『バレエ・メカニック』 津原泰水

 三章構成だが事実上三編の連作小説的な趣。SFか? SFか。一章が一番好きかなぁ、終わってみれば。二章でわかりやすくなりすぎた感じがする。ただ、二章の木根原の衰弱ぶりは良かったのと、あと徹底して理沙が不在なのが良いと思った。三章はあんま納得いってない。

『百年の孤独』 Gabriel Garc´ia M´arquez 鼓直訳

 やばすぎる小説。これが南米マジックリアリズムの爆発か。ホセ・アルカディオ・ブエンディアの息子がホセ・アルカディオでその息子がホセ・アルカディオだけどややこしいからアルカディオと呼ばれていますって、ややこしいと気づいているなら名前を変えろ。ブエンディア一家の無数の物語のミザナビーム。途中でノーパンノーブラファムファタールが空を飛ぶシーンもあるぞ。長くて読むのは大変、ずっと殴られ続けて疲れたけれど、終盤が本当に圧倒的だった。これだけ無数のパーツを連打しつつ最後にはまとめ上げてくるの本当にすごい。

『TOKYO YEAR ZERO』 David Peace 酒井武志訳

 やばすぎる小説。かなり長くて重いが、結構一気に読んでしまった。面白い。

 意識の流れ系だと解説に書いてあったけどそういうジャンルでしたっけ。まあ意識の流れであることには間違いないが。ひたすら挿入される意識、反復、変奏、狂気。一応トリック的な要素があったが、まあ途中からバレてるし、わりとそっちはどうでもいいと思う。警察小説とかノワール小説的な文脈で読もうとしたらなんか違うとなるのではないか。重要なのは東京の闇(この暗黒、暗澹感はすごい)と主人公・三波のこの意識、心理、狂気でしょう。お前痒いところ掻きすぎなんだよ。ガリガリ。自称通りの人間は誰もいない……。

 

『改変歴史SFアンソロジー パイロット版』 曽根卓・伴名練(カモガワSFシリーズKコレクション)

 第二十六回文学フリマ東京にて入手。超おもしろかった。パイロット版だそうですが完成版はマストバイなのではないでしょうか。

『緑茶が阿片である世界』 曽根卓

 タイトルで出落ち。緑茶が阿片であるという世界で、緑茶について解説した本の訳者あとがきという体で綴られるテキストは、前半は純粋に改変歴史読み物として次々繰り出される小ネタに笑いながら読み、後半の転調でまた笑える。首都のとこが地味に一番じわじわ来た。この読後感は高級茶はごくごく飲めるみたいなやつですよ(高級茶飲んだことなし)。

『シンギュラリティ・ソビエト』 伴名練

 なにこれめっちゃ面白い。アメリカの宇宙開発にソビエトが対抗せず、代わりに人工知能を開発、シンギュラリティに先に到達した世界の話。ソビエトの人工知能ヴォジャノーイと、それに遅れる形で西側諸国が創った人工知能リンカーンが、人類を置き去りにして戦いを続け、人間は駒以下の存在に。シンギュラリティとディストピアとサイバーパンクと共産趣味とかなんかそのへんのものが投入された最高に楽しい小説でした。党員現実とか案内役レーニンとかワードが一々面白いし、そういった面白いものがしっかり後で回収されていくのも気持ちがいい。ともかく読んで楽しかったです。

『春よりつめたく、小春よりあたたかな/セファイドの残光』 雨下雫/小島宇良(C1講義室)

 第二十六回文学フリマ東京にて入手

 両A面仕様。バランスの良いコンビで素敵です。二本ともすごく楽しめました。

『春よりつめたく、小春よりあたたかな』は、ダメになりきれない感じの主人公が、不思議系女子といちゃつく話……なのか? 幻想描写というか、夢か現か幻かの描写は筆力を感じました。小春はかなりやばい感じがしてこのやばさを演出できているのがすごい(語彙がない感想)。「あははは! あつかった! あつかった! あついでしょう?」のところが最高に好きですね。こう、無邪気かつ妖艶みたいなのが好きなのだろうか。なんかそう言葉にしてしまうと身も蓋もないが。もっとあたためすぎてくれ。何気に横浜小説であるのもポイントだと思いました。

『セファイドの残光』は、だらけ気味の大学生が出られなくなる話、というと既視感はありましたが、田村さんが可愛かったので良かったです。おれもシーパラダイスでイルカが見たい。バナナミルクも飲みたい。この敬語女子は強すぎる。くまのキャラクターも良いですね。そしてこれも横浜小説だ。あとがきによると既刊の話と関係性があるようですが、『地下鉄東西線爆破レモン』以外は読んでいないので、機会があれば読んでみたいと思いました。

『日本列島妖怪短編集 もののけの国』 青砥十(眠る犬小屋)

 第二十六回文学フリマ東京にて入手

 ゆるふわ妖怪小説とのことで気になって手に取りました。うわぁゆるふわ妖怪小説だ。めっちゃ良かったです。

 十六都道府県について、各所のご当地妖怪が絡んだ短編小説が入っているというもので、その大半が『後輩書紀シリーズ』。不思議なものが見える物知り後輩書紀のふみちゃんと、そのお世話係で理屈屋のセンパイ会計数井くんの話。基本、天丼で安心して読める。センパイ、違います。安定感ある。好き。テイストとしては日常の謎っぽいところがあるので日常の妖怪とでも言うべきジャンルなのだろうか。妖怪シリーズとは言いつつ、妖怪ハンターみたいに妖怪目当てに山奥に来たぞみたいなそういう話にはしていないのがなんか良いなと思えました。中学生がそんな頻繁に全国旅行できないし。文フリで偶然見つけたので認識してなかったのですがこのシリーズは既刊もたくさん出ているようです。

 途中途中、シリーズ外の独立した短編が挟まりますが、それはゆるふわから打って変わってちょっと怪談っぽいものがあったりと、多彩。一冊で見たときに良いアクセントになっているように思いました。

 岩手の話が一番好きですね。表紙にもなってるし、一番優遇されている……。実際、47都道府県で妖怪力を比べた場合、岩手は遠野物語の時点で段違いに強いのに、宮沢賢治まで動員されたら勝てるわけないだろと思った。あとは大阪の新鬼劇がめっちゃ笑えたので楽しかった。骨バラバラはずるいやん。

『ねじまき少女』 Paolo Bacigalupi 田中一江 金子浩 訳

 最高のSF小説。読んでいて用語集が欲しくなるくらい分厚い設定をあんまり説明してくれないのだが、読んでいて用語集が欲しくなるくらい設定が積まれてるのすごくないか。用語集を掲載していないのが偉すぎる。これが素人だとすぐ用語集を公開するから良くない(?)。最高すぎてあまり語れる語彙が無いが、たとえばバンコクの暑苦しさみたいなのが強いとか(いや、この時代のバンコクが現在のバンコクと比べて同じくらいの暑さなのかもっと暑いのかは謎だが)、概ねアンダースンがひどい目にあう話であるところとか(主人公っぽいやつは痛めつけられるべきなんだ、やっぱり)、ジェイディーのトリックスターっぷりがすごいとか、エミコの一人称のところだいたい良すぎるとか、そんな感じです。本当に良かった。

『bnkrR vol.14 名探偵』

 第二十六回文学フリマ東京にて入手

 テーマは名探偵、ということですが、名探偵出てくる作品のほうが少なくないですかね。あと表紙の名探偵は絶対犯人だろ。9作の短編小説を収録。特に気に入った5作の感想を書かせていただきます。

「超級探偵」松永肇一

 名探偵を人工知能とロボティクスで再現したテーマパーク「超級探偵」で起きる事件の話。横浜小説だ。これはもう設定勝ちというか、設定の密度がすごいので、読者を圧倒させるだけの力がある。なんかものすごい広がるというか。起こっている事件とその解決にそんなに物語性というかミステリ的な論理は働いていない(というのが「名探偵」というテーマを与えられたにしては少数派の側だと思う)が、世界観でしっかり読後感が残っていて楽しかった。

「奇祭探偵【カッパグライ】」塚原業務

 中年男性二人が奇祭の謎に挑む話。これ名探偵関係ないですよね(名推理)。伝奇ミステリとしてしっかりしていて、奇祭のネタも面白かったし、方言がいい味出してる会話劇パート含めて好きで、楽しく読めた。こういうタイプのミステリすごい好きなんですよ! しかしこの感想を書いている時、前回のvol.13で「怪談 kwAIdan」を書いた方の作品だと知ってびっくりです。方向性めちゃくちゃ違うじゃないですか。すごいな。

「少年探偵の母」星野トレン太

 こういう短編が合同誌に癒やしを与えるのですごい良いと思います。ちゃんと笑えるし、一発ネタっぽい割によく読むと小ネタからオチまでレギュレーション遵守してる(?)。鉄コン列車ネタが好き。この一瞬考えさせてから笑わすやつなー。

「クビキリロンリ・暗黒系」石動儀式

 首のない死体が出たらそういう符丁というのを扱った小説……なんですかね? これも短編にしてはものすごい要素がてんこ盛りに詰め込まれていたと思いますが、最終的にちゃんとまとめ上げて着地しているのですごいなと思いました。骨組みはミステリなんだな。こんだけバラ撒いて回収出来るの相当なんじゃないかと。カッコいい。

「奇祭探偵【石送り】」塚原業務

 もう一作読めるんですかやったー! 河童の肉もすごかったけど、殺生石を駅伝方式で運ぶっていう状況設定自体がすでに面白すぎるんだよなぁ。伏線の張り方もミスリードの仕方も、最後なんか気が抜けたような若干暗くなって終わるところとか、すごく好みです。

『ハイヌーン』 木屋瀬梯子(段)

 第二十七回文学フリマ東京にて入手(第二十一回文学フリマ東京の新刊)。

 短編6編を収録。ジャンルは、なんだろう。謎。はしごワールドは、基本的に意味はよくわからないのだが、なんかよくわからないけれど叙情的な情景が瞬間的に現出するようなところがあって、たとえば1作目のGrimshawなんて1ページしか無いのだが、詩に近いような形でこの本をうまく読者に導入せしめてると思う。

 あとは、ずるいフレーズというか笑えてしまう言葉(パワーワードという言葉をあんまり使いたくないけど、パワーが有るワードであることは間違いないだろう)が結構あってそれが好きで、「亀というのはつまりナローバンドだが」とか「なんで光る靴なんか履いてたんだよ」とか「ホールには真っ黄色の肉塊が詰まっているので入れない」とか好き。強い。作品としては特に『輪』と『SURRRRRENDER』が好きです。

『図書室には誰もいない』 白樺あじと(シーラカンス・バカンス)

 第二十六回文学フリマ東京にて入手

 ビター寄りの良質なミステリ短編が3本収録。

『古本屋に眠る』は古本屋に現れた旧友に関する話。トリックは順当ながら、主人公の鬱屈した心情などの表現が優れているのが良かったように思います。

『マンガを詰める日』はそのまま、マンガを詰める話。自分はマンガあまり読まないので、マンガ語りパートに乗り切れなかったのでちょっとそれが残念かなと。別にこの小説の瑕疵じゃないと思うけど、マンガパートに乗れなかったら成立しない作品ではある気がするので。

『図書室には誰もいない』が表題作で分量的にもこの作品が半分以上を占めており、これが一番好きです。なんだかんだこういう探偵ごっこをしてしまうミステリ研みたいなのに弱いんだよな。図書室の書架の一段分が盗まれるというのも導入として良いし、解決までの構造もしっかりしている。あとキャラが立ってる。俺は西村さんが他に制服のポケットに何を持ち歩いているのか気になるんだ。最後の最後の落ちはかなり突き放し気味で、えってなったけど、少し考えるとちょっと苦い系のこの作品集には合っている終わり方のように思えてきました。というわけで良かったです。