『悪霊』 ドストエフスキー

上下巻それぞれ700ページ近い。長かった。岩波文庫のくせに700円もするんですからね! いや、買ってないですけれど。図書館活用してます。

物語の内容以前にまず一番印象深かったのは、語り手の半透明性です。一応語り手(新聞記者らしいですね)が存在して、一人称部分で語られるところとか、事件に直接関与するところがあったりします。一方、三人称視点で、神の視点のごとく語る部分もあったり、うーんわけわからん。「私は必死にスチェパン氏の元に走った」とか「私はピョートルに殴りかからん勢いで……」みたいな、明らかに語り手の存在感が強調される文章がある一方で、「スタヴローギンはそのまま数時間のあいだ、一人で想念に沈んでいた」みたいな、どう考えても神の視点な文章もある。(ここに書いたのはうろ覚えによる引用です)
ともかく、そのとらんするーせんとな語り手が印象的でした。

話の内容もまた壮大で、各人物の動かし方にドストエフスキー的なうまさがあって、面白かったです。ただ、無駄に殺しすぎかなぁってのと、若干構成の緻密さが劣るという点で、『罪と罰』『カラマーゾフの兄弟』には、自分の中で及びませんでした。

『白夜』 ドストエフスキー

これはすごい。うまい。さすがドストエフスキー。
序盤の主人公の妄想語りでまずずっぱ抜かれる。ドストエフスキー的な幻想描写というかなんというか、うまい。こいつの性格もまさにドストエフスキーが得意としてそうな感じ。「夢想家」のカテゴリか。「余計者」のカテゴリも好きだけど。やっぱり僕のドストエフスキーの好きな要素は幻想です。

そしてヒロインが「ピンでつながれる」という発想。

序盤から中盤にかけてがすごく気に入りました。そして終盤の破壊。やっぱりこう、ぐ、ぐ、ぐ、と積み上がったものをぶっ壊すのが気持ちいいんですよね。それはハッピーエンドではないのかもしれないけれど。フョードルさんこういうのも書いてたんすね。

『カラマーゾフの兄弟』 ドストエフスキー

長かったですが、ついに。
長かったと言っても読むのにかかっていた時間が長かっただけで、内容の感じでは長いという感じは全然しなかったですし、むしろこれだけのものならまだまだ読めるぞ、という気がします。

やっぱりこの小説はすごいですね……。相変わらず、登場人物一人一人の持っている思想や世界が濃いです。そして、彼ら一人一人の中の心の側面一つ一つが見 えてくる。人間が絶対持っている矛盾とか葛藤みたいな物が何度も何度も描かれてますし、ドストエフスキーが人生かけてるのがよくわかります。
罪 と罰を読んだ時も思いましたけど、含んでいるテーマの量もとても多いです。明確な一つのテーマに絞って書かれた小説は、分かりやすいとは思いますが、明確 な一つのテーマに絞って人生を生きる事が出来ない以上、しょせん小説なんだと思います。でもカラマーゾフは、神や教会の問題から、信仰、生死、国家、貧 困、恋愛、そしてもちろん親子、兄弟等、テーマを含みすぎてて大変な事になっています。
さらには、さんざん言われている事ですが、ものすごく鋭い部分が多分にあって(『大審問官』しかり)、書かれてから100年以上たっているとは思えません。まさに『現代の予言書』。

あとがきを読むまで、この作品が(本来は)未完の作品であるという事は知らなかったです。第二部を読みたい気持ちもありますが、確かにこれはもう「およそ続編というようなものがまったく考えられぬほど完璧な作品」ですし、これで良いのかもしれません。

思想的にはイワンが、キャラクター的にはアリョーシャが好きです。キャラ的にはリーザも良かったんですがあんまり登場しなかったのであれ。

何回も読み返したいです。「世界文学の傑作の一つ」に同意。

『罪と罰』 ドストエフスキー

いやあ、この小説、ヤバいですね。二回目の通読でしたが、相当なものがぶつかってきます。後半なんて、読んでいると本当に、ラスコーリニコフと一緒に熱病におかされているみたいになってくるのです。

すごい小説になればなるほど、ここに書く事が浮かばなくなります。でもがんばって書こうと思います

月並みな事ですが、この小説は全体でひとつの世界を作っているし、そしてその中の登場人物たちが全員彼らの世界を作っている、と、そういう風に感じます。
今更言うまでもなく、登場人物が本当に魅力的です。ラスコーリニコフにはもちろん彼の世界があり(彼の世界がこの小説で中心に描かれているわけですが)、 ソーニャには彼女の世界があり、ドゥーネチカもラズミーヒンもスヴィドリガイロフもポルフィーリイもカテリーナ・イワーノヴナもピョートル・ペトローヴィ チも……彼らの世界をもっています。そしてその世界ひとつひとつが、もうなんというか、読ませる読ませる。引き込みます。
そして思想です。彼らは世界を持ち、そして思想をもっている。

あともうひとつ、この作品をロシア語で読めないのが非常に悔やまれます。僕が読んだのは「罪と罰 ドストエフスキー作 工藤精一郎訳」であって、「Федор Михайлович Достоевский. Преступление и наказание」ではない、というか……。
つまり、文学にしろなんにしろ、元々の言語とか文化から切り離してしまったらもはやその芸術性は変質してしまう、という考え方からだ、と言ってしまうと単 純ですが……まあでも、そういう事ですね。やっぱり原語でなければその作品の本当の世界は感じ取れないでしょうし。(この作品が口述筆記で書かれたらしい 事を考えたとしても)

まだあと何回でも読みたい小説です。今まで衝撃的だった小説ランキング世界編、暫定一位です。