『おれに関する噂』 筒井康隆

やられました。
一番最初に、「蝶」という短編小説が入っていて、これは文庫本見開き一ベージに収まるくらいの短いショートショートで、多分 1500字もない作品なんですが、これがやばい。ちょっと衝撃的でした。正直、筒井康隆がこんなの書く人だと思ってませんでした。1000とか2000く らいの文字数で小説をかこうとした時の、一つの目指す方向としてこの作品は際立ってるなぁと思いました。何言ってるのか分かんないですね。でもともかく衝 撃が大きかったです。それだけで星5つにしてしまおう。こんな事だから星付けが甘いんですかね。

後の作品は、まあ面白かったんですが、やっぱり「蝶」の衝撃がでか過ぎてかすんでしまっていました。強いてあげるなら「だばだば杉」と「通いの軍隊」が面白かったです。でもこれくらいの長さになってくると、中盤で十分面白いがためにオチが弱く感じられてしまいますね。

『カラマーゾフの兄弟』 ドストエフスキー

長かったですが、ついに。
長かったと言っても読むのにかかっていた時間が長かっただけで、内容の感じでは長いという感じは全然しなかったですし、むしろこれだけのものならまだまだ読めるぞ、という気がします。

やっぱりこの小説はすごいですね……。相変わらず、登場人物一人一人の持っている思想や世界が濃いです。そして、彼ら一人一人の中の心の側面一つ一つが見 えてくる。人間が絶対持っている矛盾とか葛藤みたいな物が何度も何度も描かれてますし、ドストエフスキーが人生かけてるのがよくわかります。
罪 と罰を読んだ時も思いましたけど、含んでいるテーマの量もとても多いです。明確な一つのテーマに絞って書かれた小説は、分かりやすいとは思いますが、明確 な一つのテーマに絞って人生を生きる事が出来ない以上、しょせん小説なんだと思います。でもカラマーゾフは、神や教会の問題から、信仰、生死、国家、貧 困、恋愛、そしてもちろん親子、兄弟等、テーマを含みすぎてて大変な事になっています。
さらには、さんざん言われている事ですが、ものすごく鋭い部分が多分にあって(『大審問官』しかり)、書かれてから100年以上たっているとは思えません。まさに『現代の予言書』。

あとがきを読むまで、この作品が(本来は)未完の作品であるという事は知らなかったです。第二部を読みたい気持ちもありますが、確かにこれはもう「およそ続編というようなものがまったく考えられぬほど完璧な作品」ですし、これで良いのかもしれません。

思想的にはイワンが、キャラクター的にはアリョーシャが好きです。キャラ的にはリーザも良かったんですがあんまり登場しなかったのであれ。

何回も読み返したいです。「世界文学の傑作の一つ」に同意。

『罪と罰』 ドストエフスキー

いやあ、この小説、ヤバいですね。二回目の通読でしたが、相当なものがぶつかってきます。後半なんて、読んでいると本当に、ラスコーリニコフと一緒に熱病におかされているみたいになってくるのです。

すごい小説になればなるほど、ここに書く事が浮かばなくなります。でもがんばって書こうと思います

月並みな事ですが、この小説は全体でひとつの世界を作っているし、そしてその中の登場人物たちが全員彼らの世界を作っている、と、そういう風に感じます。
今更言うまでもなく、登場人物が本当に魅力的です。ラスコーリニコフにはもちろん彼の世界があり(彼の世界がこの小説で中心に描かれているわけですが)、 ソーニャには彼女の世界があり、ドゥーネチカもラズミーヒンもスヴィドリガイロフもポルフィーリイもカテリーナ・イワーノヴナもピョートル・ペトローヴィ チも……彼らの世界をもっています。そしてその世界ひとつひとつが、もうなんというか、読ませる読ませる。引き込みます。
そして思想です。彼らは世界を持ち、そして思想をもっている。

あともうひとつ、この作品をロシア語で読めないのが非常に悔やまれます。僕が読んだのは「罪と罰 ドストエフスキー作 工藤精一郎訳」であって、「Федор Михайлович Достоевский. Преступление и наказание」ではない、というか……。
つまり、文学にしろなんにしろ、元々の言語とか文化から切り離してしまったらもはやその芸術性は変質してしまう、という考え方からだ、と言ってしまうと単 純ですが……まあでも、そういう事ですね。やっぱり原語でなければその作品の本当の世界は感じ取れないでしょうし。(この作品が口述筆記で書かれたらしい 事を考えたとしても)

まだあと何回でも読みたい小説です。今まで衝撃的だった小説ランキング世界編、暫定一位です。

『ねじまき鳥クロニクル』 村上春樹

再読です。
前に一度図書館で読んでおもしろかったのでいずれもう一度読みたいと思ってたんです。

前回読んだときは長過ぎて構成の破綻感がちょっとしましたが、一応全部の筋を知っている状態でもう一度読むと、よくできた話だなという感じです。
村上春樹さんの他の小説と比べて、この小説では主人公が明確な戦うという強い目的意識(「戦って、クミコを僕の手で取り戻す」)を持っているのが印象的で す。その分感情移入度は強くなっている感が。特に終盤、主人公が井戸の壁を抜けてからのシーンはもうドキドキしますね。

あとはまあ、笠原メイの存在がうまいです。アクセント的にいい味出してます。