笹NOTY2021

 今年読んで一番面白かった小説(長編小説)についてです。あくまで今年読んだ、であり、今年発行されたものではありません。

 なお、2020年は高田大介『まほり』、2019年は高田大介『図書館の魔女』となっています。

 去年、一昨年はこの時期に数作をノミネートしてNOTYを大晦日に発表してきましたので今年もそれで。しかし、今年を振り返るとなんかそもそも読んだ冊数が少ないしそのなかで長編はさらに少なく、ノミネート段階で悩む要素があまりなかったのがちょっと寂しかったです。残り年末までの期間は文フリで買った本の消化を予定していてそれらは概ね短篇集、ということでダークホースがかっさらっていくという展開もなさそうです。来年はもっと読むぞ。

 ということでノミネート作は。

『わたしの名は赤』オルハン・パムク 宮下遼 訳

 1591年のイスタンブールを舞台に、細密画師が殺された事件を巡る物語。歴史ミステリと紹介してあることがあるけど、自分としてはなんか違う気がする。少なくとも現代のエンタメ小説としてのミステリみたいなものではない。他の細密画師の三人のうちの誰かが犯人である、けどそれが誰かはわからない、という状態で物語が進行していくので、広義のミステリの要素はあるんでしょうけど、別にフーダニットが主題では全くない。ただ歴史とか雰囲気は濃密なものがあり、これに惚れ込んでイスタンブールに飛んでしまう人がいるというのはわかる気がする。

 当時の感想はここ

 読むの重かった記憶がありますが、西洋と東洋(というか、キリスト教とイスラム教?)の相克から、挿話のボリューム、小説自体が細密画になる(!)構造、急に絵になったり語り手が死体になり犬になり金貨になり赤になり、と読者を振り回してくるので飽きさせない。ボリュームに見合うだけのスケールのエンターテイメントがある。ゆっくり味わって読むと良い作品。

《サザーン・リーチ》三部作 ジェフ・ヴァンダミア 酒井昭伸 訳

 謎の領域〈エリアX〉に対し監視機構〈サザーン・リーチ〉から送り込まれた第12次調査隊。構成員は名前を名乗ることを禁止され、互いのことを心理学者、生物学者、人類学者、測量技師と呼ぶ。彼女らは〈エリアX〉侵入時のストレスを避けるため隊員は強力な催眠暗示を受けている。〈エリアX〉に遺された手つかずの大自然と奇妙な生物たち。そこで調査隊は資料に残されていない謎の構造物〈塔〉を発見する。というのが第一部『絶滅領域』の導入。

 当時の感想はここ

 当時の感想で何が良いのか全然語りきれていないが、時間をおいたら語れるようになったかというと、うーん、あまりなっていない。上記のあらすじも全然紹介できている感じがない。読んでもらった方がいい小説。派手なアクションよりも不穏さ、奇妙さ、大自然の力強くて精密な描写、濃密な人間の感情とじっくりと侵蝕してくる狂気。『監視機構』でコントロールが意気揚々颯爽登場してボコボコにされてくところとか、『世界受容』でのゴーストバードとの関係性とか、今思い出してもすごく良い。

『蒼氓』 石川達三

『蒼氓』はもとは中編小説ですが、『南海航路』『声無き民』を加えた三部作の長編ということで。昭和初期、ブラジル移民が神戸移民収容所から出発するまでの八日間を描いた『蒼氓』、移民船の航海を描いた『南海航路』、ブラジルで彼らが働き始める『声無き民』の三部構成。

 当時の感想はここ

『蒼氓』のラストの強さとか、『南海航路』の広がりが好きですね。群像劇的な描かれ方のなかでやがて収斂していく感じ。作者の問題意識や信念がそこにずっしり練り込まれている。小水の小物感。

 せっかくなのでノミネートまでは至らなかったけど面白かった長編と、レギュレーションから選考対象外だけど面白かった短編、小説以外の創作物についてもメモ。


結果発表

笹NOTY2020ノミネート作品

 2020年に読んだ小説(2020年に読んだ、であり、発表年を問わない)ベストを決める企画です。本日時点までに読んで面白かった小説からの以下のノミネート作品、さらにあるかどうか分からないが年内に追加で読んで面白かったものを加えた中から最終選考を行い、大晦日に結果を発表しますが、大晦日の酒の入り具合によっては忘れてそのまま年を越します。

 振り返ると今年は読書量がめちゃめちゃ少なかった。生活が忙しかったのと、通勤時間の読書が消えたからですね。コロナ許せねえ。通勤時間が減ったのは神。来年はもっと読んでいくぞ。

去年の

『その日、朱音は空を飛んだ』 武田綾乃

 学校の屋上から飛び降りたクラスメイトの死をめぐり、クラスメイトたちの証言と思惑が錯綜する青春ミステリー。小説というのは基本的には気持ちを、感情を描くもののはず。いやそうではないという主張を持っている人もいるだろうけれど自分はこう考えていて(お前の書いてる小説そうなってるか?とか言わないでくれ)、その点、この作品は2020年ベストオブ感情だった。導入や序盤はそのすごさが見えにくいところがあるんだけど、後半で絶対良くなるから、ともかく絶対に読んで欲しい。

『首無の如き祟るもの』 三津田信三

 ミステリとホラーの境界線を攻める刀城言耶シリーズの第三作。一作目二作目を読んでなくても大丈夫だとは思うけど一応一作目から読んだ方が良い。因習の村に根付く首無という怪異と、首無し死体という本格ミステリの型のマリアージュ。単にオープンエンドっぽくしてミステリかホラーか分からなくさせるというのではなくて、オチの付け方の跳躍感も圧倒的で、そうきたか、と高まってしまうぞ。

『まほり』 高田大介

 二重丸が書かれた紙が至る所に貼られているという都市伝説から始まり、「まほり」の因習の謎に迫っていく民俗学ミステリ。膨大なテキスト量、探るにつれ不穏さの高まっていく謎の集落、そのプロットの中に光るキャラクターの魅力、そしてラストのぐっとくる収斂、こういうのが読みたかったんだよの連続。読むべき。

笹NOTY2019ノミネート作品

 2019年に読んだ小説で良かったやつ特集(2019年に発表された作品では全然ありません)。まだ半月あるからダークホース情報を募集しています。

『虚構推理』 城平京

 妖怪とか好きだし、都市伝説とか好きだし、変則ミステリ好きだし、説得力さえあればいい理論好きだし、やたら強い(不死身)男と毒舌美少女のバディも好きだし、基本全部好きなのにむしろなぜ今まで読んでいなかったのかくらいの作品。1月からTVアニメも始まるぞ!(すごいアニメにしにくそうだが……)

『マルドゥック・スクランブル』 冲方丁

 カジノでどんだけ引っ張るんだよ。そしてなんでカジノだけでこんなに面白いんだよ。ここまで作者がやりたいことをやって、それで読者が楽しくなったらそれはもう小説として最高だ。武器と人間の緊張感をネズミと美少女でやっていく。やっていけ。

『図書館の魔女』 高田大介

 最高のファンタジー小説。最近ファンタジーを読んでない人は今すぐ読んだほうが良い。超弩級ファンタジーであり、言葉の話であり、図書館の話であり、ボーイミーツガールであり、ファンタジー小説って面白かったよねという気持ちを思い出すことができる! きり。