『火竜の僕は勇者の君と一度も言葉を交わさない』 雲鳴遊乃実

 第8回Text-Revolutionsにて入手

 夢で繋がる系のファンタジー小説。雲鳴さんの小説は何作か読ませていただいて、地の文での心情表現の丁寧な積み重ねに強みがあるのかなと思っていて、本作でも”僕”の鬱屈や夢の中で得られるカタルシス、また後半で時間が経ったあとの記憶がぼんやりしている感じの表現などがよく書かれていて、タイトルの通りセリフ的な表現が制約を受ける設定とマッチしているなと思ったりした。

 カクヨム連載分に書き下ろしを加えたということで、カクヨムの方は読んでいなかったのだけれどおそらく「番外編」分が書き下ろしであろうと思われ、この形で読むと番外編まであって一作として成立しているなと思った。本編だけ読むと、ラストシーンの必然性がそこまでピンとこなかったのが、番外編でうまく回収されて、また「一度も言葉を交わさない」に対する別解というか、違う目線からのアンサーが描かれているのがすごく良かった。

 あと本筋に関係ないんだけど、最初火竜が「ひりゅう」なのか「かりゅう」なのかわからなかったので(いやどっちでもいいんだけど、セリフを脳内再生するときに気になってしまう。ネットで調べるとかりゅうのほうが多数派っぽい。主にモンハンのせいで)、初回登場時にルビがあると嬉しいかなと思った。途中でひりゅうだとわかるセリフがあったので(ひ、火竜!?)、それを初登場時にもってくるとルビなしでいくこともできると思う。

『老ヴォールの惑星』 小川一水

 とても良かった。

 SF小説。ハードSFっぽい空気にしつつ人間を描くタイプ。四編どれも、途方もなさによる極限状態のつらさみたいなのが描写され、息苦しいんだけれど、必ず結末は明るいのが希望を感じさせてくれて(きっとそれはポリシー的なものなんだろうと思う)、読後感が良いのが素晴らしい。安易に暗い感じにならないというのは結構な信念を必要とすると思う。全部好きだけど、選ぶなら「漂った男」が一番かな。

『黒塚さんの犯罪蒐集』 白樺あじと

 第8回Text-Revolutionsにて入手。1(無印)、2、3の3巻。

 犯罪を蒐集するという偏執的な趣味を持つ黒塚さんと、その助手の”僕”の話。黒塚さんは犯罪に関して天才的な嗅覚で推理を展開するが、犯人の逮捕が目的なわけではなく、あくまで犯罪を蒐集したいという立場なのが変則的で、その立場を活かした解決やトリックも楽しい。2でサスペンス要素(アクション要素?)を入れ、3で二重解決的に展開を広げていくのも良かった。なにより黒塚さんと周囲のキャラクターに対して作者の丁寧な愛情が感じられるのが読んでいて楽しかった。

『飲み会が終わったら』 白樺あじと

 第8回Text-Revolutionsにて入手

 日常の謎2編。『空飛ぶ灰皿 熊の理由』 の続きというか同じサークルの話。一体何のサークルなんだ……。やっぱりちゃんとミステリをやっていながらキャラクターに魅力があり、今回なんかは特に1編目と2編目にミステリ外の部分でもつながりというか解決が用意されているのが巧みだよなぁと思います。やっぱり湯河原さん好き。

『偽幽霊と冬花火』 雨下雫

 第8回Text-Revolutionsにて入手

 表題作の短編の他、掌編2編を収録。表題作は熱海モノ。女性主人公はちょっと新鮮でした。斜に構えがちなので実はそっちが幽霊とかそういう展開なのかとちょっと思ったけど普通に良い話だった。普通に良い話じゃん……。あとカメラがただのエモアイテムじゃなくてちゃんと話を駆動しに来るのがしっかり光ってていいよなぁと思った。引き出しが多くてすごい。

『満ちては欠けて冬桜』の序盤の女の子みたいな系統のパワー好き。

『空飛ぶ灰皿 熊の理由』 白樺あじと

 第8回Text-Revolutionsにて入手

 日常の謎2編。日常といいつつ事件そのものは割合シリアスなもの。ただ大学生たちが飲みながら推理するというところが日常っぽい感じになっている。白樺あじとさんの作品を何作か読んできましたがすべての作品がミステリとして正統で無駄な要素がなくかっちりしているので気持ちが良いです。同時に、こういう短めの話でトリックだけで終わりということもなくキャラの良さが端々に出てくるのも楽しい。チンピラの真似が上手い湯河原さんすき。

『星を見上げて ~双子惑星の渚~』 丸山弌

 第8回Text-Revolutionsにて入手

 ジュブナイルっぽい雰囲気の長編SF小説。本格的な長さ(文庫版P256)で、続きの展開が気になりながら読めるようになっており面白かった。SFらしさとして双子惑星のもろもろの機序考察を入れつつ、内容的には異世界冒険ものなので、テンポよく仕上がっているからだと思う。第一部の後半が特に楽しかった。その分、第二部の終盤はちょっと尺が足りない感があったけれど(例えばリスィ側の話が知りたい)、全体としてはとても面白かった。キャラ造形がしっかりしており、ライニーカール、ジジジク、ミトヒが特にすき。ハヤカワ風の装丁も素敵。

『天体観測』 永坂暖日

 第8回Text-Revolutionsにて入手

 地上が汚染され人類は地下都市で暮らしている時代という設定の中で書かれた多彩な短編集。一作目の『あるいはそれよりも鮮やかな』がめちゃめちゃ好き。短編作品でこの世界観とキャラのディテールの書き込みはすごい。赤くて光まくってる防護服っていうのがすでに強いんだけどそれを最後まで使い切るのが好き。他の作品とも話題や作風は違うんだけど設定を共有しているというのがよくて、一冊として楽しくまとまっていた。地下世界の話が続いてちょっと地下の鬱屈みたいなのに慣れたあとで『かげろうが消えた夏』の夢の感じが入ってくるのとかすごく良いと思う。表題作『天体観測』を読み終えた後に表紙がやたらキラキラしてるのに戻るとエモい。

『Farewall, My Last Sea』 佐々木海月

 第8回Text-Revolutionsにて入手

 海に関連するSF的短編小説集。もともと別々の合同誌等に寄稿された作品を集めて構成しているとのことでしたが、単に集めましたという感じが一切なく、一冊の作品としてのまとまり・読了感の良さが素晴らしい作品でした。作品単体で読むと、続きが気になる(話がまとまるとかオチがあるとか解決するといかいうタイプの作品ではないため、悪く転べば単体では物足りなさもありかねない)ところ、うまく作品同士がつながることで、不思議で良い雰囲気がリレーされているように感じます。どの作品も気に入りましたが、特に良かったのは『morris』の異形と夜霧の感じ、『20,000 miles away』のラストシーン。あと、装丁や組版の細かいところにも気を配っているのが、一冊の完成度を高めているように思いました。「了」の代わりに使ってる(?)マークが好き。

『ジーク・ヨコハマ』 6人のヨコハマ戦士たち

 第8回Text-Revolutionsにて入手

 横浜をテーマにしたアンソロジー。表紙にカオスと書いてあるが実際にかなりカオス。6編の作品(と座談会)を収録。というか座談会のボリュームが結構ある。最初めくったときに謎の三段組が後半にあるのがわかったから、組版を工夫した作品があるのかな?と思って読み進めたらまさかの座談会だった。読んで一番好きだったのは今田ずんばあらず『半球のスター・ダスト』で、童話みたいな始まり方からの変化球、無理のある横浜要素、からのアクロバティックになんかきれいな話になって回収して締めるという、遊びと技術を感じさせる作品でした。座談会で平塚の宮沢賢治とか書いてあったけどその表現がハマってて笑う。それぞれの横浜観が垣間見えるのは結構面白く、ひざのうらはやお『Dear Y』と転枝『赤い光、横浜』はそれが対照的に見えるのも楽しめて良かった。『Dear Y』は横浜に対する私怨感がすごくて、由紀の描写が結構好きで、んで最後なんか急に気持ち悪い感じになって(褒め言葉)終わるのが良かった。『赤い光、横浜』は一番正攻法に横浜小説っぽい。ビブレとか。一応僕もかつて横浜にいたので。やはり横浜がテーマなので横浜に対して様々な感情があると楽しめそうだなという合同誌でした。