『0.5センチの怪獣!!』 ソルト佐藤

 第二十九回文学フリマ東京にて入手

「ハートボイルド・百合(?)・本格ミステリー」とのこと。読んだ感想としては、クエスチョンマークがついていたのに思ったよりも百合じゃんと感じた。ミステリーもしっかりある(細かい伏線がいっぱいあっていいですね)けどメインは百合ですねこれは。百合じゃん。しかも結構めんどくさそうなタイプの! もし続編があるならぜひ読みたいです。

『息 -Psyche- vol.4』 アナクロナイズド・スイミング

 第二十九回文学フリマ東京にて入手

 特集『見るなのタブー』ということで、見るなのタブーをテーマとして6作が収録。このテーマは結構難しいと思います。物語の構造自体を縛ってくるテーマなので、読者に対して意外性による面白さを提示しづらい。そんな中で結構幅のある作品が集まっている。

淡中圏「見るなの学園」

 鶯内裏、雪女、鶴女房(?)のアレンジ。所々でギャグが差し込まれている。百合にしてみたり消しゴムにしてみたりするアイデアが面白い。ただそれぞれ短く終わってしまうので物足りなさもあった。

淡中圏「まかぶる」

 イザナギとイザナミの黄泉の国の話で、見るなのタブーだけでなくて呪的逃走のところまでオマージュしている話。タイトルは死の舞踏? サブウェイの駅とか言って雰囲気出してたのにファミリーマート出てきて笑ってしまった。途中まで真面目にホラーっぽくしてるのに最後雑に原典使ってくるのが茶化してる感じがして面白く、好き。

月橋経緯「かく(さ)れる」

 意味のわからない系の怖さ。そういう系の怪談ってバランス感覚がいると思うんだけどこれはちょうどよく感じて良かった。ちょっとネットロアっぽくもある。前半と後半の関連がよくわからないのもそれを増長していて良いですね。

伊予夏樹「箱庭に人を入れる方法」

 一転してファンタジーっぽい話。見るなのタブーが世界的に残っていることを考えるとこうして世界設定の雰囲気が違う作品が入ってくるのはいいですね。キャラや用語からなんとなくその雰囲気を察したんだけど連作短編として書かれたものの一部とのこと。

稲田一声(17+1)「はっちゃん帰路をゆく」

 本書で一番好きです。これはまさに理由説明系の昔話じゃないかと思ったらあとがきにそう書いてあったのですごい納得した。振り返るな型の見るなのタブーを生物学と絡めてギャグSFにした上で、物語的にも真面目な伏線の回収に使ってくるのズルすぎるでしょ。この記事の最初に書いた「読者に対して意外性による面白さを提示しづらい」を完全に乗り越えている一品。

弥田「【お詫び】今回、晴ノ宮時雨さんの原稿は諸事情により掲載見送りとなりました」

 定番の原稿落としネタ枠なんだけど、ちゃんとテーマに沿っていて笑う。

『会計SF小説集』 アーカイブ騎士団

 第二十九回文学フリマ東京にて入手。上記はKindle版。

 前回の『モンスター小説集』がメチャクチャ面白かったので、今回も期待して読んだところ、メチャクチャ面白かった。

簿記とAI(高田敦史)

 コンタクトモノとAIモノに複式簿記がぶつかるという、「いや会計SFってなんだよ」を「あ、これ会計SFだ」に変えてくれる最強の冒頭作。醸し出してくる雰囲気や周辺設定の広がりがすごくて、ページ数結構あるんだけどあっという間に読んでしまった。これ全然続き読みたいし、長編向きに感じる。

MNGRM(旅岡みるく亭)

 会計というよりは功徳経済の話かな。宗派の違い云々のところが面白かった。話的には盛り上がりはこのあとのように思って、ちょっとすぐ終わりすぎた感じもあり、もう少し読みたい。

サイボーグは冷たい帳簿の中に(森川 真)

 本書で一番好き。脳埋め込み計算機が体重の1%までなら福利厚生費だけど1%超えたら資産化しないといけないとか設定が強すぎる。公開会計と経理のゲーミフィケーション『副社長リーグ』とかメチャクチャな設定なんだけどSFとしてまとめ上げている手腕が光るし、雪夫の母親に関するドラマがきちんとドラマしていながらにして全部ちゃんと会計処理になっているのも正しく会計SF。『簿記とAI』が複式簿記の歴史的側面とかをうまく使っていたのに対して本作はかなりテクニカルに会計SF。「早く帰って会計しないと」とか笑わせてくれるのも良い。あとタイトルが深い。

複式墓地(渡辺公暁)

 ダジャレやんけ。SF色は弱めなんだけど会計の使われ方は秀逸。西洋伝奇モノ的な位置づけのほうが近いと思うけど、そこに複式簿記が持ち込まれると変なおどろおどろしさが出て良い。手形のとこで急にそういうのが来たから笑ってしまった。

日商簿記2級受験記(高田敦史)

 これ読むと受けてみたくなるな。

『消える記憶』 るびび

 第二十九回文学フリマ東京にて入手

 記憶が消えたりそれを操作的に使うのってエモいよねという話であり、エモいよね。あと海行くのもエモいよね。なんかそういう話であり、作者の「こういうの好きなんだよね」感が盛り込まれており好感が持てました。めんどくさい百合という売り文句だったが、たしかにめんどくさく、というか主にめんどくさいのは主人公なのがいいですね(?)。多分結構広がる(広がったほうがいい)話のように思うので、続き的なものがあるなら読んでみたいです。

『全ての探偵が死んだとき』 黒澤正樹

 第二十九回文学フリマ東京にて入手

 見本誌コーナーで「探偵が全員死にます」みたいなことが書いてあったのを見かけて思わず手にとったところ、冒頭の登場人物一覧でこれ絶対面白いだろと思って購入した作品。登場人物一覧だけでメチャクチャツッコミどころがありすぎて笑える。勅使河原を二人も出すな。人造人間ってなんだよ。もう冒頭で勝ってるんですよね。本文でも案の定破壊的な行為が行われ、アンチミステリ的な様相で、読者側がツッコミを入れたくなってしまう。というか大きいツッコミどころが目立ちすぎるせいでなんとなく霞んでるんだけど、そもそも『200年前に起きて未だに未解決の密室殺人の現場を模したアパート』って設定がギャグじゃないのか。楽しい作品でした。

『流されないように 第一話』 白樺あじと

 第二十九回文学フリマ東京にて入手

 ミステリ短編。学校もの。高品質なコンパクトなミステリに、魅力的なヒロインと後ろ暗い主人公とくれば、僕の好きなやつです。とても好き。こういうの読むの好きだし、自分も書きたいなと思わされてしまう。『第一話』とのことだし、実際第二話以降で回収するんだろうなという要素もあって先が気になるので、続きを楽しみに待っています!

『蟹 摂食思考機構』 木村凌和

 第二十九回文学フリマ東京にて入手

 蟹SFじゃん。やっぱり蟹SFが静かなブームなのではないか。表紙に蟹とドーンと書いてあり、インパクトがあり、惹かれてしまう。小説本で表紙買いとかあんまないと思ってるんだけど、存在に気づかせる力はやっぱりあると思う。「電子生命《カルサイト》のキャリーに「食べられたい」と言う毛ガニの蟹(名前)。板挟みになった少女アキは、十七歳だった頃のひいおばあちゃんを再現したシュミレートデータ・タマちゃんの助言を得て、蟹を茹で、炭酸カルシウム系電子生命へ転成してしまう。」というあらすじがハチャメチャなんだけど、実際読むとあらすじの通りで勢いがあり(あらすじが強い小説は大体面白いんだよな)、でもなんか最後きれいに落ち着いて終わったのがずるいですね。

『竜鱗書記』 藤あさや

 第二十九回文学フリマ東京にて入手

 鱗に文字が浮かんで全身で書をなしている竜人(?)を主人公として、銀河図書館を盛り込んだSF。もともと図書館SFというキーワードで面白そうだなと思ったけど、SETIっぽい方向に話が展開していったのは予想外で、謎解きパート(?)のところが面白かった。わりと主人公の心情が平坦な感じに進む気がして、最初はもうちょっと起伏があってもいいのではと思ったんだけど、最後の結論を考えるとそれで合っているのか、と思わされた。論理否定っていうワードをこう使うとなんかかっこいいな。

『鳥葬 -まだ人間じゃない-』 江波光則

 SNSの話をする小説、みたいな切り口で誰かにオススメされた気がする。確かにSNSの暗いところをぐっとえぐっている小説ではあったが、あまり好みではなかった。文章がちょっと、気取りすぎ感あって好みでなく、ストーリー暗いし(暗いことが悪いことではないはずだが)、キャラクターもあんまりピンと来なくて、ミステリー要素(いやミステリとして書かれたわけではまったくないと思うが、一応犯人当て要素として)も特に迫ってこなかった。

『虚構推理 スリーピング・マーダー』 城平京

 虚構推理シリーズ、三冊目の小説。二冊目の 『虚構推理短編集 岩永琴子の出現』 を読んだときに、面白いんだけど長編が読みたいなと感じたところがあったため、本作を読み始めたとき、これ短編集では、という疑念で一瞬残念な気持ちになったりしたのだが、最終的には長編的にまとめてきたので良かった。理外の存在が絡んだ事件に対して虚構を構築して真相が二転三転する構成の妙は相変わらずで、楽しい。峰打ちの下りとかメチャクチャなんだけど、この作風だと何をやっても許される感じになるのが強いな。