『老ヴォールの惑星』 小川一水

 とても良かった。

 SF小説。ハードSFっぽい空気にしつつ人間を描くタイプ。四編どれも、途方もなさによる極限状態のつらさみたいなのが描写され、息苦しいんだけれど、必ず結末は明るいのが希望を感じさせてくれて(きっとそれはポリシー的なものなんだろうと思う)、読後感が良いのが素晴らしい。安易に暗い感じにならないというのは結構な信念を必要とすると思う。全部好きだけど、選ぶなら「漂った男」が一番かな。

『プランク・ダイヴ』 Greg Egan 山岸真 訳

 ハードだった。別に面白くないということはないが、やっぱりちょっと自分にはSFすぎるかなという感じがする。『暗黒整数』のエモさは良かった。『プランク・ダイヴ』の自由だってなるとこも好き。他の作品はだいたい、そこで終わるんかいって思ってしまいがち。

『ひとりっ子』 Greg Egan 山岸真 訳

 イーガンの履修が不足していたので。

 非常にSFだなと思った。なんというか、技術的理論的なアイデアがあって、それをひたすら核として話を書いている。SFと言いながら中心となるSF要素を魔法に差し替えても成立してしまうタイプのファンタジーに近接したSFみたいなのを読むことが多いので(というか自分はそういうのが結構好きなので)、こういうともかくSFですみたいなのを読むとSFだなと思う(?)。

『ルミナス』『オラクル』『ひとりっ子』の三作が面白かった。『ルミナス』は演出が良かった。中国なのも良い。『オラクル』『ひとりっ子』は美少女AIなので。美少女AIか?

『逆行の夏 ジョン・ヴァーリイ傑作集』 John H. Varley

 傑作集だった。巻頭の「逆行の夏」は、なんか翻訳が微妙に感じるところがあったりして詰まり(古かったせいかな?)、まあ、うん、と思いながら読んで、「さようなら、ロビンソン・クルーソー」も、なるほど、という感じだったのだが、「バービーはなぜ殺される」がめちゃめちゃ好きで、以降全部好きだった。「バービーはなぜ殺される」みたいな、SFなんだけど宗教みたいなのが混入してきてるのすごい好きなんだ。まあこれは設定と中盤が良くて、最後はちょっともうちょっとこうとは思ったところがあったが、次の「残像」は最後まで凄まじい。このラストが書けるのはすごすぎるでしょ。ほんまに。「ブルー・シャンペン」はエモくあるべくしてエモいので良かった。そして最後の「PRESS ENTER ■」が非常に良かった。若干古臭いところはあるが、得体のしれなさがすごい。結局この作品だけ他とジャンルが違う気がするんだけど、なんだかんだ一番好き。読んだ後に残る。

『バレエ・メカニック』 津原泰水

 三章構成だが事実上三編の連作小説的な趣。SFか? SFか。一章が一番好きかなぁ、終わってみれば。二章でわかりやすくなりすぎた感じがする。ただ、二章の木根原の衰弱ぶりは良かったのと、あと徹底して理沙が不在なのが良いと思った。三章はあんま納得いってない。

『ねじまき少女』 Paolo Bacigalupi 田中一江 金子浩 訳

 最高のSF小説。読んでいて用語集が欲しくなるくらい分厚い設定をあんまり説明してくれないのだが、読んでいて用語集が欲しくなるくらい設定が積まれてるのすごくないか。用語集を掲載していないのが偉すぎる。これが素人だとすぐ用語集を公開するから良くない(?)。最高すぎてあまり語れる語彙が無いが、たとえばバンコクの暑苦しさみたいなのが強いとか(いや、この時代のバンコクが現在のバンコクと比べて同じくらいの暑さなのかもっと暑いのかは謎だが)、概ねアンダースンがひどい目にあう話であるところとか(主人公っぽいやつは痛めつけられるべきなんだ、やっぱり)、ジェイディーのトリックスターっぷりがすごいとか、エミコの一人称のところだいたい良すぎるとか、そんな感じです。本当に良かった。

『リライト』 法条遥

 買ったはいいが、その後で「後味が悪いクソ小説」みたいな感想を見てしまい、ならなんか読む気が起きんなとしばらく積んでいたが、読んでみたところ、たしかに後味が悪いクソ小説だったが面白かったので読んでよかった。まず表紙に書いといたほうが良いと思うけど(読み終わってから表紙を見ると可愛い)、前提教養として時をかける少女原作は一応読んだことありが推奨されると思う。

 間違いなく後味が悪いクソ小説なんだけど、パワーがあるので作品として成立していて楽しめた。「タイムリープものをやるとタイムパラドックス厨が湧いてくるから対策どうしよう……そうだ! タイムパラドックスで殴ればいい」というソリューションだった。タイムパラドックスをエモさで殴ることで乗り越えていくという、近年の社会が求める作品とは完全にかけ離れたレンガスタイルで、良かった。なんか続編があるらしいが、続編いらないんでしょという読後感。

『My Humanity』 長谷敏司

 あまり落ち着いて読めない感じの作品。そういう意味での技術的成功がなされていると思うけれども同じ理由によりもう一回読みたいかといったときにうーんとなってしまうのは仕方がないと思う。SFを使って人間をばらしていくのだから正しいSFなのだなと思った。好き嫌いが整理されていないので読んで快楽が来ないと好きな小説にならない。作風的には時間差で名作感が出て来るような予感もしつつ、読後の感覚としてはきびしい。

『時砂の王』 小川一水

 王道っぽいSF。海外モノのような硬派な語りでありながら、メインの舞台は邪馬台国、ヒロインが卑弥呼というジャパニメーションっぽい雰囲気が楽しめた。ただ読後感としては物足りないというか、収まるべきところに収まったというところで終わってしまっている感じがした。

『あなたのための物語』 長谷敏司

 非常にボリュームがあった。アクションとか急転直下とかどんでん返しとかそういうのがない重厚なSFをしっかり書ききっている。この小説自体が平板、フラット、というか、派手な展開がなさすぎて、実家に帰るシーンとかだいぶ死にたくなる。うまく感想を言えないタイプの小説。SFの設定を借りているが中身は人間と死の話。(少なくともまだ)世界は変わらない。