『西南シルクロードは密林に消える』 高野秀行

 成都からビルマ北部を通ってカルカッタに至るまで、かつて存在したとされる西南シルクロードを踏破するエクストリームノンフィクション。ゲリラの手を借りて密入国しジャングルを歩いたり象に乗ったりと奇想天外で、合間に挟まれる人間観察や文化・社会に対する考察、政治事情についての情報もとても面白い。中国公安に尋問されるシーンが良かった。

『マルドゥック・スクランブル』 冲方丁

 熱い小説だった。カジノシーンめっちゃ長い。カジノだけで一冊分くらいあるだろ。しかしそのカジノが面白い。物理的なやつから始まって最後ブラックジャックに行くの最高だし、ドローですなおじさんすごい好き。

 サイバーパンクの翻訳文体調というのもなかなか面白かった。というか翻訳文体調ってなんか倒錯しているというかそれだけで面白いな。あとなんかあとがきが熱かったのでその印象がより強化されたんだけれど、作者が最高に楽しんで苦しんで書いているというのが伝わってくるのが良かった。

『C’mon Spice!』 雲鳴遊乃実

 第二十八回文学フリマ東京にて入手

 イベント参加時にお題箱を設置し、そこに入れられたお題から引き当てたもので短編を書いて次のイベントで新刊にします、という企画で、「下北沢初代永世カレー王」をお題に書かれた短編。

 いや、お題の難易度が高すぎるだろう。けれどそのお題に対し、しっかり料理していく姿勢が良かった。二秒くらいで考えようとすると「下北沢初代永世カレー王」と言われたらなんか料理対決的に最強のカレーを作るみたいななんかそんな感じになるが(なるか?)そういうネタ方面に走らず、ちゃんとお題は使いつつ下北沢とカレー王にフォーカスして話を掘り下げてあり、憧れの心情描写や最後のカタルシスなど、丁寧な書き方が光っていた。冷静に考えるとカレー三杯食って歌うだけで、肝心の浦野の手がかりすらつかめないんだけど、それを熱とスパイスと歌で押し通すエネルギーがすごくて、読んでいる時は爽快感あるし、読み終わって振り返ると笑ってしまう。フードファイトじゃなくてこれを書いてもらえるならお題入れた人は本望なんじゃないでしょうか(適当)。

 あとがきの歌詞利用の話が結構興味深かった。商業の本でガンガン歌詞載ってくるやつはどれくらい払っているんだろう。

ねじれ双角錐群『アンソロポエジー』Kindle版配信開始

 2018年秋の文フリ東京にて頒布した、ねじれ双角錐群『アンソロポエジー』のKindle版がついに出ました!

「人類滅亡後を舞台に」「人類以外を語り手とする」「語り手は何らかの手段で人類を観測している」という条件で書かれたSF短篇小説集です。つまり、語り手となる人類以外とは一体何者か、からそれぞれの特色が出始めることになります。ラインナップは上記のツイートに貼り付けた画像をご覧ください。どの作品もアンソロでありポエジーに仕上がっているかと思います。ちなみに、一部の作品に組版上の演出というか、特殊な組版がなされていたために、リフロー型電子書籍の発行が危ぶまれていましたが、強引に解決されました。人類がいなくなった今、多少の強引さが必要とされています。

 ねじれ双角錐群は今年の秋の文フリ東京に向けて雌伏して時の至るを待っておりますので、ぜひメンバーに養分を与えると思ってDLし読んで長文感想を書いてください。よろしくおねがいします。

『息 -Psyche- vol.3』 アナクロナイズド・スイミング

 第二十八回文学フリマ東京にて入手

 特集「夢オチ再考」ということで、夢オチをテーマにした一冊。ほぼ小説、若干論考。

『夢オチ探偵』17+1

 任意のタイミングで『目覚める』ことにより難事件を夢オチにして強制解決する能力を持った名探偵の話。探偵モノのテンプレギャグと、夢オチを前提とした出オチ設定で話を進める力技も好きだし、そこから来てラストが何故かセンチメンタルになるのすごく好き。執筆者コメントにある通りで、合同誌の性質上、夢オチであることは予め読者に示されている状態で何を書くかと考えた時に、この設定には必然性があって、でもそこで独自の世界が描けているのが良いと思った。

『逆夢』17+1

 ありがちな夢と現実の組み合わせが反対になっている夢を見るという話なんだけれど、不思議な終わり方をしていて、これ結局夢なのか、というのがよくわからない、混乱させてくる作品。夢オチの一系統としてたしかにそういう「夢か現か」的なのがあり、作為的にそれを使いながら夢の話をしていくという作品なんだろうなと思う。

『ふたりがキスしたら即夢オチする連作短篇集(百合編)』みた

 タイトルでオチてるので好き(?)。タイトルがすべてなんだけど、夢オチと連作短編ってめちゃめちゃ相性が良いなと気付かされた。めちゃめちゃに話広げていって最後戻ってくるの好き。

『巡夢あるいは「夢見」の素描』渋江照彦

 夢オチが構造上夢と現実の二項対立であるのに対しそれを外しにいくという意欲作で、とても面白い構造だった。大学の授業のシーンあたりからどんどん不気味になっていくというか、得体のしれなさがうまく演出されていて良かった。

『(愚考)虚構信者よ浮遊しろ 〜乱歩の短篇から夢オチをかんがえる』月橋経緯

 江戸川乱歩を題材に夢オチについて考える論考。乱歩のネタバレが含まれるということで、残念ながら読んだことなくて今後読まないとも限らないのでちゃんと読んでおりません。読みたい。

『夢オチの話をしよう』淡中圏

 論考と小説のハイブリッド。夢オチについて考えながら夢オチの小説を書いたり、夢オチの小説を書くことを考えたりする話。これも読み進めていくにしたがって、メタ展開含めて大きく物語の次元が広がっていき、最後に戻ってきて着地するという話で好き(多分自分がそういう構成好きというのもあってこういう感想がやたら多くなるのだが)。ツイートしてるとこで笑った。

『bnkrR vol.16 平成』

 第二十八回文学フリマ東京にて入手

 テーマ『平成』ってめちゃくちゃ難しくないか、と思ったら実際一冊の1/3くらいしかテーマにしたがってなくてちょっと笑った。というか具体的には短編3本で、松永肇一『AI世界をキモオタと旅する』は元号切り替えをネタにしたサイバーSF。ベイジアンフィルタの設定が厨ニっぽいのが好き。塚原業務『平成の塚原』は、平成四十二年に迷い込むという異世界パロディミステリ(?)。過去作品『奇祭探偵』のスピンオフで独特のゆるい空気が良い。城島はむ『平成サルベージャー』は失われた青春を取り戻そうとする青春時間SF。ネトスト後輩女子すき。

 その他、平成に特に関係ない通常営業の小説と、エッセイ、レビューを収録。その中でひときわ良かったのが、なんかよくわからない得体のしれなさがすごかった『霊話』。平成特集が終わって霊話が始まるダジャレ感(?)。怪談ショートショートが連作されているのだが、筆者とかの情報が一切書いてないのが謎感を高めていて良い。『佐南弁』『吹雪の日の妹』『目玉』が特に好き。

『ヨハネスブルグの天使たち』 宮内悠介

 落ちる少女ロボットSF連作。ロボットの使い方が面白く、連作の繋がり方も絶妙な具合だったように思う。今度はこう落ちるのか、みたいな。落下を書きたいというところにSFを後付していくような感覚。というか設定は意味不明でツッコミどころ満載であり、真面目に考えたがる人は受け入れられないと思うから、一般的な尺度で言うとSFとしてはダメなんじゃないだろうかと思った。しかも「あんま考えなくていいですよ」みたいなポーズを発信してないからな。でも個人的には別に問題なく好き。舞台の異国感もよい。ヨハネスブルグ、ニューヨーク、アフガニスタン、イエメン、東京。その舞台であることに必然性があるかといえばよくわからないし、ニューヨークと東京はともかく(しかしこの東京は今の東京ではないのだが)行ったことなんてない国にリアリティもよくわからないのだけれど、不思議な質感とか空気感みたいなものを漂わせることに成功している。

『凶鳥の如き忌むもの』 三津田信三

 刀城言耶シリーズの第2作。前作の『厭魅の如き憑くもの』がすごく面白かったので、そこの期待値からすると本作は若干もう一息ほしかった感はあるものの、絶対値で言うと十分良かった。伝奇・怪異的要素が挿話も含めて凄まじく、密室からの消失トリックも良かったと思う。が、『厭魅』のような圧倒的なラストの振れ幅を期待していると、そこまでは届かないという感じがあった。しかしこの次のシリーズ3作目の評判がえらく良いらしいのでそれに期待したい。

『こだわり/花の女』 雨下雫/小島宇良

 第二十八回文学フリマ東京にて入手。短編2編、両A面仕様。

『こだわり』は作者の雨下さんがあとがきで書いている通りファンタジー要素とかがないという意味ではこれまでの作品と毛色が違うような気もしつつ、個人的には流れている空気は似てるしそんなに突飛な感じは受けませんでした。上記宣伝ツイートでは「狂気」と言ってるけれど、実際そこまで狂気かというとそういう異常性は感じられず、蕎麦に関しては知らんけど一般的にこういう「こだわり」、誰しもなにかあるというか、共感できなくもないよねという絶妙なラインになっているのが読んでて楽しいのかなと思います。あと彼女の最後のツッコミも突いてほしいところを突いてくれる痛快さがあってよかった。

『花の女』は感情が高まると花びらを降らせてしまう女性を妻に迎えた男の話で、その感情で花がっていう設定自体はスーパーありがちというか、ツイッターとかに画像4枚とかで漫画ですみたいなやつにありそう(全く関係ないが、あの形式で設定だけみたいなやつあんまり好きではない)なんだけれども、でも時代背景であったり人物の掘り下げであったりがしっかり行われており設定負けしていないので良いなと思った。ソラと古賀の後半での出現の仕方が結構特色あると思っていて、古賀に関しては卯吉にとって不思議なつながりを感じる相手であり、同時にその死期も自然と受け入れているという心地よい距離感なんだと思うのに対し、ソラに関してはこの出方は怖いし、卯吉は普段何を考えているんだという感じがあるし、っていうかむしろ彼は千代以外の人間に全然興味ないんだろうなという想像なんかもしてしまい、それが妙に好感だったりする。短いシーンでいろいろ考えさせられてしまい、面白かった。

『深界調査記録』 もちくず倉庫

  第二十八回文学フリマ東京にて入手

「気になった現実の事件や物事を調べたノンフィクション」とのこと。四本の記事を収録。都市伝説、怪奇事件、未解決事件、邪教。もともとこちらのサークルの小説本(と無配本)が気になっていたのですが残念ながら行ったのが遅く完売されており、せっかくなので普段あまり買わないのですがノンフィクションのこちらを。

 都市伝説やネット上のウワサの伝播過程に興味があるので、実在する廃墟や現実の事件が薄められたり混ぜられたりしてネット上の都市伝説になっていく様を追いかけているレポートは(現実に人が亡くなっている事件がきっかけだったりすると、あまり楽しむものではないと思いつつ……)興味深く読みました。事件パートから都市伝説パートにいくときのぐっと位相がズレ始める感じがすごい。昔の個人サイトなんかのログがどんどん消えていくこの時代において、こういうのを調べてまとめるという地味な仕事も重要だよなぁと思います。