『ブルー・エコー 総集編1』 葵あお

 第三十三回文学フリマ東京にて入手。その前年に読んだ『月鯨の夜』が面白かったので。

 ライトノベル調のSFというかファンタジーというかの連作短編。総集編ということで490ページの分厚さながら(なかなかの圧がある)、読みやすく、内容にも引き込まれてあっという間に読んでしまいました。なんというか、安心して読み進められる感覚があってとても良いです。キャラクターが魅力的で、またその魅力が引き出される話の構成になっている……。ディアがかわいいので幸せになって欲しい。デート回よすぎる。あと行天の当機呼びめちゃくちゃ好き。続きも楽しみです。

『Sci-Fire 2021』

 第三十三回文学フリマ東京にて入手。ゲンロン大森望SF創作講座修了生がつくるSF文芸誌で、今号のテーマはアルコール。

 とても良いと思った小説が三作あったので感想を書きます。核心には触れないようにしますがネタバレがあります。

『進化し損ねた猿たち』高木ケイ

 太平洋戦争中のボルネオで、衰弱した白人の俘囚を連行する日本兵が、彼自身もマラリアと飢えに苦しみながら二人きり歩き続ける中、猿の巣の木のうろに溜まった酒を見つける話。作中で厳密にはどの戦争かという明記は無かったと思いますが、描写の内容から太平洋戦争末期と自分は読みました。サンダカン死の行進を連想させる。

 これが冒頭作だったのでいきなり頭をぶち抜かれてしまいました。極限状態の描写の凄みにただただ引き込まれる。からの、「虫だった。」のシーンの牽引力すごすぎ。アイデアは、アルコールというテーマのSF的な切り取り方として王道を行ってると思った。その上で、それをワンアイデアに終わらせない、このボルネオの極限状況、また日本兵と俘囚の関係という題材の取り方、そこから最後の一文に出てくる単語二文字、タイトルの意味、と繋がる構成のすごさ。そこに加えてそれを現出させる淡々とした語りの描写力、と、一読者として欲しいものが満載されていてとても好み。すごい小説だと思った。本誌で一番好きでした。

『恋愛レボリューション12』今野明広

 あらすじの説明がいまいち書きようがないんだけれど、十二歳の少年が、十三歳の女の子と二人で日課の犬の散歩をしていたら、(ここから自分の解釈)その土地の構造上そこに引き寄せられがちな魔に行き逢ってしまい、女の子のお母さんが飲酒しながら魔を討つのに少年も協力する……え?

 どこまで作意なのかわからないけど、ナンセンス的な笑いの向こうに青春があるみたいな読み取りをした。ギャグ(でいいんだよな)が笑える。BY THE WAYのTシャツとか。ただその中に差し込まれる挿話(誰にも言えなかった大切なえっちな秘密の話)がなんか良いんですよね。なんか。このナンセンスな流れの中でされる打ち明け話、どう受け取って良いかわからない、でもそこに真実がありそう、みたいな。自分でも何を言っているのかわからなくなってきました。あと途中で作者名に気づいてめちゃめちゃ面白くなってしまったんですけど、これズルくないですか。最後は思わず続いてんじゃねーよと声出た。良い小説だった。

『掌の怨念』稲田一声

 大昔に「ばけものくじら」の体内に飲まれた村に暮らし、体外に出ることを目指す「ニロ」の話と、ルームメイトから「アルコール消毒で手の常在菌を殺していたことを知って、菌の怨念が怖い」という他愛ないメッセージを受け取った「冬子」の話。

 これはアイデアで頭一つ出ているというか、飲む酒ではなくて消毒用アルコールというお題の捻り方(いやらしくない程度に時事ネタになっているというこの案配がめちゃめちゃ良いと思いました)、からの常在菌、共生関係、『自分』や『生命』の範囲……とかなり手堅いSFの問題設定で、でも話の構成としては「ニロ」の話と「冬子」の話がうまく噛み合っている(というか、噛み合っていない。安易な類比や対比の構図ではない)のが高度だと思った。あと、これは作家読みになってしまいますが、稲田さんの小説に登場するパートナーへの視線というか関係性というかそういうのが好きなのですが、「冬子」パートの二人の書き方がやっぱりよかったです。この短編の限られた字数、簡潔な言葉、しかも基本メッセージのやりとりで回想とかも挟まないのにしっかり二人の性格と関係性が伝わる。それで最後帰宅シーンで冬子”さん”呼びが提示されてその解像度にぶち抜かれてしまったな……。そういう描写と、大戸屋、今池、金山、イオンなど固有名詞の質感が合わさって、「ニロ」パートとの手触りの違いの楽しさにも繋がっていると思いました。良い小説だった。

『妖ハローワーク』 和泉好香

 第三十三回文学フリマ東京にて入手。妖とか好きだから……。

 遠野を舞台に、妖に仕事を紹介する『妖ハローワーク』で働くことになった主人公の話。王道っぽいファンタジーだった。狐の関所、実在モデルですね。実は遠野に行ったことがないので行ってみたいんだよな……。短めのほんわか温かい話ながら、主人公と蔵ぼっこの境遇の重ね合わせなどしっかり構成してあってよかった。

『5G』やんぐはうす

 第三十三回文学フリマ東京にて入手BOOTH通販もある。

 ゲンロン大森望SF創作講座第五期生の有志による合同誌。分厚い。大森望先生の「年刊傑作選に入れたい!と思う短篇が2篇ありました。」っていうコメントがなんか面白い。どの2篇なんだ。

 私は良かったなと思う短編が3篇ありましたので以下感想を書きます。ネタバレも含まれます。

『焚き銭』岸辺路久

 冒頭からの情報の出し方のコントロールが上手いと思った。死者のエモい感じと、欲にまみれた俗い感じを良い案配でミックスしてるのが巧みで心地よい。記憶の仕組みが最低限の字数で説明されてるけど、冒頭の(記憶復活前と思われる)龍三の感情の動きもそれ自体は嘘じゃないと解釈できるところがものすごく好み。4のあたりではこいつはいけそうだとかいって心中ニヤついてるわけでしょ(この語りの焦点の移動、巧みだ……)。したたかな、人間味のある悪党っていう感じがものすごく出ている。4の綺麗な感じの最後から5に繋がる流れの作り方が上手いし、短編の中でキャラをしっかり作ったからこそ結末も納得感がある。

『闇の中』新川帆立

 婚活藪の中……。これもまず序盤の情報の出し方がものすごく上手いと思った。筋立てて説明したら数行でまとまってしまう状況設定を説明せずにシーンで書いていって引き込んでくる。その設定自体も非日常と現実感の良いバランスのところを突いていて、主人公の不安が読者にも伝わりやすいと思った。藪の中方式で新しい情報が得られればその分これまで聞いたことがどんどん疑わしくなってくる構成も見事で、主人公が四番を選ぶことへの説得力がある。耳の設定もめちゃめちゃ上手いですよね(この設定の作り方はミステリ的な技術だと思った)。そこから意外な真実ですべての説明がつき……ついた? ついてない? という終わり方もある意味期待通りで、そういうのが欲しかったんだよと嬉しくなってしまう結末で好みでした。

『みそかあめのよ』河野咲子

 これは上に挙げた良かったと思う2篇とは違う方向性で、理屈でここがこうだから良いというのが自分では説明しづらいです。アピール文にあるとおり、詩のような雨、雨のような詩についてで、描写がきれい。響きや温度など身体性を感じる描写に強さがある。短めの話なのにキャラクターとその関係がくっきり浮かんでくる。とても素敵な作品で良かったです。

『異界觀相』 造鳩會

 第三十三回文学フリマ東京にて入手BOOTH通販もあるTwitterのこのリプライツリーに各作品の冒頭サンプルと紹介文がある。

 表紙や組版のデザインかっこいいですね。参加されている方のことは特に知りませんでしたがかっこよかったので購入して読みました。面白かった。おすすめです。小説の他にも詩や論考や日記(こわかった)も収録されています。小説について個別に感想を書きます。

『子午線の結び目』伊東黒雲

 いきなり強い! どういう話だったのかの説明が難しい。目玉が……いや、説明できねえ。理屈はあまり通っていない小説だけれど、イメージが強烈だった。

『白瀬矗の講演』柊正午

 白瀬矗の講演の体を取っているという導入がめちゃくちゃ興味を引かれた。白瀬矗の自伝は読んだことがあって、結構前なのであんまり覚えてないんだけど、でもなんか雰囲気がそれっぽくて引き込まれる。講演で借金返してたというエピソードもあったし。しかしおそらくメイン創作部分であろう隕石(?)が結局どうなったのかわからなかったのはちょっともやもや。

『ときめく夢だけ捨てました』灰谷魚

 漫画家志望の後輩と事故物件でルームシェアを始める話。本書収録作のなかで一番好き。めちゃくちゃ面白かった。ギャグ多めな序盤げらげら笑いながら読み(ゴミだめのところ一番好き)、ホラー要素を予感はさせつつも青春な中盤どんどん引き込まれていって(Twitterまわりのリアル感すごい。あとはやはり創作の苦しさみたいな話題が好きなので)、悪霊の下りから終盤、そうきたか、そう嵌まるのかと得心しながら読んで、最後の最後に綺麗に一発食らわされた。そのひっくり返し方はズルいじゃん! 東京オリンピックとかコロナとかコンテンポラリーな感じの描写も良い味だよなと思っていたらこう活用してくるのは本当にやられた。すごく良い小説でした。

『托卵』藤井佯

 突然現れる謎の女、自宅の町名が実は存在しない、無人の隣部屋、と導入・設定のテイストが完全に好みだし、サイゼリヤのシーンあたりからリアリティの揺らぎや特殊組版を活用した中盤の演出がかなり好きだった。終盤というか結び方は自分の好みとはちょっと方向性が違った。でもクオリティ高いと思ったし、テイスト的にも枚数的にもこの本を代表する一作としてバチッときまってるなと思った。

『幽霊屋敷小説集』 アーカイブ騎士団

 第三十三回文学フリマ東京にて入手。第三十一回文学フリマで出たパイロット版の完成版。

 幽霊屋敷という、なかなかなさそうなテーマを選んだアンソロジー。しかも文フリのSF島。独自性の強いテーマから、順当にweirdな話が多かった印象。面白かった。

『ねじれた家』高田敦史

 パイロット版でも異彩という感じでしたが、やはり奇妙で良い。説明がつかなさすぎるのが良い。一瞬時間SFに行きかけて、解ききれなくて終わる、このもやもや感!(良い意味で) 自分はパイロット版を読んでからこの完成版を読むまでの間に全然関係ない経緯でサザーン・リーチを読んだんだけど、この哲学者とか物理学者とか呼びはあれの系譜なのだろうか。

『マットの下』渡辺公暁

 海洋SFミステリ。どこが幽霊屋敷なんだよでも面白いと思って読み進めるといつの間にか幽霊屋敷になっている。密室消失トリックはいかにもミステリ感あるんだけど引っ張らず、SF、からの怪異要素、からのやっぱりSF、からの一気に未来で、ジャンル横断の振れ幅と広がりが楽しい短編。

『壁に立つ』森川真

「主人公がヤクザのシノギでアパート建て替えのための住民追い出しをすべく曜日交代制で夜に部屋にいって大音量で音楽を鳴らしまくる」っていう状況の導入設定が良すぎて面白い。癖のあるキャラクター、通ってるのか通ってないのか際どい理路、最後にこのちょっとだけふわっとした不思議感を残すのとか、後味の悪さ、いいなー。パイロット版に載ってた方の話も是非読みたい!

『ゲーミングハウスの怪』高田敦史

 怪談クオリティが高く、構成に合わせた怪異談の詰め込み、挿話の重ね方のテクニックにすばらしく安定感があって読んでいて嬉しい。欲を言えばゲーミング要素の重ねももっとやって欲しかった感じはある(ベイトは近いけど違う?)(でも途中でゲーム再度はじまるとことか集中力のところとかは伝統的な怪異要素の解釈の仕方がすごく良いと思った)。ゲームプロについて全然知らなかったので最初ゲーミングハウスという概念自体が創作なのかと思って、光るのかなと思って読んでた。別にそういうわけじゃなかった。

『幽霊屋敷の救出』渡辺公暁

 ここまで怪異の場であり舞台であった幽霊屋敷が最後に急にかわいい存在になる。これが最後に配置してあるの良いですね。

『星めぐり常世草子 巻の一 星降ろしの巻』 遥かの都 彼方の国

 第三十三回文学フリマ東京にて入手。なお、本作の補助的な資料集として『短篇集 挿文綴 第一集』もありそちらも読んだ。

 上記のツイートに添付されている画像の通りなのですが、ともかくデザインが良い。表紙もすごいし、挿絵というか途中に入ってくるやつもそうだし、そもそも宣伝画像とかサイトの作りとか一々全部すごいんですよ。これ全部描いてるんですか……。小説の内容も断片が上手く噛み合う感じというか、特に本編に対して『短篇集』が情報を補完してくる感じがすごく良くて(とかげの設定がすごく好き)、世界観作りが良いなぁと感じました。全三巻予定とのことですが、一巻部分はほどよく物事がまとまりつつまだまだ先が気になるところで終わり。早く続きを読みたいです!

『圏外通信 2021 裏』反-重力連盟

 第三十三回文学フリマ東京にて入手BOOTH通販も現在予約受付中のようです。

 テカテカの方。今回も表紙が良いですね。

巨大健造『窓の時代』

 意味はよくわからないが、かっこいい!

庭幸千『老い縋る未来』

 引き込まれる設定と構成で良かった。なんかいきなり難しい話し始めるところでなぜか面白かった。でもこれプロローグというか第一章というかだと思ったので、続きが読みたいと思った。長編に出来ると思う。

xcloche『車輪の発明の困難性について』

 車輪の再発明(という言葉が直接参照されているわけではないけど)から尤もらしい説明を展開してSF風呂敷が図解で広がりいつのまにか異世界へ連れて行かれる技が見事。(BOOTH販売ページからコピペしたけど、本誌上のタイトルは『原始創造性喪失:車輪の発明の困難性について』。原始創造性喪失というワード、かっこいい)

脊戸融『黎明』

 良い、画になる設定だと思った。これももっと続きが読みたいなと思った。まあタイトルの通りであり、始まりを書いているというのは作意だとは思うのですが。

赤草露瀬『ペコとかまどのオカルトごはん! スカイフィッシュ・タコスと釜揚げスカイフィッシュ』

 もうタイトルが面白いでしょ。概ねタイトル通りの話。でもメシ漫画的なやつだけで終わらないのが良かった(もう俺の知ってるスカイフィッシュじゃねえ!)

巨大健造『(表題は古代の慣習に基づき本分末尾に記す)』

 本誌目次においてはタイトルは空欄になっているが、BOOTHの表記に習います。

 これが面白すぎた。本書で一番好き。強すぎるよ。リアリティラインのぶん回しで翻弄される中で言葉遣いが面白く、天丼的なセンスの好みさも相まってめちゃめちゃ面白く読んだ。体型に見合わぬスプリントの下りが一番好き。騎士手帳も。マジックの話だと思った。すごく良かったです。

『ゆる密室□』ソルト佐藤

 第三十三回文学フリマ東京にて入手。現在はBOOTHにて通販もされているとのこと。

 タイトルロゴで出オチがすごいんだけど(ロゴ作ってくるの笑う)、いきなり死体が出てきて事件は別にゆるくない、あくまで密室がゆるいという謎趣向の短編。ペグ衝撃で刺さるのとこ笑った。トリックは多分なんかミステリの分類学においてはあるやつだと思うけど、表紙でこの一覧を掲げてから始めるところとか、ロジックがなんかものすごい跳躍している(よくわからなかったけど)ところとかに独自性が光っていた。あとあらすじ文を読んでこれゆるキャン△じゃなくてあれかなと思ってたらやっぱりあれだった。一番言いたかったことに同意。

『流されないように』 白樺あじと

 第三十三回文学フリマ東京にて入手。第二十九回文学フリマ東京にて頒布されていた『第一話』に書き下ろしの第二話を加えた作品。

 上記第一話を読んだときの感想にも好きなやつと書いてあったんだけど、やっぱり好きなやつ。謎解きのレイヤに地域史の挿話が重なってくる作り、好き。第一話から置いてあった伏線ちゃんと回収するの好き。また、第一話でもそうだった、謎は解けたが心は晴れない感じをしっかり繰り返してテーマとして打ち出してきたのも好き。今回はあとがきが収録されておりそのあたりに主眼があることも解説してあって良かった。『愚者のエンドロール』と『犬はどこだ』は読んだけど、他は全然読んでないので読んでいきたいと思った。