が早くてすごいな……。小説を書いて本を出すのは偉いことなんだよ。

『リジン』寒川ミサオ

 暴力をテーマに書いてくださいって言ったときにかなり素直にそれっぽい小説だなと思った。結局燃えるところが良かった。

『そこの底の怪獣たち』鳥原継接

 陰鬱な話のように見せかけて怪獣が破壊していくの笑えるというのが主人公の心情としてもそうだし(そうか?)、読者側もそういう読み方になるという構造になっていて楽しい。

『わたしの大好きなお父さん』空木賢一

 後半のスピード感が笑える。オチがちゃんと構造的に良くできていて暴力というお題もしっかりメインに据えてうまいことまとめた感があって、その流れでなんか吠えるのがまた笑える。吠えるなよ。

『リバーシブル・ランドスケープ』寒川ミサオ

 人はなぜ葬式で帰省する小説を書いてしまうのだろうと思ったが、思わぬ方向に進んでいって良かった。序盤の話の内容にあんまり意味がなさそうな描写とか、あんまり好きじゃないんだけど、こういうふうに方向転換すると意味が出てきてすごく好きになる。ぱいーんじゃないんだよ。

『アイドルばかり聴かせないで』鳥原継接

 SFっぽくて面白い。好き。実験装置に対する考察とハックだから? アイドルというお題の料理の仕方はこれが一番好き。

『アイドルの夢跡』空木賢一

 序盤と中盤と終盤でそれぞれやりたいことが違いすぎる気が。序盤の感じは好きだったんだけどその後にうまくついていけなかった。

『サナブリされるキラー・ジム』寒川ミサオ

 mobiとPDFでタイトルが違う……? 完全にこっち側の問題で偏見に近いんだけど殺し屋が出てくる小説があまり好きではない。

『アンダーの彼方へ』鳥原継接

 めっちゃ気持ち悪い。雰囲気的には昔のネットロア的というか、最悪だけど惹かれる良さがあってすごく好き。こういう作品に行き逢うと嬉しくなってしまう。

『ワンボックス・バイオレンス』空木賢一

 いろんな話書いておいて結局ハイエースオチかよというブラックジョーク?

『優しさに包まれて』もきね

 いきなり横書きになって面食らうのがちょっと面白かった。へんないきものシリーズ的なちょっとしたネタでニヤニヤさせてくれる系。

『ブラックベルトの遠心』寒川ミサオ

 先が気になって読みすすめる内容になっているし、設定のアイデアが良かった。先輩の人格が変わってる状態で同行してるのがいい味になっている。伏線とかもちゃんとやっていて楽しかった。最後は結局どうなったのか書いてほしかった気もする。

『トイズ』鳥原継接

 熱高いときに見る夢?

『世界樹は暗き旋律のほとりに』 藤あさや

 第二十三回文学フリマ東京にて発表された長編SF小説のKindle版。1/3午後5時頃まで無料配信キャンペーン中だそうです!

 ガチSFです。自分がよくSFを僭称して書いてるやつのことが思いやられてやべえなという気持ちになる。地球と宇宙を結ぶ楕円軌道リングが『世界樹』として存在するパラレル世界を舞台に、メアリー・アニングやニュートンが登場してSFをやっていく話。もちろんそういう話だからヴェルヌ要素もちゃんとある。正直ケプラーの方程式とかいやもう忘れたわというか勉強したときも理解できたかどうか怪しいわという読者としては、理屈が書いてあるパートはあんまり読めてないんだけど、でも技術的・歴史的な考証が丁寧になされているのはしっかりと伝わってきて、好感。三部構成になっており、それぞれ主人公が異なり、時間的にも離れた時期を書いていることもあって、群像劇とまでは言わないんだけど、(特定の人物の冒険活劇を掘り下げるのではなく)『世界樹』というシステムそのものを冷静な視点で書いていて、これもハードSFらしい取り組み方なのかなと思った。SFなんていう言葉の定義は滅茶苦茶に広いし、広くていいと自分は思っているんだけど、その前提の上で、こういうSFを書いている人が文フリとかKDPで作品を発表してるのって面白いし世界が広くて良いよなと思います。三部の中では真ん中の『アナレンマの黄金樹』が一番好き。

『文字渦』 円城塔

 文字に関するSF連作。真顔で滅茶苦茶なことを言ってくる実験作で面白い。表題作『文字渦』の、気づいたときにあってなる瞬間とか、『緑字』の宇宙の広がりとか(プリンターの下り笑った)、『誤字』の問題の箇所に差し掛かった瞬間の破壊力とか、よくできている。境部さん良いな。インベーダーとか犬神とか仕込んでるネタのこう、なんというかこういう感じが作風が出ている。メカ親鸞って何?

『あたらしいサハリンの静止点』 第三象限

 第二十九回文学フリマ東京にて入手。第十回創元SF短編賞最終候補作の三編、および各人の新作短編を三編、計六編を収録。創元SF短編賞作家三人で書きましたという段階で集客力が強すぎるので速攻で完売されていたようでした。サークル参加の位置取りを活かして開場直後に買い求めて良かった。もし文学戦争が勃発していたら背後を取られていて危なかった。

 実際、メチャメチャ面白い一冊。今回の文フリの戦利品の中で一番良かった。読んでて楽しくなれた。冬コミでも委託販売あるらしいから急いだほうが良い。

『『サハリン社会主義共和国近代宗教史料』(二〇九九)抜粋、およびその他雑記』 谷林守

 サハリンが独立カルト社会主義国家になる話。義経チンギスハーン説のSF版みたいな。ん、これあの人じゃね?感がじわじわ伏線として来るのが面白い。真面目にメチャクチャなことが書いてある……。狭義のSFらしさはそんなにないんだけど、テロの話とかが差し込まれるのが演出としてよかった。

『あたらしい海』 織戸久貴

「〈いつかの戦争〉が遠い昔に起き、世界が〈諸人〉と〈香人〉という二つの種族にわかれた世界」、という設定。分化した人類の百合SF。百合ですね。断絶は百合なんだよな。艦娘と深海棲艦みたいなものかな? 違うと思う。個人的にはSF側に振るか振らないかのところ(〈香人〉とそうでない種の設定を掘り下げるか、装置として使うだけかの塩梅)でむずかゆさを感じてこうなるともっと長編で読んでみたいと思わされた。

『電話鳥〈i, Phone X〉』 千葉集

 これが一番好き。iPhone Xのダジャレ設定から、電話番号の予言でSF的に急に広がりが出て、でもその装置をしっかり使い切る展開の広がり、そしてクライマックス。語りを支えるためのベースの描写力もしっかりしてて、学生時代の話から現在のシーンまで、かっこよく駆け抜けている。ギャグっぽく始まって加速していく話すき。

『グラス・ファサード』 織戸久貴

 この本の中で一番真面目にSFをやっているはずで、語り口も真面目なのに、定期的にきんいろモザイクが入ってきて笑ったら良いのかわからなくて笑ってしまう(これは褒めています)。ガチな言語SFで人類社会を考察しているのに、きんいろモザイクじゃねえか!ってなってじわじわ来る。これきんいろモザイク知らない人のほうが真面目に感動できるんじゃないかと思うけど、きんいろモザイク知ってる人のほうが楽しめる(???)

『八月の荼毘』 谷林守

 丁寧な作品で特に好き。死体を埋めるの百合じゃんという話。多分違う。死体を兵士にできるIF世界での終戦間際の日本を舞台にして、でもそのSF設定の中心である〈十一兵〉について多くは語らない、と見せかけておいてちゃんと使いますよという物語に対する誠実さとサービス精神好き。

『回転する動物の静止点』 千葉集

 ドライブ感がすごい。しかもドライブ感という言葉が宮内悠介選評として帯に書いてるのがまたすごい。全読者が宮内悠介になる。一人称複数小説であり、魔法が感じられるお話であり、ベイブレードとどうぶつタワーバトルを混ぜた話であり、レクイエムでありマジックリアリズムだ。この作品にも予言が出てくる。やっぱり無茶苦茶な着想からかっこよくまとめていくスタイルが好き。

『ガーファ帝国 マンガ村』 ヒラメ・トロ

 第二十九回文学フリマ東京にて入手。GAFA、漫画村ブロッキング騒動、個人情報保護法、GDPR、あたりを扱った官僚小説。タイトルや宣伝文から、勝手にもっとメチャクチャなフィクションをイメージしていたのだが(ガーファ帝国っていう国が本当に出来てるみたいな)、そんなことはなく、むしろリアリティに寄せた小説だった。現実の業界小ネタみたいなのを散りばめつつ、あ、それ伏線なの、みたいな仕掛けもあって楽しい。中の人はその方面の関係者なのだろうか……。

『令和の怪談』 Machidania.

 第二十九回文学フリマ東京にて入手。令和の怪談をテーマとする短編5本。令和にしても怪談にしてもかなり広く捉えられており、ホラーとかそういう感じではない。

『エクソシストは要らない』 akkt

 なんかこう静か系というか特に何かが起こるわけではない話なんだけどそこに妖怪を入れておきましたという一作。当然のように妖怪がいるの好き。あと冒頭エピグラフが意味深なのもいい効果を上げている。妖怪とリトアニアがなかったら多分あまり面白く感じないタイプの作品なんだけど、ちょっとそういう要素を入れるだけで空気が変わるのは不思議。「崎陽軒のシュウマイ弁当」という致命的な誤字がある(崎陽軒エアプか?)(過激派横浜民)(シウマイ警察)

『エウリュディケの画筆』 nanica marui

 雰囲気好き。名前の由来を考えればヒルメはヨミの兄ということだけど、同時にAmaterus自体という意味もあるんだろうか。座敷童子というのは。タイトルの意味が取りにくい。エウリュディケがオルフェウスの妻のエウリュディケの意味だとしたときに、絵の才能があったとかの話って別にないと思うし……よくイザナミとエウリュディケが重ねられる事があるから、名前が明記されていないけど母親がナミなんだとして、職業もデザイナーらしいし、そっちから来たなにかみたいな要素があるのか? ルドンと関係があるのかとも思ったけどよくわからず。みたいなことを色々考えて楽しかった。

『まどろみ、うたたね、夢をみる』 春紫苑

 サークルアイコンのバクの伏線が回収されたのが楽しかった。バク出るのかよ! 視点(焦点)の変更がちょっとわかりにくくて混乱するところがあった。ナンセンスな展開にバクがうまく効いてる。バクが強い。好きな作家サガンの下り好き。

『眠りゆく者に敬礼を』 meme

 天才エンジニア失踪しがち。これは完全にこっち側の問題であって作品に瑕疵は無いんだけど、なんとか財団あんまり好きじゃないので、あーとなってしまった(予期せず話がなんとか財団になるのとなんとか神話になるのがちょっと……)。

『酒天童子』 kawaiiyumegirl

 この作風というか、主人公とその友人の造形、なんだっけ。なんかあるよねこのジャンルが。なんか5作の中でこれだけ方向性が違うと思うんだけど(だから最後に載ってるのかな)、でもこれが一番好きですね。下北沢感が楽しい。緋月さんが強くて良い。終わり方の雰囲気も好き。

笹NOTY2019ノミネート作品

 2019年に読んだ小説で良かったやつ特集(2019年に発表された作品では全然ありません)。まだ半月あるからダークホース情報を募集しています。

『虚構推理』 城平京

 妖怪とか好きだし、都市伝説とか好きだし、変則ミステリ好きだし、説得力さえあればいい理論好きだし、やたら強い(不死身)男と毒舌美少女のバディも好きだし、基本全部好きなのにむしろなぜ今まで読んでいなかったのかくらいの作品。1月からTVアニメも始まるぞ!(すごいアニメにしにくそうだが……)

『マルドゥック・スクランブル』 冲方丁

 カジノでどんだけ引っ張るんだよ。そしてなんでカジノだけでこんなに面白いんだよ。ここまで作者がやりたいことをやって、それで読者が楽しくなったらそれはもう小説として最高だ。武器と人間の緊張感をネズミと美少女でやっていく。やっていけ。

『図書館の魔女』 高田大介

 最高のファンタジー小説。最近ファンタジーを読んでない人は今すぐ読んだほうが良い。超弩級ファンタジーであり、言葉の話であり、図書館の話であり、ボーイミーツガールであり、ファンタジー小説って面白かったよねという気持ちを思い出すことができる! きり。

『0.5センチの怪獣!!』 ソルト佐藤

 第二十九回文学フリマ東京にて入手

「ハートボイルド・百合(?)・本格ミステリー」とのこと。読んだ感想としては、クエスチョンマークがついていたのに思ったよりも百合じゃんと感じた。ミステリーもしっかりある(細かい伏線がいっぱいあっていいですね)けどメインは百合ですねこれは。百合じゃん。しかも結構めんどくさそうなタイプの! もし続編があるならぜひ読みたいです。

『息 -Psyche- vol.4』 アナクロナイズド・スイミング

 第二十九回文学フリマ東京にて入手

 特集『見るなのタブー』ということで、見るなのタブーをテーマとして6作が収録。このテーマは結構難しいと思います。物語の構造自体を縛ってくるテーマなので、読者に対して意外性による面白さを提示しづらい。そんな中で結構幅のある作品が集まっている。

淡中圏「見るなの学園」

 鶯内裏、雪女、鶴女房(?)のアレンジ。所々でギャグが差し込まれている。百合にしてみたり消しゴムにしてみたりするアイデアが面白い。ただそれぞれ短く終わってしまうので物足りなさもあった。

淡中圏「まかぶる」

 イザナギとイザナミの黄泉の国の話で、見るなのタブーだけでなくて呪的逃走のところまでオマージュしている話。タイトルは死の舞踏? サブウェイの駅とか言って雰囲気出してたのにファミリーマート出てきて笑ってしまった。途中まで真面目にホラーっぽくしてるのに最後雑に原典使ってくるのが茶化してる感じがして面白く、好き。

月橋経緯「かく(さ)れる」

 意味のわからない系の怖さ。そういう系の怪談ってバランス感覚がいると思うんだけどこれはちょうどよく感じて良かった。ちょっとネットロアっぽくもある。前半と後半の関連がよくわからないのもそれを増長していて良いですね。

伊予夏樹「箱庭に人を入れる方法」

 一転してファンタジーっぽい話。見るなのタブーが世界的に残っていることを考えるとこうして世界設定の雰囲気が違う作品が入ってくるのはいいですね。キャラや用語からなんとなくその雰囲気を察したんだけど連作短編として書かれたものの一部とのこと。

稲田一声(17+1)「はっちゃん帰路をゆく」

 本書で一番好きです。これはまさに理由説明系の昔話じゃないかと思ったらあとがきにそう書いてあったのですごい納得した。振り返るな型の見るなのタブーを生物学と絡めてギャグSFにした上で、物語的にも真面目な伏線の回収に使ってくるのズルすぎるでしょ。この記事の最初に書いた「読者に対して意外性による面白さを提示しづらい」を完全に乗り越えている一品。

弥田「【お詫び】今回、晴ノ宮時雨さんの原稿は諸事情により掲載見送りとなりました」

 定番の原稿落としネタ枠なんだけど、ちゃんとテーマに沿っていて笑う。

『会計SF小説集』 アーカイブ騎士団

 第二十九回文学フリマ東京にて入手。上記はKindle版。

 前回の『モンスター小説集』がメチャクチャ面白かったので、今回も期待して読んだところ、メチャクチャ面白かった。

簿記とAI(高田敦史)

 コンタクトモノとAIモノに複式簿記がぶつかるという、「いや会計SFってなんだよ」を「あ、これ会計SFだ」に変えてくれる最強の冒頭作。醸し出してくる雰囲気や周辺設定の広がりがすごくて、ページ数結構あるんだけどあっという間に読んでしまった。これ全然続き読みたいし、長編向きに感じる。

MNGRM(旅岡みるく亭)

 会計というよりは功徳経済の話かな。宗派の違い云々のところが面白かった。話的には盛り上がりはこのあとのように思って、ちょっとすぐ終わりすぎた感じもあり、もう少し読みたい。

サイボーグは冷たい帳簿の中に(森川 真)

 本書で一番好き。脳埋め込み計算機が体重の1%までなら福利厚生費だけど1%超えたら資産化しないといけないとか設定が強すぎる。公開会計と経理のゲーミフィケーション『副社長リーグ』とかメチャクチャな設定なんだけどSFとしてまとめ上げている手腕が光るし、雪夫の母親に関するドラマがきちんとドラマしていながらにして全部ちゃんと会計処理になっているのも正しく会計SF。『簿記とAI』が複式簿記の歴史的側面とかをうまく使っていたのに対して本作はかなりテクニカルに会計SF。「早く帰って会計しないと」とか笑わせてくれるのも良い。あとタイトルが深い。

複式墓地(渡辺公暁)

 ダジャレやんけ。SF色は弱めなんだけど会計の使われ方は秀逸。西洋伝奇モノ的な位置づけのほうが近いと思うけど、そこに複式簿記が持ち込まれると変なおどろおどろしさが出て良い。手形のとこで急にそういうのが来たから笑ってしまった。

日商簿記2級受験記(高田敦史)

 これ読むと受けてみたくなるな。