『夢幻諸島から』 Christopher Priest 古沢嘉通訳

 めちゃめちゃに面白いです。夢幻諸島(ドリーム・アーキペラゴ)の旅行ガイドの体裁で、一つ一つの島の紹介をしていく連作短編集。だったはずが、途中でもう島の紹介とかではなくなる。真面目に島の紹介をしていた最初の方はこれこのペースでこの分量あるのか、という感じだったのだが、スライムの辺りから急激に面白くなり、引き込まれまくってしまった。単体だとスライムが一番好き。情報が分散してるやつだと、コミスの殺人事件。一つの短編で残った謎が、別の短編で解かれると思いきやかえって謎が増えている。んで時々思い出したようにスライムが出るの怖くて良い。あとは塔のレンガ積むやつも好き。あの一本だけ若干クトゥルフみあるよね。クトゥルフ読んだことないです。

『プランク・ダイヴ』 Greg Egan 山岸真 訳

 ハードだった。別に面白くないということはないが、やっぱりちょっと自分にはSFすぎるかなという感じがする。『暗黒整数』のエモさは良かった。『プランク・ダイヴ』の自由だってなるとこも好き。他の作品はだいたい、そこで終わるんかいって思ってしまいがち。

『ひとりっ子』 Greg Egan 山岸真 訳

 イーガンの履修が不足していたので。

 非常にSFだなと思った。なんというか、技術的理論的なアイデアがあって、それをひたすら核として話を書いている。SFと言いながら中心となるSF要素を魔法に差し替えても成立してしまうタイプのファンタジーに近接したSFみたいなのを読むことが多いので(というか自分はそういうのが結構好きなので)、こういうともかくSFですみたいなのを読むとSFだなと思う(?)。

『ルミナス』『オラクル』『ひとりっ子』の三作が面白かった。『ルミナス』は演出が良かった。中国なのも良い。『オラクル』『ひとりっ子』は美少女AIなので。美少女AIか?

『百億の昼と千億の夜』 光瀬龍

 昔、萩尾望都の漫画版を読んだことがあるけど原作は初読。

 超スケール時空哲学SF。超越者に挑むはシッタータ、プラトン(途中からロボ化して全部セリフがカタカナになって超絶読みにくいぞ)、あしゅらおう(なぜか美少女)。そして敵がナザレのイエスだったりMIROKUだったりする超スケール。最後のオチの部分は(書かれた時期を無視して)現代から見れば割とありがちで、ショートショートくらいの長さでも十分ありうる内容なんだけれど、ともかく壮大なスケール感の設定と、終末の荒涼とした世界観の描写で読者を引き込み、読ませる力があると思う。そして原作を読んで改めてこの雰囲気を表現した漫画版もすごかったなと。

 ナザレのイエスが長いから(?)、「ナザレの!」って呼ばれだすの好き。

『逆行の夏 ジョン・ヴァーリイ傑作集』 John H. Varley

 傑作集だった。巻頭の「逆行の夏」は、なんか翻訳が微妙に感じるところがあったりして詰まり(古かったせいかな?)、まあ、うん、と思いながら読んで、「さようなら、ロビンソン・クルーソー」も、なるほど、という感じだったのだが、「バービーはなぜ殺される」がめちゃめちゃ好きで、以降全部好きだった。「バービーはなぜ殺される」みたいな、SFなんだけど宗教みたいなのが混入してきてるのすごい好きなんだ。まあこれは設定と中盤が良くて、最後はちょっともうちょっとこうとは思ったところがあったが、次の「残像」は最後まで凄まじい。このラストが書けるのはすごすぎるでしょ。ほんまに。「ブルー・シャンペン」はエモくあるべくしてエモいので良かった。そして最後の「PRESS ENTER ■」が非常に良かった。若干古臭いところはあるが、得体のしれなさがすごい。結局この作品だけ他とジャンルが違う気がするんだけど、なんだかんだ一番好き。読んだ後に残る。

『犬はどこだ』 米澤穂信

 犬を探す話かと思ったら犬を探す話ではなかった。なんか犬と会話できるとか特殊能力に恵まれた主人公なのかと思ったらそんなわけでもなかった。妹に恵まれてるだけだった。妹小説だった。妹はどこだ。

 別に米澤穂信に詳しいというわけでは全くないが(だからこそこんな初期作品いまごろ読んでるんだけど)、いかにも米澤穂信感が出ていて良かった。二つの調査のつなげ方も、主人公の鬱屈も、事件の結末も、タイトルもそんな感じ。救いがない。

『百壁ネロ完全体 黎明編』 百壁ネロ

 第二十六回文学フリマ東京にて入手。twitterで見かけてくっついていたサンプルで面白そうだと思ったので、という極めて軽い気持ちでブースを訪れたらなんか卒業式の会場みたいになってて、いただいた本もめちゃめちゃ分厚くて卒業文集かよと思って、家で開いたら一ページ目にいきなり校長先生のお言葉みたいなのが載ってて卒業文集かよと思った。結局この先生は誰なんだ……。

 計17作品収録というボリュームもあり今更読み終えて今更感想を書くわけですが、これがめちゃめちゃおもしろかったです。特に気に入ったのは「○ゴトジェノサイド×トリィムホラーショー」「ハッピーファッキン・ハチクロファッカー」「東京カタストロホテル九々九九式」の3本で、ちゃんと完結しているという意味では「ハッピーファッキン・ハチクロファッカー」が一番ですね。エモい。勢いがある。ざらめちゃんが可愛い。旅要素がある。以上全部好きですね。未完のやつに関しては、は、完全体なのになんで未完やねん面白いのに、と読んでる途中で思ってしまったけど最後の解説でなるほどねと思った。続きが読みてえ。やたら殺し屋が出てきたりあとキャラの名前の付け方とかに濃厚なこうあれを感じるんだけどそういうの含めて全集っていう形式、熱いなと思った。楽しかったです。完全体おめでとうございます。

『バレエ・メカニック』 津原泰水

 三章構成だが事実上三編の連作小説的な趣。SFか? SFか。一章が一番好きかなぁ、終わってみれば。二章でわかりやすくなりすぎた感じがする。ただ、二章の木根原の衰弱ぶりは良かったのと、あと徹底して理沙が不在なのが良いと思った。三章はあんま納得いってない。

『百年の孤独』 Gabriel Garc´ia M´arquez 鼓直訳

 やばすぎる小説。これが南米マジックリアリズムの爆発か。ホセ・アルカディオ・ブエンディアの息子がホセ・アルカディオでその息子がホセ・アルカディオだけどややこしいからアルカディオと呼ばれていますって、ややこしいと気づいているなら名前を変えろ。ブエンディア一家の無数の物語のミザナビーム。途中でノーパンノーブラファムファタールが空を飛ぶシーンもあるぞ。長くて読むのは大変、ずっと殴られ続けて疲れたけれど、終盤が本当に圧倒的だった。これだけ無数のパーツを連打しつつ最後にはまとめ上げてくるの本当にすごい。

『TOKYO YEAR ZERO』 David Peace 酒井武志訳

 やばすぎる小説。かなり長くて重いが、結構一気に読んでしまった。面白い。

 意識の流れ系だと解説に書いてあったけどそういうジャンルでしたっけ。まあ意識の流れであることには間違いないが。ひたすら挿入される意識、反復、変奏、狂気。一応トリック的な要素があったが、まあ途中からバレてるし、わりとそっちはどうでもいいと思う。警察小説とかノワール小説的な文脈で読もうとしたらなんか違うとなるのではないか。重要なのは東京の闇(この暗黒、暗澹感はすごい)と主人公・三波のこの意識、心理、狂気でしょう。お前痒いところ掻きすぎなんだよ。ガリガリ。自称通りの人間は誰もいない……。